都市伝説の正体

噂の出処を遡り追っていく作業というのはなかなかに厄介で難しい。

信憑性の高い証人もいれば、嘘と本当の判断の難しい者もいる。

そう、たとえばあの菜摘みたいな子を経由して、その上仲介役まで果たしていたならば、嘘そのものが真実として語られることになる。

そうして嘘と本当とが入り混じり、陽が沈み夜が更けていく薄暮の光景の様にその境目はますます曖昧になるからである。

その上、真夜中の茉都香の亡霊みたいに夢現なのか幻なのか、それとも嘘から出た誠でわたし自身が願望から捏造した産物なのか、実体のあやふやな存在すらあるのだから。体験したとわたしが自信を持って語ったところで、わたしもまた菜摘と同じ立ち位置の語り部のひとりとして扱われるだけだろう。

ただ、ひとつだけ確かなことは、学生たちの間で秘かに囁かれる噂というものは、光や音よりも早く、あっという間に皆みなに拡散するということ。だからこそ時間が経てば経つ程に、真実は真っ暗な迷宮の中に置き忘れてきてしまった記憶の様に、ぼんやりとして不明瞭でその場所は杳として判らない。




わたしが小学生の頃、“目潰し女”の噂が流れた事がある。

元もと目潰し女は、死体遺棄されていた殺人被害者の女性だ。

山の中に棄てられていたお陰で、野生動物か何かに眼を食べられちゃってたらしい。

彼女を見つけたのは、夏休み中にクワガタ取りに行った小学生だ。

警察や大人には口止めされたけれど、彼らによって一気に噂が広がった。



その頃から、わたし達小学生の間で、両眼のない目潰し女の噂が広がり始めた。


自分の両眼を求めて街を探し回っている、気の毒な目潰し女。

彼女は自分を殺した殺人犯を見つける為に、自分の両眼を探してる。

もし、目潰し女に捕まり、彼女の眼を持っていない者は必ず両眼をくり抜かれる。

万が一捕まった場合、助かるには彼女の眼だと言ってビー玉を2つ渡して、その間に隙をみて逃げるしかないのだとか。

彼女は眼が見えないので、しばらくは時間が稼げるのだという。



都市伝説化する恐怖。

夏休みが終わり、学校はもはやその話で持ちきりで、俄かにざわついていた。

わたしも、その場に居合わせ隠れていて目撃したという女子に目潰し女の話を夢中で聴いていた。

不確かな記憶だけれど、今にして思えば、あれは菜摘だった様な気がする。



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