3.0話 転入面談

 


 ―――5月8日月曜日。



「白鳥先生、ちょっと宜しいですか?」


 職員朝礼が終わり教室を出ると、教頭先生に呼び止められました。

 普段はC棟……と言うか、棟ごとの朝礼にはほとんど顔を見せられないのに珍しいですね。


 この教頭先生は腰が低いんです。1万人近い生徒数を誇るこの学園は教員の数もそれに合わせて凄く多い。その態度で大丈夫かな…とか思ってたんですけど、この教頭先生。蓼園たでその学園、一筋。開校から今まで教鞭を握っておられるんだそうです。


「今日、貴女のクラスに転入する立花 憂さんの事でちょっと……」



 立花 憂。その名前を聞く度に心が揺れます。奇しくも昨年の5月。GWゴールデンウィーク明けの出来事でした。



 昨年、私は中等部3年C組の担任を務めていました。その生徒の中に少し小柄で可愛らしくも活発な少年がいました。私とその生徒は僅か1ヵ月程度の付き合いでした。けれど懐いてくれた彼をよく可愛がっていたと思います。駄目ですね。生徒たちには平等であるべきです。


 でも、その生徒。立花 優くんは私にとっての特別。これからの教員生活で絶対に忘れられない、忘れてはならない存在となりました。



 GW明けの5月6日。


 優くんは部活の帰りに事故に遭いました。そして長い入院の末、亡くなってしまったんです。長い間、教員生活を送っていると悲しい想いをする事は、ままある事なのだそうです。そんな時、私たち教員の出来る事。



 それは―――『忘れない事。そして忘れてあげない事』



 死の知らせをTVで知り、沈む私を慰める為に先輩が掛けてくれた言葉です。


「そうでしたね……。立花 優さんは貴方のクラスの生徒でしたね……」


「あ。すみません。ちょっと思い出してしまいまして……」


 表情に出てたのでしょうね。彼の訃報を聞いて、まだ半年も経ってないので。


「それは仕方ないですよ」


 何とも言えない表情で虚空を見詰める教頭先生。中等部の子だったから関わりは無かったはずなのに寂しそうな切なそうな……。

 それを振り払い、表情を繕われました。


「転入する立花 憂さんですが、蓼園たでその商会の前会長……。つまり総帥に関係する子だそうで……。色々と問題を抱えているそうなんですよ」


「後遺症とか……そう言った事は少し聞いていましたけど……蓼園会長の……? その情報は知りませんでした」





 ―――蓼園商会。蓼園グループ総本山。蓼園グループは消しゴムから航空機までをコンセプトに――航空機の製造は開発段階だが――、あらゆる製品の企画から販売までを手掛ける、今や日本全土に知れ渡った特大グループである。


 十数年前からは、企画製造販売に留まらず、多方面にその手を拡げている。


 30年ほど前に本社を何の変哲も無い町に移した蓼園商会はこの町に根を張り、グループ各社ごと着実に地域に根付いた。

 15年前には町は蓼園市と名前を変えた。

 近い将来、政令指定都市入りを果たすであろうと言われる、目下、急成長中の都市。それが蓼園市だ。


 この私立蓼園学園は蓼園商会の本社移転に際し、真っ先に建設された。人は柱。人は石垣である。


 本社を移転し、学園創立を押し進めた人物こそ、蓼園商会会長、元蓼園グループの事実上CEOの蓼園 はじめである。


 立花 優は、この蓼園市の商業の中心地。巨大なショッピングモールである蓼園モールの、東館と西館を繋ぐ歩道橋から転落し、運悪くそこを通りがかった蓼園会長の車列に撥ねられた。これは当時、大きなニュースとなった。


 そして、今年に入って立花 優がその短い生涯を終えると、その直後に蓼園 肇は蓼園商会会長職を辞したのだった。

 蓼園 肇は事故に直接、関与していない。頭上から転落してきた優を、車列は避けられるはずもなかった。しかも肇は後部座席に乗車していただけだ。


 辞任の会見で肇は記者の質問に対し『これはケジメなんです。人を人と思わぬ人で無かった私に優くんは身を持って、人と云うものを教えてくれた。人に戻った私は俗物に成り下がった。今はもう単なる人間なんです』と語った―――



