14.0話 姉妹入浴
憂は肉じゃがをご飯に乗せて幸せそうに食べている。
晩ご飯はみんな一緒に食べ始めた。私を含めて、みんなとっくに食べ終わってる。
しばらくお父さんも剛も付き合ってあげてたけど、今は居間でTV鑑賞中。
……あれ?
今はリビングでTV鑑賞中。
憂がお茶をひっくり返したロスタイムが痛かった。箸を置いて、右手で掴もうとしたんだよ。右が弱いのを忘れちゃうんだろうね。手前にコップをひっくり返したからびしょ濡れ。また着替える羽目に。
後はお風呂くらいだから、パジャマに着替えさせた。薄い水色パジャマ。丸襟で首元に結ぶタイプの白いリボンが付いてる可愛いのだったんだけど、リボンは憂が引き抜いちゃった。
食事中はお母さんが憂から上手に話を引き出してた。だからお父さんも剛も結構、普通に話せてた。団らんっていいよね。
私が『
話題はなかなか尽きなかった。でも、ある程度にしないと憂のご飯ペースが……ね。それでなくても遅いのに。せめて1時間に抑えないと。
あと、会心作だったはずの手間暇かけたお弁当は憂に不評だった。
可愛すぎて食べにくいってさ。そんな理由なら仕方ない。明日からは普通にしてあげるつもり。
憂が最後の一口を口に運ぶ。もぐもぐ
私もお母さんもその様子を頬杖ついて眺めてる。それだけ美味しそうに食べて貰えたら、お米もお肉も野菜も幸せでしょうよ。
憂は箸もお茶碗も置いて、
「ごちそうさま――でした」
「おそまつさまでした」とお母さん。
こう言うところ、憂は本当にしっかりしてる。
姿が変わってから見るとね。なんか……こう……ほっこりする。
いつまででも眺めてたいけど、そうもいかない。時間はもう8時半過ぎ。お風呂と明日の支度が残ってるからね。
「憂? お風呂……行こっか」
食べ終わった直後で申し訳ないけどね。
「――え?」
え? ……じゃないでしょ。まぁ、分かってたけどさ。そんな嫌そうな顔されるとちょっと傷付く。
「でも……1人じゃ……ダメ」
不満そうだけどね。先生も専属の皆さんも、1人でお風呂はまだ危険だって言ってたんだよ。
「誰と……入る?」
憂の表情が固まる。たぶん、考えてるとかじゃない。普通に固まってるはず。
「私と入る?」
お母さんが聞いてみる。ぷんぷんと頭を横に振る。振りすぎで脳震とうとかやめてよ? ま、高校生になってお母さんとお風呂は無理だよねー。
憂は下を向いて動かない。困ってる困ってる。やっぱり私が無難じゃない?
お。顔上げた。どことなく凛々しい表情。覚悟を決めたんだね。さ、行こう?
「――――お兄ちゃん」
「ぶふっ!?」
吹き出したのはもちろん剛。私も想定外なんだけどさ。
剛を見ると、なんかわたわたしてた。
ぷぷっ。どうすんの?
「憂……ごめん……。それは……無理………」
ま、そうだよね。一緒に入るって言ったら、それはそれで軽蔑してたかも。
憂は安心したような残念そうな……この子も複雑だね。
とにかく、これで決定。
お父さんが見てる。それはないない。……って言うか、期待してるんじゃないでしょうね。構って欲しかっただけだと信じたい。
「――――お姉ちゃん――おねがい――します」
結局、真っ赤になって、お願いしてきた。最初から頷いておけば良かったんだよ。
「うん。先に……行ってて」
着替え用意してくるから。
自分の着替えと憂の下着を用意してたら、思ったより時間を取られた。憂は下はパンツも替えたけど、ブラは替えてないからね。どうせ替えるなら上下セットじゃないと。可愛いの選んでたら、ちょっと迷った。
慌ててドタバタと階段を下りて、脱衣所のドアを開ける。転んでませんように。
ドアを開ける。憂は下着姿だった。困った顔で私を見る。どしたの?
