第72話
「だのに、彼はクソゲーバトルを仕掛けてくる。わざわざ大門ちゃんをさらってまでね。しかも見たところ時間にうるさいようだし、クソゲーバトルなんかしてる時間なんか無いように思えるわ。傍目から見てもあからさまに無意味な戦いを仕掛けてくるという不自然。そして何より、貴方、似てるのよ」
台座の上に立ち、Sと対峙する剛迫。
大柄の異国の人間と、サシで向かい合ってなお怯まず、揺るがず。
見てる方はハラハラしっぱなしだというのに。
「太平寺みたいに、殺意みたいなのを感じるわ。冷静沈着に見えるけど、その実かなり激しい性格と見るわよ。これらの要素を掛け合わせて出る答えは、当然危険。危険も危険、スーパーデンジャラス。大門ちゃん、大丈夫。わかってるわよ。これはあからさまに罠。それでも私はそれを承知で戦いを挑むの」
「駄目ですよ! 逃げて下さい! わかってるなら!」
「虫がいいわね、大門ちゃん。自分ばかりが自己犠牲して他には許さないなんて、ずるいわよ。そんな悪い子の頼みなんて――」
台の前に、立つ。
「――聞いてあげないわ! 相手がむざむざ大門ちゃんを返してくれるチャンスを、クソゲーバトルでくれるって言うなら罠でも乗るしかない!」
「……!」
「何が目的か知らないけど、来なさい! S! クソゲーバトルを受けるわ!」
相変わらずの剛迫。その勇猛な姿を見て、
「……まったく、貴女は心底不愉快になりますね」
Sは神経質に時計を睨み、杖を落とした。
すると、台座全体を結界のような、球状の薄い膜が瞬時に包み込む。
「な!? 剛迫!」
俺は瞬時に駆け寄ったが、この結界のようなものは殆ど向こうがそのまま見えるくせに、殴っても叩いても弾力を伴って弾かれてしまう。柔らかくて、硬い。ビクともしない。
「無駄な説明をさせないで下さい。その結界はベス神より直々に賜った術が一つ。ただの若者一人がれ破れるような代物ではありません」
言いつつ、Sは杖をもう一つ叩く。
すると、Sの周りに影のようなものが5つ――それらは時間と共に、人としての形を作っていき、整えられていく。
「な、なんだ?」
「クソゲーバトルの審査員です。太古の昔に命を落とした者……どこの誰かは知りませんが、彼らに審査をしてもらいます」
「! お、お前ぇ! 死者に更にクソゲーをさせるつもりなのか!? そんな非道が許されると思うんじゃねえぞ!」
「非道? そんな言葉で私が揺らぐとでも。私は現状で最も効率がよく、最も平等なやり方を選択しているだけです」
「……!」
やはり危険だ、こいつは。人の尊厳とか命とかを何とも思っていない。
使役された5人の霊魂らしきものはSの指示でそれぞれの審査員席へと腰かける。
「ここまでで一体どれほど無駄な時間を費やしたことか考えるだけで嫌になりますね。さあ始めましょう」
「ええ、来なさい!」
始まる。
不審、謀略、殺意、憎悪、非道。
およそこの世の「負」に満たされた戦いが――
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