「優くんの事故に関与した総帥の関係者が憂さんですか? なんか……気持ち悪いですね」


「そうなんですよね。今回のクラス編成に関しても総帥の威光が強く働いているそうでしてね。何でもご家族の要望らしいですよ。貴女が担任と言う事を含めてですね。隠居されたとは言っても、その力は今も健在なんでしょう。立花さんの扱いには十分、気を付けて下さいね」


 扱いに気を付ける……。何かあれば簡単に首を飛ばせると言う事でしょうね。


「はい。ありがとうございます」


 教頭先生は私の言葉に満足したのか、きびすを返して職員室に戻っていかれました。



 憂さんが到着し、待機しているはずの応接室に行く間、色々と今年度の事を振り返ってみました。私の中等部から高等部への持ち上がりは、この学園では珍しくはありません。外部からの受験で高等部は一気に生徒数が増加しますが、その内の3割ほどは、中等部からエスカレーター式に上がってくる生徒たちだからです。


 けれど、確かに今のクラスの面々を思い返すと違和感が生じます。去年の中等部3年C組から現在、私が受け持つ1年C5組へ進級した生徒とバスケ部出身の生徒が妙に多いんです。偶然……は、ちょっと考えられないですね。何かあると考えておいて問題ないでしょうね。



 物思いに耽っている内に応接室です。1つ深呼吸してノックします。


 トントン――。


 ガチャ――。


 ……ちょっと驚きました。ノックした途端、ドアが開くとは思ってなかったので。


「白鳥先生。お待ちしておりましたよ」


「が……学園長!?」


 挨拶も忘れてました。ロマンスグレーの頭髪に、楕円の眼鏡。初等部~高等部と統括しておられる学園長が、まさか転入生の面談に同席されるとは思っていなかったんです。当園では基本、事前に入学説明を済ませます。今回の立花 憂さんに関しては退院が前日だった為に転入当日の今日、こうやって面談する事になったんです。


「白鳥先生?」


「あ。すみません! おはようございます!」


 慌てて体を折り曲げます。


「「おはようございます」」


 いくつかの声が重なりました。頭を上げると皆さんも顔を上げている最中でした。


「え!? ええ!? え? あれ!?!?」


 もう大混乱です。憂さんとおぼしい少女の可愛らしさ……。ううん。そんなものじゃない。なんですか!? この子。有り得ないです。可愛すぎます!!


 いえ! それよりも! それよりもじゃないけど! 御両親!



 そのお二方は知っている方々でした。

 忘れもしません。忘れられません。立花 憂さんの御両親は、立花 優くんの御両親だったのです。




 混乱から立ち直るまでに少々、時間を要しました。

 学園長先生の取り成しで、席に着き自己紹介の最中です。


 私は向かい合った3人掛けソファーの真ん中に座っています。私の左隣りに学園長。ガラスのテーブルを挟んで正面のソファーには左から、父・迅さん、美少女、母の幸さん。更に3人掛けソファーの隣に置かれた1人用のソファーに憂さんの主治医の島井さんが座る……こんな形に落ち着きました。


