第44話

飛行機の中で、俺は星見さんと禁断のクソゲーについて話し合った。

 異国の空と海を眼下にお酒を飲んで(窓際をティーンエイジャーに譲らない大人のクズ)すっかり気がよくなってしまった星見さんだったが、この時は真面目に眉間にしわを寄せて考えていた。後ろの席に座っていた大門と剛迫の静かな寝息を聞きながら、互いの脳みそを回す。


「例えば、トレーディングカードゲームの世界ではな」


 と。椅子にもたれつつ、星見さんは切り出す。


「昔の話だが、互いに互いのカードを賭けるという「アンティルール」というのが存在した。そしてそれに関するカードもあったのだが――アンティルールが問題視されるに伴い、そういったカードは、軒並み禁止となって決してその禁止が解かれることはなかったという」

「……?」

「つまり禁断、と言うからには、それは単純にクソゲーとしての完成度の低さや与える苦痛度の問題だけではない。『そういう問題じゃない』という、抜き差しならない要素が含まれている、ということだろうと我は解釈しておる。クソだとかそれ以前の問題。根本的にマズいものだとな」

「……やっぱり、そんな感じなんですかね」


 クソゲーと言われているものの中には、その内容のゲームとしての要素「以外」の所が問題視されるものも確かにある。

 特に現在進行形のデリケートな問題を扱ってしまったものや、あからさまに何かをこき下ろすもの・使用している画像データなどが法に抵触するものなど、ゲーム以外がとにかく「マズい」。セーフから限りなく遠いアウトな代物などがそれだ。

 俺もそのうちのいくつかが家に保管されているからやったことがあるのだが、しかし実際にプレイした身としてはそういうものだと断定するのにちょっと疑問符がつく。


「俺もそんな感じで考えたんですよ。でもそういうのって、クソゲーバトルにどうやって落とし込むんですかね?」


 確かにマズいとかアウトっていうのは分かる。でも、俺はゲームはゲームとしてしか見ないというスタンスだ。

 ゲームはゲーム。社会とは隔絶した存在。そう考えているから。それだからこそいいものだ、と。

 星見さんはシャンパンをグラスに注ぎつつ(大人っていいな)、窓から雲を見下ろす。


「それは分からんのう。が、「禁断」と謳うからにはその「禁断」によほどの自信があるのだろうな。きっとお主ら……。ともすれば我ですら未体験の領域のクソゲーなのだろう」

「ぶっつけ本番に任せるっきゃないってことですかね……」


 星見さんは窓から目を離して、シャンパングラスを口に傾ける。

 口に注いだシャンパンを味わった後、星見さんは――







 対戦するゲームタイトル。

 剛迫・「スーパースーパー・サッカー」。

 H・「リゾート・クライシス」。

 剛迫の方は、前回までとは打って変わって3Dのタイトル画面の現代的なサッカーゲームとしてのタイトル画面。そしてHは、少し粗目のポリゴンで構成された、ちょっと古めのタイトル画面だ。

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