異世界スクワッド

@arsenal

プロローグ


「足元に気をつけながら、ついて来い」


女剣士は後ろの二人にそう言ってから、地下へと続く階段へと踏み込んでいった。

右手に片手剣をもち、左手に小さめの盾を構え、胸や肩だけを守る簡素な革鎧を身につけている。

癖ひとつない長い金髪で、目鼻立ちは非常に整っている。

街をあるけば多くの男性が振り返るであろう美貌だ。

ただ、今はその表情は緊張の為かやや強張っていて、かなりきつい印象をあたえる。


「奥からは、何も聞こえませんねえ」


後ろをついていく亜人種の娘が、茶色髪の頭のの上にちょこんとのっている"耳"をヒクヒクさせる。

彼女は半人半猫種族、通称"ネコミミ"と呼ばれる種族の娘である。

ボーイッシュなショートカットが良く似合う美少女だ。

短剣を腰につけていて、背中には自分の体の倍もありそうな荷物を担いでいる。

どうやら、この小さなパーティーでの彼女の役目は荷物運びポーターであるようだ。


最後の一人。

黒いローブで全身を覆った男。

ローブについているフード部分を深く被っているせいで、その表情も解らない。

その男は、何も言わず黙々と、二人の後を付いて行く。


「それにしても、このダンジョンってすごく変ですよねえ。壁も他のダンジョンと違うし、空っぽですし、ここまで結局魔物も一匹も出会わなかったですよ」


ネコミミの娘がつぶやくと、女剣士が前を向いたまま振り返らずに、ややぶっきらぼうな口調で答えた。


「確かにこの『嘆きの霊廟』は、他のダンジョンとは色々と違うな。空っぽなのは、この『嘆きの霊廟』が発見されてからすでに三百年程経っていて、粗方の物は持ち出された後だからだ。発見された当時は非常に珍しい品々が大量に見つかって話題になったと今でも語り告がれているぞ。さらに、一つの部屋あつめられた大量の遺骨も見つかったため、ここは滅んだ古代神を祭る神殿か、あるいは霊廟だったんじゃないかと推測されているらしい」


「だから、このダンジョンは、通称『嘆き霊廟』と呼ばれているんですね。でも、霊廟ってお墓のことですよね。えっと、お墓とかを荒らしたら、呪いとかあるんじゃないですか?」


「何をいまさら。もともと"墓荒らし"なんて冒険家の得意分野だ」


そんな会話をしていると、階段を折りきった先に巨大な鉄の扉が行き手を塞いでいるのが見えてきた。

少し手前で、女剣士が足を止める。


「あれが、新しく発見された、このダンジョンの最深部だ。この『嘆きの霊廟』には、昔からお宝と共に古代の邪神が眠っているとも言われている。もし、その噂が本当なら、あの鉄の扉の向こうに、古代の邪神が眠っていることになるな」