 自己紹介は美少女を残すだけです。まぁ、間違いなく立花 憂さんですよね。


「――立花――憂――です。――よろしく――おねがいします」


「……………」


 外見に似合う可憐な声に一瞬、惚けてしまいました。この子、完璧ですね。非の打ちどころの無い美少女です。全力で守ってあげたくなっちゃうタイプです。


「憂さん、よろしくお願いしますね」


 笑顔を向けると、俯いちゃいました。照れちゃったのかな? やばいです。可愛いです。庇護欲をかき立てられます。


「それでは、こちらから宜しいでしょうか? 白鳥先生も色々と聞きたい事があるとは思いますが……」


 切り出したのは主治医の先生でした。


「……はい」


 含みのある言い方に、ちらりとご両親を盗み見してしまいました。幸い、お二方とも島井先生に顔を向けておられました。

 父・迅さんを見てる時です。ふと視線を感じました。憂さんが小首を傾げ、じっと私を見詰めてました。目が合うと俯いてしまいましたけどね。


「まず、この子……憂さんの症状に付いてですが……速い言葉には理解が追い付きません。先ほどの『よろしくお願いします』のような定型文は問題ないようですが」


 島井先生が一呼吸入れられたので、質問してみましょう。


「あの……? 一体、何が原因なんでしょうか?」


 後遺症とだけは聞いています。立ち入り過ぎの気はしますが、聞いておくべきですよね。

 憂さんを見ると、また小首を傾げて見詰めていました。また目が合うと俯かれます。

 なんでしょ? この可愛い物体は。睫毛長いなぁ……。俯くとそれがよく分かる…。


「そうですね……。幸さん?」


「はい」


 憂さんのお母さんは憂さんの右手を取り、制服の袖を捲り上げました。

 そこには黒いリストバンド。お母さんは更にそのリストバンドを外しました。


「っ!?」


 私は息を呑みました。リストバンドの下に隠されていたのは酷い傷痕でした。切り傷もありましたが……一番、大きな傷は切ったものでは無いと思います。ナイフか何かを突き立てたような傷痕……。


 幸さんは続けて、憂さんのチョーカーを外しました。


「………」


 言葉がありません。その白く細い首に痛々しい、1本の大きな傷跡……。


「自殺を図ったようです。発見された時、すでに心肺停止状態だったとの事です。一命は取り止めましたが、脳の機能を一部、失ってしまったのです。何が憂さんを追い詰めたのかは判りません。その時の事は語ってくれません。憶えていないのかも知れません」


 再び憂さんを見ます。憂さんは、またすぐに俯いてしまいました。幸さんが付け直そうとしていたチョーカーが、はらりと落ちます。


「あ……こら」


 お母さんが小声で憂さんを叱責し、顔を上げさせ、チョーカーを付け直しました。


「……その自殺の後遺症なんです」


「それは……ご本人の前で話して良いものなんですか?」


「そうですね。本来、私も本人の前で話す事柄では無いと思います。ですが、目覚めた当初は一生懸命、我々の言葉を理解しようとしていたみたいです。でも今は、こうやって早口で……彼女にとって早口で話している時は理解を放棄しています。目を合わせて話せば、早口でも頑張ってくれますがね。ですから彼女に聞いて欲しい時は目を合わせ、ゆっくりと、出来るだけ短く簡潔に、途切れ途切れに話してあげる必要があります」


 なるほどですね。理解できました。たしかに、今、憂さんは私たちの会話を聞いている様子はありません。何かを考えているかのように小首を傾げながら、私を見るばっかりです。目を合わすと……ほら…‥あれ? 今度は見詰めたままになってます。目がしっかり合うと、ちょっと照れますね。


「そうですね。そろそろ貴方の疑問に答えておきますね」


 来た! 優くんの御両親が憂さんを連れてきた理由。蓼園会長の思惑……。


「まず……私は優くんの主治医を務めていました」


「え……? 優くん?」


「そうです。白鳥先生。貴女のクラスの生徒だった優くん。ここにおられるご両親の今は亡きご子息、立花 優くんの……です」


「優くんと憂さんに何の関係が……?」


 えっと……。

 少し棘があった言い方だったかも知れません。優くんの話題が出てからもやもやしてるんです。


「優くんが亡くなった後の話です。優くんは蓼園 肇さんの……なんて言えばいいんですかね……。庇護? 援助? まぁ、そう言った感じの支援を受けておられました。総帥も事故の関係者ですので、その関係で…ですね。それで特別な病室に入っておられまして。何の因果か優くんの後にその特別な部屋に入られたのが憂さんだったんです」


 ……………。


「憂さんは、ある孤児院の子でして……。優くんの事故以降、総帥は変わりました。積極的に児童施設や老人介護施設に慰問されてまして…。そこで総帥は憂さんに出会ったそうです。優くんが亡くなったその部屋に、他の病院から意識の回復していない憂さんを転院させた……と言う訳です」


 嫌な予感がしてきました。いつの間にか強く拳を握り締めてます。

 なんか目の前が滲んできました。


「そして、その数日後、偶然、ご両親は意識を取り戻した憂さんと出会いました。同じユウさん。同じ15歳。運命の出会い……と言ってもいいのかも知れません。孤児院暮らしで身寄りの無かった憂さんを立花さんは養子に迎えたんです」


 ちょっと待って……。


「ちょっと待って……」


 言葉に出てしまいました。もうダメです。自分を止められません!