「これ――とって?」
振り向いて背中を左手で指差す。ホックが外せなくて困ってたのか。こんなの簡単。慣れれば片手で外せる……って、そっか。右手、利き手が不器用だからね。
「自分で……外す……練習……しようね」
言いながら外してあげる。憂の返事は無い。
「憂?」
顔だけこっち向く。
「――うん」
「――しかたない――」
……複雑だね。
私はワンピースを脱ぐ。頭からスポッと。
一瞬、視界が暗くなって、すぐに
「ごめん――」って、すぐに視線を逸らせた。だけど見ちゃったよ。目が合う直前、視線がちょっと下だったね。
見てたな。胸。ブラしてるけど。
やっぱり思考……本能? ……は、男の子なんだよね。不憫な子。
でも、慣れなきゃね。学園での着替えどうすんの? プールどうすんの?
「いいよ……みても……」
言いながらブラを外す。
「え――!?」
ちょっと遅れて反応した割には動揺した声。遅れるのは仕方ないんだけどね。
私を見て、またすぐに背中を向ける。んー。困った子だね。
パンツを脱いで洗濯機に放り込む。
それから憂の肩を掴んで、くるんと回す。
「わっ――」
あっ! 危ない! バランス崩しちゃった。ごめん。支えられて良かった……。
「ね――姉ちゃん――!?」
「
……可哀想なほど動揺してる。肩を掴まれて動けないもんだから、あっち見たりそっち見たり。私の訂正も聞こなかったかも? でもね。
「見なさい」
大丈夫。この子は憂。優じゃないから恥ずかしくない。今だけそう思おう。前はそのせいでこんな傷、作らせたんだけど……。
「――――なんで?」
憂は視線を逸らしたまま。
「慣れないと……ダメだから……」
小さな両肩を離して、今度は頭を固定する。
「うぅ――」
私の目を見詰める。涙がいっぱいに溜まってる。羨ましいほど綺麗な目……。
目を見てるのはささやかな抵抗。まだ抵抗するか。頭を下向きで固定。これでどうだ。あー。恥ずかし。
見てるかな? 目、つむってないよね?
たっぷり3分ほど、そのままにしてみた。そして解放。
解放したら、両手で目の辺りをごそごそ。やっぱり泣いちゃったか。
「……ごめん」
小さな声で謝罪。私だって恥ずかしかったさ!
憂が固まった。下を向いてるから表情は分からない。私が向かせたんだけどねっ!
我ながら変なテンションだよっ!!
「――うん」
動いたのは1分くらい後だった。意図は察してくれてると思う。
「――でも」
……でも? お。顔上げた。すがるような目。
「――こういうの――やめて」
小首を傾げて固まる。表情も動かない。また話しながら忘れちゃったんだね……。
「姉ちゃんと――いっしょ――はいって」
「ちょっと――ずつ――なれる――から――」
…………。
ちょっとだけキュンと来た。ちょっとだけ……ね。
「わかったよ。もうしない」
えっと……一言、伝えたい。私にとって大事な事。
「私も……恥ずかし……かったんだよ?」
この子に痴女だって思われたらさすがに嫌。
憂は何も言わずにパンツを下した。しゃがんで手伝ってあげる。何か言ってよ。もう遅くて、すでに痴女の烙印……とかじゃないよね?
憂は黙ったまま、手伝わせてくれた。1人で出来るって怒らない。ちょっと……憂?
「わかって――る――ボクの――ためだって」
はにかみながら笑ってくれた。強い子。ちょっと感動したじゃない。
笑顔でお返し。ぎこちなくなかったかな? まださっきの照れが残ってるから。
浴室の床は乾いてる……ね。確認してから憂を先に浴室に入れて、洗濯機を回しておく。
別に父さんや剛のと一緒に洗うのが嫌なんじゃないよ。お風呂前に回しておいたら、お風呂上りに干せるじゃない? 単なる習慣。
浴室に入ろうとしてたら、憂がほぼ全身を見られる鏡を見詰めていた。左手で顔をぺたぺた触ってる。見惚れてたり? ちょっとだけ観察してみる。
左手が下がって、AAカップの胸で止まる。憂は眉をひそめた。やらしい気持ちじゃないみたいだね。ふにふにした。こらこら。
とめようかと思ったけど、憂の泣きそうな顔を見てやめた。本人の意思に反した性転換。それを乗り越える為の行動かも知れないから。
左手は更に下がる。大事なところ。触れただけで動かない。固まった。
少ししてポロポロ泣き始めた。大粒の涙。何やってんだか。想像は出来るけどね。
大事な物を無くしちゃって、寂しいとかせつないとかでしょ。
遮るために憂と鏡の間に割り込む。
「ちょっとずつ……慣れる……って」
自分が言ったんでしょ? 人の体だけじゃなくて自分の体もね?
