第71話

 エレベーターを降りると、そこはまるで別世界のようだった。

 一言で言うと、エジプト映画のセットだ。壁から何までに至るまでエジプト風の意匠が施され、電灯の代わりに無数の燭台。室内なのに階段があり、その先にあるのは、この中には不釣り合いな5つのモニターとゲーム・フロンティア、そして二人が立って戦えるようになっているキーボード付きの台が設えられた、ドッジボールのコートほどの大きさの台座。その周りは下層までの吹き抜けになっていて、落ちたらただでは済まないだろう。

 そしてそこから更に階段が伸び、その先の玉座にロープで縛り付けられているのは――


「大門!」

「大門ちゃん!」


 大門はそこに居た。

 玉座の後ろには、まるで大門を捕らえるかのように、あいつらのシンボルであろうひげもじゃのおっさんの巨大なレリーフがあり、その威圧感はまるで神にでも見下ろされているかのようだ。


「二人とも……来ちゃったんですか……」

「当り前よ! あと10秒待ってなさい、助け出し――」


 無言でSが何か術を使ったんだろう。

 大門の前に巨大な鉄製の柵が降りた。それによって、玉座なのに監禁されている、というアンバランスな構図になる。


「く……!」

「星見 人道もおらず、まあ少しは戦力になるであろう羽食様の娘もいない。もうそちらに戦える者はいません。あの柵を力で壊してみますか?」

「ええ、じゃあやって見せようじゃない! 一鬼君手伝って! 破壊するわよ!」

「お前握力どんくらいなの?」

「一鬼君、数字は問題じゃないわ。後は気合でこじ開ければいいのよ。二人の気合が一つになれば更に二倍だからあれくらい行けるんじゃない?」

「駄目だこの清楚詐欺、どんどん脳筋が酷くなっていく」

「だって! 私達しかいないんだから!」


 こいつはこいつで大門を外に出してしまったという責任を感じているんだろうが、それにしても無茶が過ぎるだろう。真顔で言っていた辺りちょっとマジが混ざっていそうなのも恐ろしい。

 そんな俺達を見るに見かねたのか、Sは杖を軽く鳴らし、


「余計な時間をこれ以上かけさせないように。そんな無駄なやり取りで10秒も無駄にしています。早く始めますよ」

「始める? 何を」


 Sはその答えとばかりに、台座の上にテレポートをした。

 そして片方の台の前に立ち、神経質そうに時計を再度確認する。


「決まっているでしょう。クソゲーバトルです」

「え」

「クソゲーバトルに貴方が私に勝てば、彼女を解放し、貴女にも何もしません。それだけの話です。さあこれ以上時間を無駄にしたくありません。早くこちらに――」

「二人とも、逃げて下さい! そんな言葉に乗っちゃダメです!」


 大門が玉座の上から声を張り上げた。


「わ、私のことなんか、もうどうでもいいですから! 放っておいて逃げて下さい! 後はきっと、石川さんに言えば何とか――」

「そうね。このクソゲーバトルは明らかに罠だって、流石の私でもわかるわよ」


 静かな声だ。しかし聞く者を黙らせるだけの力が、こいつのこの声にはある。

 おちゃらけも何も無い、完全なマジモードに入ったこいつは、Sを厳しい視線で睨みつける。


「だってこのクソゲーバトルに意味なんて無いわ。既に星見さんはやられてしまったし、もう障害らしい障害なんて残ってない。そもそも、私のクソゲーも、どんなクソゲーなのかも、お昼の戦いで見せたつもりだし、なおさらおうとしているということは「私のクソゲーは、私をさらってでも知る価値がある」とこの人達は思ってるってことの表れだものね。つまりもう私をさらっていくことは確定事項。それでもなおクソゲーバトルを仕掛ける理由は無いわ」


 剛迫はUSBをポケットから、剣のように取り出して歩みを進める。

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