どれがわたしの生きる道

茉都香の通っていた進学塾は、所謂進学予備校で、大学進学を前提とした学習塾だった。わたしなどはまだ将来のやりたい事だとか、職業とかがはっきり決まっていなくて、自分の進むべき道のために勉強している人たちって、なんだか凄いなぁと、他人事の様に感じていた。それよりもむしろ、学校であんなに勉強しているのに、更に週に何時間も外でまで勉強するという感覚が理解出来なかった。人によってはいい大学に入る為に進学予備校に通っている友だちなんかもいて、そういう子に限って、中学生だった高校受験の時も、同じことを言っていた気がする。勉強の為の勉強に何か意味があるのかな?なんて他愛ない疑問しか浮かんでこない。それでも、小中学生の頃の様に不安や焦りも無く、ただひたすらのん気に暮らしているのかと言えば、そういう事ではなくて、わたしはわたしなりに、これから何を目指して生きていけばいいのか、言いようの無い焦れったさを常に感じていた。目には見えない何かが後ろから追いかけて来ている様な漠然とした不安にも付きまとわれていた。ただ、それらを振り払う為には何をすればいいのか、わたしには全く解らないし、誰も教えてくれないものだから、日に日に焦燥感ばかりが自分の中に募っていった。こうした悩みを仲のいい友だちに話したりしようものなら、たちまち真面目ぶってるとか、つまらない人間だとか思われてしまい蔭口でも叩かれそうな気がして、誰かに気持ちを吐き出したり、打ち明ける事が出来ずに、心の中にじくじくと溜め込んでいるしかなかったのである。


茉都香はここに週二回通っていたのだという。彼女は此処でも悩みを打ち明けられる友だちは誰もいなかったのだろうか?

時間さえ取り戻せたなら、わたしは茉都香と親友として、もう一度彼女と深く話しをしてみたかった。



流石に授業中のクラスには入り込めないので、休憩室やロビーなどを公共スペースをうろついてみる。

今回は特にターゲットとなる相手を用意していなかったので、適当に見つくろって当たりをつけていかなければならなかった。

休憩室でお茶を飲みながら、手持ち無沙汰にiPod touchをいじくっている同い年くらいの少年がいたので、アプローチを試みることにした。



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