「じゃ…邪神がいるんですか?!」


ネコミミの娘が怯える。

いままで一番後ろで二人の会話を聞いていた黒いローブの男が、唐突に歩きだし、鉄の扉に近づいた。


「まて! まだ罠があるかも知れん、不用意に近づくな!」


女剣士の注意を無視して、黒いローブの男が鉄の扉に近づいていく。

すると、侵入者を阻むように、鉄の扉の周辺が赤く光りだした。

それを無視して、黒いローブの男が鉄の扉の横で、何か小さなふだのようなを使い始める。

危険を感じた女剣士が走り寄り、黒いローブの男を制止しようとする。


「今までも何度か挑戦して、この扉は簡単には開かないことが解ってるんだ。無茶をせず、慎重に行動するんだ!」


それでも、男は無視して、自分の作業を続ける。

そして、いきなり鉄の扉が、音も無く開いた。


「開いた?!」


鉄の扉の奥は暗闇だった。何も見えない。

混乱する女剣士を置いて、男が、その闇の中へ入っていく。


「だから、危ないと言っているだろうだろう! まったく」


言っても無駄だと悟った女剣士は、あきらめて黒いローブの男を追って、闇の中へと入る。

中では、まったく何も見えない。自分の手さえ見えないくらいの完璧な暗闇だ。


ふいに強烈な光がともる。

光は一つだけでなく、どんどんとその数を増やしていく。

先ほどまでは闇に慣れていた目が、あまりに強い光に視界を奪われて、真っ白にそまっていく。


「魔法攻撃?! まずい」


視力をほぼ失った状態で女剣士は即座に判断する。

盾を捨て、近くにいるであろう黒いフードの男を手探りで探す。

指先が触れる。

左手で男を庇うように抱きしめ、右手の剣を襲いくるであろう敵に備えて構えた。


………


『光で視覚を奪うと同時に敵が襲いかかってくる』女剣士はそう予測していたのだが、敵は現れない。

女剣士と男に対しての攻撃は、まったく行われる様子が無い。

それでも、女剣士は周囲への警戒を止めなかった。そのままの状態でさらに十数秒が経過する。

少しづつ目が慣れてきて、周りを見ることができるようになってきた。

そこは広い空間だった。へたすると闘技場ぐらいの広さがある。

さらに、何に使うのかまったく解らない不思議な物体がいくつも置いてある。


その空間の奥のほう方で"何か"が動いた。

ふわりと浮かび上がった"何か"は、空中を漂うようにゆっくりと近づいてくる。


「あれって、何でしょう?」


入り口から恐る恐る入ってきたネコミミの娘が聞いてくる。


「魔物……と、言うよりは、ここを守護する精霊か何かみたいだな」


女剣士が、警戒を緩めず、剣をそちらに向けている。

ゆっくりと近づいてきた"何か"は空中で停止した。


「○@◆△ワ」


"何か"が話しかけてきた。

女剣士がさらに警戒して剣を、"何か"に向けて突きつけるが、それを無視して喋り続ける。


「△ン○@@△レバ、@○セク○@¥ハ、○○△FF@@ジ□ウ○#@シ、~よう#@@せん。○◇¥>、カいじょ○△△△F!ゲンzM#@*?マ ○△ア~_!◆○¥¥◇○・?>。○◇|・「:◇○○@?」


「なんて言ってるんですかね?」

「解らない。聞いたことない言葉だ。敵意は無いらしいけど、これでは交渉のしようもないな」


二人は途方にくれる。

いままで、じっとしていた黒いローブの男が、空中に浮かぶ"何か"に向かって、一歩前に進み出た。

そして、『日本語』で問いかけた。


「おまえは 何なんだ?」

「ここの機器の管理を任された、人工知能登搭載非戦闘型ドローンの『タツタ』です」


「ここにある機器、全部が使うことが可能なのか?」

「はい。使用可能です。先ほども言わせていただきましたが、現在これらの機器の使用禁止処置は解除されております。

また、この倉庫は完全密閉されていた為、経年劣化による故障等もほぼゼロで、すぐに使用可能な状態になっています」


黒いローブの男と、ドローンは、『日本語』で会話をしている。

『日本語』が解らない女剣士と、ネコミミの娘は、訳がわからず呆然としている。


男が、頭にかぶっていたフードを取った。

その下から現れたのは黒い髪、黒い瞳の典型的な日本人の少年だった。


「ここの機器は、何がどれだけ残っているんだ?」


「使用可能な主要機器のリストを読み上げます。


 装甲指揮車         1台

 電動バイク         2台

 電動バギー         2台

 電動小型ジャイロ      2台


 電動強化外骨格       2式

 遠隔攻撃型ドローン     2台 


 レーザー小銃ライフル   24丁

 レーザー拳銃ピストル   24丁

 電気ロッド         24本

 部隊標準兵装        24式

 その他、六十四点の試作品と、各種交換用予備部品等があります」    


「ここの機器は、どうやって動くんだ? 電気か? ガソリンなんかが必要な機器もあるのか?」


「ガソリン等の燃焼系燃料は一切必要ありません。

 装甲指揮車は小型核融合原動機を搭載し、本体のみで理論上は半永久的に稼動可能となります。

 装甲指揮車以外の機器は、すべて電気によって稼動いたします。」


「ガソリンとかは必要ないのか。でも、電気の供給はどうなってるんだ?」


「ここよりさらに地下に、核融合発電施設を有しております。

 また別途、装甲指揮車には簡易的な発電機器も搭載しております。

 装甲指揮車自身の稼動を停止中であれば、発電機を動かすことによって、他の機器の充電を行うことも可能です」


「こいつは、思っていた以上にすごいな。って、いうか、すごすぎる!!」


思わず興奮気味に、大きな声をだしてしまう。

その様子を女剣士と、"ネコミミ"の娘の二人が、微妙な表情で見つめていた。

まったく状況のわからない二人は、さっきから説明して欲しそうな目でみているのだが、男は興奮していて二人の視線に気づいていない。


それから、男はふと思いついた事を質問してみた。


「そう言えば、ここってどのくらいの間、封鎖されていたんだ?」


「前管理者であるイトウコウヘイ准佐が、ここの活動を停止してからの経過時間は……」


 ドローン『タツタ』は、変わらない淡々とした口調で答えてくれた。


「48万8793年6ヶ月12日と、14時間13分と42秒になります」

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