「それって……憂さんは優くんの身代わりじゃないですか! 優くんを失った立花さんの気持ちは解ります! 私でさえ悲しいんですから! それなのに!」


 あー。ダメです。涙まで出てきました。


「今の私のクラスって優くんのいた3Cの子とバスケ部の子が大勢なんです! ……おかしくないですか? ……そんな事したって………優くんは帰ってこない 憂さんを……代わり…に…したって………うぐ…うぅ…」


 何を言いたいのか自分でもよく分かりません。

 声も出なくなってきて…それでも大切な…これだけは伝えたいって言葉を絞り出します。


「優くんを……わすれで……あげないで……ぐださい……」


 気まずい沈黙が漂いました。




 やっちゃった……。




 憂さんも私に感化されたのか瞳を潤ませてました。


 そして、


「――あ!」


 と言う声と共に、驚いたような思い出したかのような、はっとしたものに変化したのです。


 御両親も島井先生も何事かと憂さんを見ます。学園長先生も。


「――おもい――だした――」


 皆さんの表情が怪訝なものに変わります。


「――リコちゃんせんせい?」


 リコちゃん先生。1人の生徒が私にくれたニックネーム。去年の4月。私が生徒たちに自己紹介した時の事でした。

 私の名前は利子としこ。この名前を古く感じて嫌いだった私は、冗談交じりに『名前で呼ばないでね。呼んだら内申に響くかもですよー』とか言った記憶があります。


 その時、『じゃあ、リコ先生でどうですか? いや、リコちゃん先生で!!』。

 そう言ったのは優くんでした。


『いいねー!』

『それでいこ!』

『優ナイス!』

『けってーい!』


 それから皆して『リコちゃんリコちゃん』って。


 それは長年、重たい雪のように積み重なったトラウマが一瞬にして溶け出した瞬間で……。嫌いだった名前を好きに思えた瞬間で……。泣きそうになって……。 


『うわー! リコちゃんが泣くぞー!』

『優! お前、謝れ! 今すぐ!』


 ……賑やかだったな。


 ……って……あれ?


 目の前の立花 ユウ・・さんを見る。可愛い笑顔で私を見詰めています。

 左に顔を向けると、お父さんの迅さんが、いつの間にか取り出したハンカチで額を拭っています。

 右に目を向けると、お母さんの幸さんが目を泳がせています。

 私のその視界の端で、島井先生が額に手を置き、天を仰いでいます。


 私は新たな疑問を口にしました。憂さんに向けて。


「思い出した……って?」


 …………。


「リコちゃん先生……なんで……知ってるの?」


 ゆっくり、出来るだけ短く区切って。

 憂さんは、少し小首を傾げて考えて……。


「あ――。――言っちゃった」


 しょんぼりと肩を落としちゃいました。それを見て何かに気付きました。直感なのかな?

 でも有り得ない。有り得ないけどそうとしか考えられない。


 島井先生に向けて話しかけます。


「島井先生。どういう事でしょうか? どうして憂さん・・・優くん・・・のように私を思い出したんですか?」


 島井先生は困った顔で悩んでおられました。



「あはははははははっ!」


 急に隣の学園長先生が笑い出しました。結構、驚きました。やめて下さい。


「島井先生。これはもう隠せませんな。白鳥先生もご覧の通りの人柄です。生徒の事を一番に思える良い教師ですよ」


 ……学園長先生の直々のお言葉、光栄です。けど、そうじゃない。

 島井先生は、うぅ……と小さく呻いた後、表情を引き締めておられました。

 何かの覚悟が決まった様子です。


「はぁ……」と1つ溜息を付いた後、切り出しました。


「他言無用でお願いします。周知の事実となれば、憂さんにとって良くない事態になり兼ねません」


 大仰な前置きでした。その後に続く話は、予想していたとは言え、実に衝撃的なものでした。


「貴方の目の前の子……。この子こそ、こちらのご両親の実の息子さんなんです。いつかは話す必要があるとは思っていましたが、まさか初日にとは…」


 後半は聞いていませんでした。


 この子が優くん? どう見ても女の子ですよ? 優くんも女の子みたいに可愛い男の子だったけど、この子は規格外ですよ? 


 それより……亡くなったんじゃないの? 亡くなったって聞いた日、泣いたよ。思いっきり。私が私の名前を好きにしてくれた男の子だよ?


