都市伝説の正体

昔からぼくと一緒に遊んでくれていたご近所さんの高校2年生の茉都香姉ちゃんは、近頃あまり外で見かけなくなっていた。


この間、心配になって遊びに行ったところ、部屋にあげてくれて、ぼくにだけこっそり打ち明けてくれた。


「お母さん達には絶対に内緒だよ。」

と、約束させられると、実は彼氏の子供を身ごもっているんだって、とっても嬉しそうに教えてくれた。だから、何だかぼくまでとても嬉しくなって、おめでとうって言っておいた。だけど、おめでたい事なのになんで誰にも言っちゃいけないんだろう。不思議に思って尋ねたら、


「お父さんやお母さんに知られたら中絶させられちゃうから。」

って急に悲しそうな顔をした。


「中絶って何?」

ぼくが聞いたところ、


「赤ちゃんを殺されちゃうことだよ。」ってさらに顔を暗くして辛そうに答えてくれた。


「この事は透くんとお姉ちゃんの秘密だからね。」

指切りまでさせられて、約束を交わしたので、ぼくはその事を自分の胸の中にしまっておいた。

何より、茉都香ちゃんとのふたりだけの秘密を持てた事は、ぼくを大人に引き上げてくれたみたいで、なんだか嬉しかった。



そしてしばらくしてある日、突然茉都香ちゃんはいなくなった。

そりゃあ心配ではあったけれども、ぼくは彼氏って人と駆け落ちしたんだなと、直感した。



その話を聞いた数日後、ぼくたちは釣りをしに、自転車で遠出した。

穴場に着いて、早速ルアー釣りを開始した。

何度かバラしたり、小物をリリースしたところで、竿にグイグイくる手応えを感じた。遂に大物を釣り上げたと思って喜んでいたら、スーパーのビニール袋を釣り上げてしまい、横にいた友だちに大爆笑された。

ぶつぶつ文句を言いながら、ルアーの針を外したところで、なんとなく固く結ばれている袋の中身が気になった。

友だちは友だちで、もしかしたら宝ものかもな、なんて茶化してきて、イヤになっちまう。

糸切り用の小型ナイフで、結び目の下から切り開いてみた。

残念ながらお宝どころか、ビニール袋の中には、死んだ赤ん坊の死体が詰まっていた。


近くの大人の人に報せて、警察を呼んでもらい、現場は大騒ぎになり、もう釣りどころじゃなくなっちまった。

その時は、誰にも言えなかったけど、あのビニール袋を開けた瞬間、この子はもしかしたら茉都香ちゃんの赤ちゃんかも知れないなって感じていた。

みんなは茉都香ちゃんは家出したに違いないと思っているけれど、お腹の赤ちゃんのことは茉都香ちゃんとボクだけが知っている秘密だった。

秘密を話してくれた時の茉都香ちゃんは、それはとても幸せそうに笑ってた。あの茉都香ちゃんが独りで家出するなんてとても思えなかった。


いやちょっと待った。違った。言い直そう。茉都香ちゃんとぼくと、あの死んだ赤ちゃんの父親である彼氏だけが秘密を知っていたんだ。

あの時点ではまだ知らなかったハズだけど・・・。

多分もう茉都香ちゃんもこの世にはいないのかも知れない。


そして、今度の犯人もきっと。

証拠は何も無いけど、僕には確信があった。

今はまだ大人には相談出来ない。

何よりも、ぼくは絶対に犯人の奴が許せない。

茉都香ちゃんは、ぼくの初恋の人で大好きだったんだ。

流石に小5にもなれば、同級生に好きな女の子もいるけれど、茉都香ちゃんだけは今も別格だった。

茉都香ちゃんの仇だ。絶対に、きっとぼくがやっつけてやるからな・・・。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る