都市伝説の正体
結局、わたしは救急車で総合病院に運ばれた。職員室で生徒が引きつけを起こして緊急入院したとあっては、その直接的な理由となった中條先生の死の事実まで隠蔽するのは難しいと判断したのだろう。
翌朝には体育館で緊急集会が開かれ、校長先生の口から、中條先生の悲報が伝えられた。
こうして、中條先生の悲劇はわたし達の住む横須賀どころか、日本中にあっという間に広まっていった。
これは本当だかどうかは判らないけれど、後日母から聴かされた事に
は、教頭先生にその役をやらせてはまた何人の生徒が救急車で運ばれる羽目になるか判らないと、校長からきつく叱責を受けたのだとか。
だがしかし、口外禁止の教えを守らねばならないわたしの他にも、元々このことを知っている人物は、きっと大勢いたのだろう。
集会が行われる前までには、かなりの子どもたちの間で、わたしが倒れて救急車で運ば運ばれた理由は、広まっていたらしく、校長が厳かに報告する前までには、その内容はあらかたの生徒が知る事となっていたのだという。
まさに人の口には戸が立てられないとはよく言ったもので、例えわたし一人の口を塞げたとしても、総ての人の口を塞ぐことは、いくら厳しい教頭先生にも出来なかったのだろう。
皮肉にも、入院していたわたしにとって、疑われる様な事態にならなかったのは幸いだった。
わたしが念のため措置入院させられていた頃、一方友だちの菜摘は、わたしの起こした騒動を、彼女の母親と近所のお母さん友だち達とで話しているのを盗み聴いたとかで、沢山の友だちにショッキングな話題を提供していた。違うクラスの彼女にとっては、わたしの受けたと程のの衝撃はなかったとみえて、かなりのハイペースで仕事をこなしたらしい。
「あのね、中條先生のお腹にいた赤ちゃんの父親が誰なのかは未だに判らないらしいの。みんなに内緒にしていた先生は、ご両親を頼って独りで育てていく覚悟だったんだって。これはここだけの話、絶対に誰にも言っちゃダメだからね。」
如何にも大人びた物言いで、こっそり皆に触れ回る菜摘の内緒話は、禁断の秘めごととしてインパクトを与え、聴かされた子どもにとっては誰かに話さずにはいられない、絶対に抗えない魔力を持っていた。
彼女のばら撒いた秘密は、他の誰よりも強力な拡散能力を秘めて、子ども達の間を駆け抜けていった。
興味深いことにそうした特別な噂話に限っては、伝聞されていく過程において時にさらなる新しい情報をまとって、より強大な都市伝説へと変貌を遂げていくのである。
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