憂をそっとハグしてみた。なんかさ。いたたまれなくなって。
あー。顔がちょうど胸の高さだよ。まぁ……いっか。
少ししたら、憂がギュってしがみ付いて声を上げて泣き始めた。不安なんだよね。誰でもいいからすがりたいんだよね。そりゃそうだよね。落ち着くまでこのままにしてあげるよ。私も恥ずかしいやら何やら……いっぱいいっぱいなんだけどさ。
『憂さんって、よく泣くけど声は上げないんですよ』
これは面会の時の恵さんの言葉。昨日のお風呂はパニックだった。病院では看護師さんの付き添いがあったみたい。初めて自分の裸をじっくりと見たはずなんだよね。溜め込んでたものが吹き出したのかな。今は泣いてもいい環境だからね。
「ぅぐ――ひっく――」
泣きすぎてしゃっくり。あれって何でだろうね。しゃっくりは横隔膜のケイレン。いっぱい泣くと横隔膜に何か起きるの? ま、どうでもいいや。
憂はかなりの時間、泣き喚いた。10分は超えてたと思う。
途中、お母さんがこっそり覗きに来た。脱衣所の鍵、ちゃんと掛けてたのにわざわざ開けて。脱衣所と浴室とのドアは開けてたから、ばっちり見られた。裸で抱き合う姉妹。
お母さんは目を丸くして驚いてた。驚いた後、にこにこしながら、うんうん頷いてた。
「――ひっく」
「落ち着いた?」
2回ほどしゃっくりしてから頷いた。
「――ごめん」
「いいよ」
大泣きした事だよね? しかも私の胸で。生ちちで。
「――あんな――ないて――ひっく」
止まらないね。しゃっくり。
「――はずかしぃっく」
言葉にしゃっくり繋がってるし。
「うぅ――もう――」
「大丈夫?」
背中を擦ってあげる。
憂は私を見上げる。じぃーっと凝視。
な……なによ? 目を逸らしたら負けな気がして私も見詰める。
「――お姉ちゃん――やさしく――なった」
失礼な。
「元から……よ」
小首を傾げる。失礼な。
……って、これは冗談。考えてるんだよね。ううん。思い出してるのか。
「――そう――かも」
かもってなによ。
あ。そう言えば……。
「しゃっくり止まったね」
また小首を傾げる。短い言葉だから大丈夫だと思ったんだけど。
「――――ひっく」
あれ? 止まったと思ったのに。
「――おもい――ださせる――から」
不満そうに唇を突き出す。これって私のせい?
「わぁ――」
納得いかないから、やや強引に座らせる。憂の為に買った椅子。どんどん、憂用の物が増えてくね。
私は椅子の後ろに回り込む。
シャワーを出して、温かくなるのを確認して頭にかける。憂は体を丸めて、下を向いて、お任せしますの姿勢。自分で洗い辛いのは、昨日で実証済。シャンプーを手に取って、頭のてっぺん辺りで広めに塗って柔らかくわしゃわしゃ。泡立てて毛先まで広げていく。
1度流してから憂の丸まった体を起こす。身長差が激しくて腰にきたから。
そして、またさっきと同じように泡立てて。それからは頭皮を揉むように洗う。頭皮全面洗ったら毛先に向かって撫でていく。
毛先に向かうにつれて色が明るくなっていく憂の髪。『赤ちゃんの髪の毛が成長するようにだんだんと黒くなっていく
洗い終わったら流して、コンディショナー。これもシャンプーもしっとりタイプ。憂の髪って柔らかすぎて、そこそこ長さがあるのに激しく寝癖がつくくらいだからね。
おっけー。頭は完了。髪の毛の水分を軽く飛ばしてから声を掛ける。
「終わったよ」
憂はシャワーのお湯をすくって顔をぱしゃぱしゃ。
「ぷぅ――」
可愛く息を吐きだした。
「耳……入ってない?」
すぐにこくんと頷く。良かった。私、介護の仕事できるかも。とか思ったら本職に失礼かな。
洗体用のタオルを手に取って、ボディーソープをプッシュしてわしゃわしゃ。
ボディーソープは薬用。敏感肌用。肌に異常は見つかってないけど一応ね。
憂の背中を押して、前かがみにさせて、背中をごしごし。丁寧に優しくごしごし。
「はい」
背中を洗い終えたら後は憂の仕事。
タオルを受け取った憂は立ち上がる。床、滑るよ。
はらはら見てたら体を私に向けて言った。
「――せなか――ながす」
ん。これは嬉しい。ちっちゃい頃に流してくれた事、何度もあったね。
憂を椅子に座らせてから憂の前に背中を向けて座る。
「お願いね」
背中を擦り始めてくれる。ちから、本当に無いね。ちっちゃい頃とおんなじ。もっと擦って欲しい感覚。じれったくてむず痒い。懐かしいなー。
懐かしさに浸ってたら結構、長い間、流させちゃった。とめなかったらいつまでごしごししてくれるんだろう?
