第2話 第45回フリーワンライ「Sleeping Space Station」

第45回フリーワンライ(2015.4.19)※2016.9.4加筆


お題:

「○○が眠るまで」(○○→人々)

「月だけが見てた」

「目覚まし時計の反逆」

「当然の結果」


ジャンル:

近未来 宇宙 



1297文字




宇宙ステーションを管理するマザーコンピューターが、何らかの不具合を起こした。

その事実に住人が気づいたのは、昨晩の全館消灯から半日近く過ぎた時だった。

デジタル時計はすべて違う時間を指し示し、朝日代わりのランプも点灯せず、電子音の鳥の鳴き声も聞こえなった。

各々の起床時間は違えども、全データを中枢で管理されていたはずの目覚まし時計は、鳴りを潜めていた。

人々の目を覚まさせるための装置が、その日の朝は何一つ機能していなかった。

ただ暗闇と静寂が、宇宙ステーション全体を支配していた。

人々は居住スペースから恐る恐る顔を出し、窓の外に広がる月の灯りを頼りに、アナログの小さな腕時計を必死に覗き込んでいた。

窓の外いっぱいに広がる月は、真横を通り過ぎようとしている小さな宇宙ステーションと、その中で怯える人々をただ静かに照らしていた。

「間違いない、今はもう昼に近い」

リーダー格の男の声が聞こえた。

「だがこの時計だって信用ならないかもしれない」

「これは電波時計じゃない、俺の遠い祖先が地球に住んでいた頃から使っていた螺子巻式だ」

押し合いへし合いしながら小さな時計を覗き込む男たちの後ろで、女たちは廊下の居住スペース側で寄り添いあい、不安そうにその様子を眺めていた。

「何が起きたのかしら」

「朝か夜かもわからないなんて不思議な気分ね」

「こんな星灯り程度じゃ生活できないわ」

口々に不満や不安を述べ合う中、誰一人としてその先へ進もうとする者はいなかった。

両端に潜む窓のない廊下が、闇を懐に抱いて迫りくるように見えていた。

やがて論争の種も尽き、静寂が訪れた。

子供を抱いたまま、あるいは狂いっぱなしの電化製品を抱えたまま、人々は立ち尽くしていた。

その時、足元から高い声が聞こえた。

「ねえお母さん、"マザー"がお寝坊しているの?」

その言葉に、人々の意識は瞬時に、あるいはやっとのことで、ステーションの中央に位置する機械へと向けられた。



化石と化していた懐中電灯を引っ張り出し、辛うじて残量があった電池をはめ込むと、志願した男たちが闇を進む。

「こんなアナログな道具、教科書の中の物だと思ってた」

「誰も死人が出ていないこんな真新しい宇宙ステーションでも、霊って出るのかな」

「やめろ、古典文学の読みすぎだ」

軽口をたたき合いながら本能的な恐怖を掻き消し、機械の林立する区域を進む。

やがて目の前に広がった中央管理装置は、全ての灯りを落としていた。

手元のディスプレイに小さく点るのは、「スリープモード」の文字。

ステーション全体の電気の蓄えが、どうやら底をつきかけているようだ。

人々が昨晩眠りにつくまでを見届けてから、静かにスリープモードに入ったらしい。

特に血気盛んで健康な若者たちだけを乗せた、新たな星を開拓するための移動式宇宙ステーション。移動と豊かな居住を兼ねたそれは、同時に、彼らの生活を支えるための電力が大量に必要だということも表していた。

生きる世界の理を深く理解せず自分たちの生活を続けたが故、それは当然の結果。

次の補給船のドッキングまで、あと何日だろう。

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