 でも女の子なんですよ? どうみても。


 頭の中がぐるぐるぐるぐる。



「……ユウ? あなたは……ユウ?」


 幸さんが憂さんに話しかけて我に帰りました。

 優くん? 憂さん? ……はしっかりと頷きます。


「そうね。リコちゃん先生にも……教えて……あげて」


 小首を傾げてじっくり考えてから、ゆっくりと一生懸命に話し始めました。


「――リコちゃん先生。――ボク――優――ですよ?」


 語尾を上げ、首を傾げる。くっ! なんて強力な攻撃!


「キーワード……は?」と島井先生が続ける。


 それを聞いて、また小首を傾げる。続く言葉はスムーズに出てきました。


「――バスケ――拓真――勇太――千穂――」


 ユウさんはキーワードを並べていきました。

 そうだね。毎日、放課後には部活してたね。親友2人と毎日一緒で。千穂さんとは付き合ってたみたいだね。3人とも優くんが事故で入院して……抜け殻みたいだったんだよ。


 身を乗り出して、ユウくんの手を取って引き寄せる。小さい体。可愛い女の子。ギュッと強く抱き締めた。


「優くん……なんだね」


 優くんは少し抵抗したけど、すぐに大人しく抱かせてくれました。

 御両親も島井先生も学園長先生も、何も言わず見守ってくれました。


 私はまた少し泣いちゃったのかも。




「あの……何て言ったらいいのか……本当にすみませんでした!」


 私が落ち着くのを待って、面談は再開されました。

 憂さんを身代わりに……とか酷い事、言ってしまいました。優くんが口を滑らせなければ、ご両親に対し、悪い感情のままだったはずです。

 そこまでして……嘘を付いてまで優くんの生存を隠さないといけない理由を、聞いておかなければなりません。彼の性別がどこまで変わったのか……とかですね。


「あの……」


 何て聞けばいいのでしょうか? 困っていると島井先生が話し始めました。


「……そうですね。まずは貴女を騙そうとした非礼をお許しください」


 そう言って深々と頭を下げる先生。


「いえ! その! ……理由があるんですよね?」


 身振り手振りで頭を上げて貰いました。島井先生は神妙な顔をしていました。


「そうですね。優さんを見てどう思われますか?」


 やたらと『そうですね』が会話の中に入る事に気付きました。癖なんでしょうね。

 そんな事を思いながら言いました。さっき考えてた内容ですから考える必要が無かったんです。


「優くんはどこまで女の子になっちゃったんですか? どうして女の子になったんですか?」


 矢継ぎ早の私の質問に島井先生は苦笑された。いえ、だって気になるんです。


「1つ目の問い、どこまで女性になったかですね。……そうですね。完全に……です。性転換手術などでは生殖機能に著しい問題が発生します。男性への性転換手術を受けたのであれば、陰嚢で精子を作り出せない。女性への性転換手術を受けたのであれば、子宮そのものが無く、当然ですが排卵されない。ところが今の憂さんは完全に女性です。月経はまだですが、いずれは出産さえ可能かも知れません」


「どうしてそんな事に……?」


 それって前代未聞じゃないんですかね? 詳しくないから判りませんが。


「2つ目の問い……ですね。これは詳しくは話せませんが…常識を無視して徐々に身体が変化していったんです」


「それが理由ですか……」


 私の予測が正しければ……これは先生のおっしゃる通り、絶対に口外できません。声に出して誓います。


「大体の事は解りました。絶対に口外しません。約束します」




 それから色々な事をお話ししました。

 後遺症についての注意点。優くんは体の右側が弱い事。言葉が出にくいのは言語障害の影響もある事。理解は遅いが、しっかりと話せば、きっちりと理解してくれる事。でも時々、そんな事を忘れちゃう事。すぐに寝ちゃう事。


 学園内での注意点。優くんはあくまで憂さんだと言う事。設定は島井先生の嘘の通りで。これに関しては憂さんに時間をたっぷり使って説明しました。


「――ばれること――いわない。――だいじょうぶ」


 はっきりと宣言してくれました。

 これで優くんと同一人物だって匂わせるような事は言わない……と思います……たぶん。


 そして、私以外にもクラスで3人。優くんについて知っている人がいる事。


 最近、彼ら3人が元気になって私も嬉しかったんです。優くんの死を乗り越えられたのかと思っていました。でも、違ったんですね。

 もっと良い理由で元気になってたんです。私より先に知った3人にちょっとだけ嫉妬です。



 他にも色々………。



 こうして衝撃の面談は終了したのでした。




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