「ん。ありがと」
試してみたい誘惑にかられたけど、さすがにそれは申し訳ない。
「――いつもの――おれい」
「お礼なんかいらないよ」
わざと早口で言って、少し経ってから振り向く。
案の定、憂は小首を傾げて困ってた。
だってさ。折角、思い出に浸ってたのに、迷惑かけてごめんなさい……みたいなの嫌じゃない? 迷惑なんてこれっぽちも思ってないし。むしろ、優の小さかった頃とかぶって楽しいくらいだし。
「さ、洗っちゃお?」
憂は私の言葉を受けて洗い始める。私は座ったまま憂のほうに向き直る。きちんと洗えるかチェックしないとね。
じっくり見たら、不憫に思えてきた。
完全にロリっ子だからね。
身長が伸びる可能性は限りなく低い。それは良しとして、女性としての成長。これは完全に不明。長い意識不明から目覚めて、食べ始めてからガリガリだった体に脂肪が付いてきた。そのお陰で当時よりは随分、健康的になった。体重の増加分、胸が膨らんだ。でも胸はこのサイズになってからというもの、体重が増えても胸が成長してない。このまま、女性としての成長をしない可能性の方が私は高いと思う。
だとしたら、ずっとロリっ子。
でも、この二次成長期入りたてくらいの体って綺麗だと私は思う。
あれ? なんか意味分からなくなってきた。成長して欲しいのか、このままでいて欲しいのか自分でも判らないや。
結局、憂の自身の洗体に全く問題は無かった。
大事なところも上手に洗ってた。看護師さんにレクチャーして貰ったんだと思う。
体の泡を流して、憂が浴槽に入るのを手伝ったら私の番。頭はやめておいた。憂が泣いた分、時間使っちゃったからね。
体を洗い終えて、少しの間だけ一緒に入った。見られるのも見るのも恥ずかしい様子の憂が小さい体を丸めて、もっと小さくなってたのが可愛かった。
ちょっとだけお風呂に浸かってすぐに出た。
憂は私より先に入ってたからね。のぼせちゃったら大変。お風呂を出るのも、体を拭くのも、手伝いやら見守りやらしないといけない。傍にいないといけないから、私は雀の行水。憂の為だから問題ないけどね。
憂はバランスを崩す事もなく浴槽から出た。体を拭くのもまぁまぁスムーズ。手伝える事が無かったから、ちょっと寂しい。
憂の体はほんのりピンク色。綺麗だね。
パンツは自分で履けた。ブラは付けてあげた。カップの中を整えるために手を入れたら「うひゃ――」とか、色気の無い声を出してた。付け終えると感心したように「――おぉ」ってさ。
付け終わってから、ブラの付け方を教えてあげる予定だったのを思い出した。また今度だね。
ちょっと離れて、下着姿を観察。うん。似合ってる。
あの時、薄いサックスのレースとか無いシンプルなものを選んだ。
うん。似合ってる。この子には淡い色がよく似合う。色んな色を使ったようなものだとダメだと思う。今度、着せ替え人形にして試してみよ。
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