第126話「爺ちゃんは戦争に行った②」

 ある日、爺ちゃんの手元に赤紙が来た。

 昭和19年の、ある日に……爺ちゃんは、当時29歳だった。爺ちゃんに見せてもらった、親父かと思った古ぼけた写真は、その時のものだった。


「爺ちゃんは、撃ち合いしたの?」


 と、僕が聞くと……



「う~ん……」


 と、爺ちゃんは、なんて話したらいいのか、迷ってる感じだった。しばらくして……


「夜間の見張りの時に、撃ち合いがあったよ。爺ちゃんたちは、前線だったけど、そんなに敵がいる所ではなかったから、そんなに撃ち合わなかったんだよ」


 と、話してくれた。


「見張りしていると、他の見張りが、パンパンと撃つのが聞こえてなあ。爺ちゃんも、銃をかまえて、身をひそめたんだよ。夜中に、銃を撃つと、こう、弾が光の線を引いてなあ、飛ぶんだよ。だから、あの辺かなあと思って、弾をぶっ放したんだよ……」


「当たったの?」


「いや、わからん。朝に、他の部隊が、敵の死体を見つけたらしいって話しを聞きはしたけど、爺ちゃんたちの撃った所には、誰もいなかったなあ。」


 と、爺ちゃんは言った。


「爺ちゃんたちの部隊が、本格的に撃ち合いになった頃には、爺ちゃんはアメーバ赤痢にかかってしまって、後方の病院にいたんだよ。だから、あまり撃ち合いはなかったんだよ。」


 と、爺ちゃんは言って、お茶をいれ直していた。

 きっと、いろいろと話せる事はあるのだろうが、僕がまだ小学生という事もあり話しはここまでだった。


「爺ちゃんは、当時の部隊長には、よく可愛がってもらったんだよ。なにかにつけ、ちょっと来い!!って、士官室に呼ばれてなあ、靴を磨いたりとか、いろいろ身の回りの手伝いをさせてもらったんだよ。」


 部隊長は、軍曹だか少尉だったかで、最期まで部隊を率いて最前線へ行っていたそうだ。


「そのうち、アメーバ赤痢になってなあ。軍隊は、弱った人間は置いて行ってしまうんだけど、その時、部隊長に呼ばれてなあ、他にも何人か赤痢がいたから、トラック呼んで病院に搬送される事になったんだよ。そん時、部隊長に殴られてなあ……『貴様らは、お国の為に戦っているのに何事だあ!早く治して前線に復帰しろ!!』ってなあ。でもあとになって、なんで殴られたのか分かったんだよ」


 と、爺ちゃんは言った。


「アメーバ赤痢になると、下痢になって身体に力はいんないんだよ。トラックの荷台に乗せられて、病院に運ばれていくんだけど、みんな垂れ流していてなあ。そのうち横の奴が動かなくなるんだよ。声かけても返事がなくてなあ。そんときに分かったよ、部隊長が俺を殴ったのを。病院に行くまでに死なないよう、喝を入れてたんだなあ」


 と、爺ちゃんはその時の情景を思い出していたのだろう、本当に本当に遠い目をしていたのだった。


つづく


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