武神さんは今日も元気に……。

りょうさん

第1話

 「あなた様……」

 「そう悲しそうな顔をするな。子供達が不安になる。幼くとも俺とお前の子供達だ、お前の悲しみを読み取ることなど造作もないだろう」

 朦朧とした意識の中、俺は妻の顔を見ながら叱咤する。

 かつて武神と呼ばれた面影はそこになく、その声にも覇気がない俺の叱咤などいつもの妻ならば気に留めるはずもないが、その整った顔は悲しみ、不安にまみれ、今にも崩れそうだった。

 「俺がこの世に残せたもの、守ったもの、次はお前が守るのだ。そして、その役目はこ奴等に、そしてその次の世代へと渡っていく」

 「あなた様……」

 「先程からそれしか言っておらんぞ。安心せい。俺は神にでもなって、お前達を見守っていよう。武神と呼ばれていた俺だ、八百万の末席にくらいは置いてくれるだろうよ。気張れよ、我が宝達」

 その日、俺は妻、子達に囲まれその一生に終わりを告げた。

 人間五十年とは言うが、そこまで生きることは叶わなかった。しかし、俺の過ごした三十余年は決して無駄ではないと思いたい。

 さて、この先俺はどうなるのか。

 坊の言う通り極楽へと誘われるのか、別のものへと生まれ変わるのか、それとも無か。そのどれでも俺は受け入れよう。しかし、生きている間は恨まれすぎた、出来るのであれば恨まれることのない世を生きたいものだ。




 「あれから五百年か。ここも随分変わったねー」

 あの日、俺が死んでから五百年、俺は神の研修期間を終了し、晴れて自分のお社へと入ることになった。

 「そうだねー。あの日、君を導いてから五百年が経ったんだね。そりゃ、君の喋り方も変わるよね」

 隣に立つ少女も感慨深そうに頷いている。

 死後俺が導かれたのは、極楽でも転生でもなく神への道だった。

 暗闇の中に放り込まれた後、今現在隣にいる少女、照斗しょうとによりその事実を告げられた俺は呆然と彼女を見ることしかできなかった。

 神には二種類の者がおり、元から神として生まれた者、そして、俺のように人間から神になる者がいるのだという。

 しかし、そのどちらにも研修期間というものが必要になってくる。

 神として生まれた者は五十年、俺達は五百年。その差は見て分かる通り大きいが、それが神と人間の差というわけだろう。

 そして、その研修期間を終えた俺は、先日最終試験を合格し、正式に神になったのだ。

 「そりゃ、毎日この世を見ていればね。テレビが出来てからは視聴が義務だったし。その他の神も影響を受けていたはずだよ」

 「そうねー。あのかんさんが激おことか言ってたのにはびっくりしたわよ」

 え、俺の先輩で、外国の武神である関さんがそんなこと言ってたの?あの人が言ってるところなんて想像もしたくないや。

 「外国にも日本文化っていうのは伝わっているからね。研修期間や神同士の交流会とかで伝わっていくみたいよ」

 うわぁ、俺もその時は気を付けないと。

 「さて、導き手としての仕事はここまで。五百年連れ添ってきたわけだけど、これからはサポートなしでやっていくんだからね?大丈夫?」

 「ああ、大丈夫だよ。わからないことがあれば神主や巫女ちゃんに聞くから」

 「そう、じゃあ頑張ってね。さようなら、武神勝信かつのぶ様」

 その名前を呼ばれたのも随分久し振りだ。でも、これからはその名前で呼ばれていく。早いところ慣れなきゃな。

 「五百年ありがとう、照斗。次の導きも頑張ってね」

 「ええ」

 そう言うと、いつの間にか隣にいた照斗が消え、そこには照斗の着ていた巫女装束が落ちていた。

 って、あいつまた服の存在忘れやがったな!あの露出狂が!

 こうして、俺の本当の意味での武神生活がスタートした。

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武神さんは今日も元気に……。 りょうさん @ryousan0905

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