第52話「傘のすぼみ方」

僕の小学時代のお話しだ。

雨の季節。家の玄関の傘立てには、傘が貯まっていた。そして傘から流れる雫が、傘立ての受け皿に溜まり、溢れて玄関の床に広がっていた。


「ミズキ、ちゃんと傘の水を払わないと!」


雑巾を持って来て、玄関の床を拭きながら婆ちゃんは僕に言った。僕は学校から帰った時、傘はそのままで傘立てにしまっていたのだ。


「こうやってやるんだよ」


と、言って婆ちゃんは、僕を玄関の外に連れ出し見本を見せた。


サッサッ


と、婆ちゃんは傘を振り水を切った。

それからしばらく日が経っての事。僕は爺ちゃんと雨の中、本屋さんに買い物に出かけた。家に着き……


サッサッ


と、傘を振っていると……


「ミズキ君、そんなに傘を振ると傘が壊れちゃうよ!」


と、爺ちゃんが言った。


「だって、傘を振らないと水が払えないよ!」


と、僕が言うと……


「ミズキ君、傘のすぼみ方は、本当は振るのは良くなくて、開いたり閉じたりするのが礼儀なんだよ」


と、爺ちゃんは言った。


「それに……その方が壊れにくいと新聞には書いてあったよ」


とも付け加えた。 それを聞いて当時の僕は、なんだ!新聞の請け売りか~と思ったものだ。

でも今になって思い出してみると、実は爺ちゃんは、新聞の請け売りだけで言っただけでなく、婆ちゃんの事も気を使って言ってたのかも知れないと思うのだった。


おしまい

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