第53話「透明傘」

透明傘が流行った時があった。小学校6年生の時だ。カズが雨の日に持って来た、透明のビニール傘。


 当時は、みんな自分の傘を持っていて(お父さんと共有とかではなく)透明傘は非常用のイメージと、あと貧乏くさいイメージであまり好まれなかった。ドラマだと、安アパートに隠れる犯人が持つ傘や、刑事が格闘していいように持つ傘なイメージだった。


 それに「質」も関係していたように思う。ビニル傘は良く張り付いて、開かなくなるのだった。ムリに開くと……


バリバリバリ


 っと、傘の骨が折れることがあった。だから濡れたビニール傘を置く時は、キッチリと巻いてしまわず、開いたままか、ルーズに巻いてしまっていたのだった。(そういう感じが、またまた貧相感をアップしていたのだった)


 ところが、6年生ともなると普通の傘には、飽き飽きしているから、カズの持って来たビニール傘が、輝いて見えたのだった!!


 まあ当時は、今までとは違った、もっと透明で質の良いビニール傘が出たのも関係していた。こして6年生から始まった「ビニール傘」のブームは、瞬く間に全学年へと広まった。そもそもビニール傘は、非常用だったから店に置いてあっても数本だった。今ほどメジャーではなかったのだ。というわけで、僕らの住んでいる地域一帯で、ビニール傘が品切れになる事態となった!


 そんな事とは知らない我が6年2組。流行の最先端だったから、広まった頃には透明性に飽きてしまった。でも捨てるのはもったいないので……落書きが始まった!


 6年生では漫画雑誌が流行った頃で、みんな良く漫画のキャラクターをマネて描いていた。マジック一本あれば、世界に一本だけの「マイ・アンブレラ」の出来上がりだ!僕は、赤いマジックで描いていた。もちろん赤と言えば、この当時……シャアザクだった!


 絵が描けない奴は、色とりどりに塗っていた!おいおいそれじゃあ、ただのカラフル傘だろ!!(そういう傘があった)とは思ったが、自分で傘の色を作れるのは楽しそうだった。


 てな訳で、これも瞬く間に広まった。が、しかし!ここでPTAからクレームが入った。風紀的にどうか!?という事だった。当時は物を大切にし、長く使うのが大事だったからだ。


 まあ、確かに色とりどりの傘が、道路中にはあると色の洪水だもんなあ。でもって、段々と色も落ちるし、みすぼらしくなった。結局、透明傘も持つのは良いが、色を塗るのは禁止になった。


 そうそう、透明傘がこれだけ普及したことに利点も発見された。翌年の1年生の傘は、周りが良く見えるので、安全であると透明傘が推奨されたのだ。でもドライバーからは、見ずらいという理由で、またまた黄色になったのだった。


おしまい

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