第八話 個性は天からの贈り物

 ヒロシは満身の力を込めた叫びと共に――――ユイとミサキの間に割って入った! 


「お前たちッ! 冷静になれ! ここは他人様の店の中だぞ!?」


 決死の覚悟で停戦を促す。


 一瞬のうちに湧き起こった気合い。そのエネルギーを利用して全速力でその場を逃げることも出来たのだが――――


(このままつまんねえ理由で街をメチャクチャにされて堪るかよ!!)


 ――――ヒロシは、訪れたばかりとはいえ憧れの土地を破壊され尽くされることだけは嫌だった。


 もっとも、このまま逃げようが下手すれば世界中消し飛ぶかもしれない(と、それほどの争気を感じた)ので、逃げる選択肢はすぐにヒロシの頭から消えた。


 しかし、二人は気炎を吐きながら咆哮する。


「ふざけるなーっ!! この怨敵・ミサキは余のファッションセンスを否定するどころか、尻軽のビッチとまでほざきおった! 死すら生温いわーっ!!」


「許せるかーっ!! この蛮族・ユイはヒト科メスがヒト科オスと同等に大事にしている身体の部位(悲乳)を嘲ったッ! これほどの屈辱があるものか! 此奴だけは捨て置けぬゥーっ!!」


 二人の凄まじい殺気に押し潰されそうになる。


 だが、ヒロシは勇気を翻し、説得を続けた! 


「……そんなことはねえッ!! 一子相伝の殺人拳の子よ!」


 まずユイの方から声をかける。


「ファッションセンスがなんだ! そんなことで他人を貶める道理はねえし、自分の道を突き進んでるんだから、何も動じる必要はねえ! 俺はミニスカ、イイと思うよ! うんっ! 健康的!! うんっ!!」


「……え、そ、そうかな……」


 ユイの殺気が弱まってきた。畳み掛けるようにヒロシは続ける。


「オトコとの遊び方は結局、てめえの責任だ! 他人から罵られて減るようなもんじゃあねえんだよ! 派手に遊んでねえってんなら尚更怒る必要なんざ全くねえッ!!」


 その言葉にユイの闘争心は収まっていく。


 続けてミサキにも声をかける。


「雪原迷彩SR-47の子も! 悲乳がなんだ! そんなことで振るようなオトコはおめえの中身をまるで見てねえ! そんな野郎のことなんか器が知れてるぜ!!」


「う……そっかな……まだ希望を捨てなくていいのかな……」


 ミサキもユイと同様に殺気が少し収まった。


「それに……世の中には乳を単なる『余分な脂肪として見てくれる』オトコだっているんだ! 挫けるなーッ!!」


 ――――両者とも殺気はかなり収まった。もう某世紀末救世主伝説のようなこわばった顔から普通の日ノ本人女子の顔に戻っている。


「わかってくれたか!? わかったら拳をおさめろ! 銃を下ろせ! いいなっ!!」


 二人は殺気を完全に解き、緊張を緩めた。


「ぜえっ……ぜえっ……ハーッ……ハーッ……ふうーっ……」


 ヒロシは地雷原にでも全裸で突っ切るような気迫と覚悟を絞り出したので疲労が一気に込み上げてきた。


 二人の争気が収まったのを確認し、呼吸を整え直して二人に改めて語りかける。


「……いいか? 人はみんな、等しくすっげえ良いものを持って生まれてくるんだよ。それが、ファッションセンスが独特だろうが、身体の造形が小さかろうが、その持ってるものの価値は等価値イーブン。そこに『悪い』だけのものなんか存在しねえんだよ……時と場所と相手が違えば、『良いもの』に早変わりすっかも知れねえ。個性オリジナルは表裏一体。誰にも否定したり、傷付ける権利なんかねえんだ」


「は、はい……」

「そ……そっか」


 ヒロシは眉根を引き締めて続ける。


「……だから、そんな変えようがない神様からのギフトを馬鹿にされたからって戦争を起こすんじゃあねえっ! 例え親友同士だったとしてもだ! ましてや他人をまきこむなんざな!? ……それが、互いを大事に、尊重し合って生きるってことのほんの一部だ!!」


ユイとミサキはしばし呆然としたが、すぐに平身低頭した。


「す、すみませ〜ん……」

「ごめんなさい……」


 そして、すぐにお互い向かい合って手を握り、心から詫びた。


「ごめんね、ごめんね、ミサキ! 気にしてるの知ってて、酷いこと言っちゃって! お願い、許して……」


「……いいの、ユイ。私こそイライラしてて、ついカッとなっちゃって……ホントごめん! こちらこそ許してね……」


 二人は争いの惨さを思い、涙目になって身体を揺らしてお互いに謝罪した。実に純真な女子そのものである。先ほどの某世紀末(略)の闘士のような面影は多元宇宙の彼方にでも消え失せたようである。まるで嘘のように……。


「……はあ……それにしても……私たちのために本気で怒ってくれて、でも人間性を尊重してくれて……なんかありがたいなあ〜……」


 ユイが顔を赤らめてヒロシを見て言う。ミサキも続けて紅潮して言う。


「ホント、ホント! ……やっぱ、彼氏にするなら、こういうオトコかなあ……な、なんて……へへ」


「お?」


 二人からの思わぬアプローチに、ヒロシは少し浮かれた気持ちになった。


「はは! じゃあ、俺が服でも選んで――――って……」


 そこで、ふと思い出した。


 さっき酒場・マインドトリップで出逢った女性……ユカリの顔を。


 別に恋人同士になったわけじゃあない。


 それでも、異性として妙に惹かれるものがあるユカリの屈託のない笑顔を思い出し……ヒロシは思い直した。


(……傾奇者の俺なんかを応援してくれてんだよな……なんつーか……裏切りたくねえ。妙に引っかかるな、ユカリのこと)


「……ふっ。残念ながら……恋人申請はNO THANK YOUだぜ……今のところ、な……」


 そう艶っぽく、しかしおどけて答えてみせるヒロシに、キャー、と嬌声をあげる女子二人。


 二人が何やら店内に置いていた自分たちの道具鞄から取り出し、ヒロシに差し出す。


「貴方も傾奇者なんだよね? 良かったら、受け取って!!」


「私からも……友達と仲直りさせてくれたお礼。役立つといいな……なんて!」


 そう言うとユイからはかなり年季が入っていそうな、しかし先ほど武具店で目にした太刀よりかなり威力がありそうな――――古い刀剣を受け取った。


 次にミサキからは修羅場を掻い潜って来た猛者の残り香すら感じそうな大口径の拳銃――――マグナムを受け取った。


(おいおい、日ノ本も物騒になったもんだな……だが……ヤマベ博士のアドバイス通りならこれぐらいは必要かもな)


 ――――ヒロシは『ゲンジバンザイソード』と『44マグナム』を手に入れた!! 


 ――そして、胸元の傾奇メーターが緑色の輝きを放つ――――



 喧嘩を穏便に仲裁したヒロシは傾奇ポイントを七十ポイント手に入れた!! 


――――現在ヒロシの傾奇ポイント百五十ポイント。予選終了まで三時間二十八分。予選通過に必要な傾奇ポイント百五十ポイント――――

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