第4話

 クソゲーバトル。それはどちらがより劣ったクソゲーか、よりクソとしての完成度が高いかを競い合うという頭の悪さを極めたような戦いである。

 より相手に苦痛を与えた方が勝利する。

 そんな矛盾も矛盾した戦いだが、驚くなかれ、これは世界クソゲーバトル協会というものが存在するほどに、アンダーグラウンドながら広大な世界と歴史を持ったものなのである。何と世界大会もあるくらいだから、クソゲーとは何なのか、認識を改めなくてはいけないと血迷うくらいのものだ。


「ク、クソゲーバトル? え、何それ?」

「クソゲーでどうやって戦うの? 何を競うの?」

「アホじゃないの? わざわざそんなことしに来たの?」


 周りからのヒソヒソ話が辛い。

 そう言ってやるなよ。この学校には小規模な大会ながら前大会の優勝者と準優勝者がいるんだぜ。


「受けなければどうなるのかしら?」


 それに対して、剛迫は腕組みをして動きはしなかった。いの一番に食いつきそうだったのに、意外な対応だ。


「ああ、それはですねぇ。ま、単純に受けない限りここから出しませんよぉ、と。誰一人としてねぇ」

「まあ、お花摘みにも行けないのね。それは一大事だわ」

「まずそこが出る辺りお前も凄いよね」

「いいわ、その申し出を受けようじゃないの」


 すたすたと、前に進み出る剛迫。

 俺の横を通り過ぎる時、ちらとアイコンタクトをしてきた。

 その意図は正確には読み取れない。読み取れはしない、が。

 俺がすることは分かっている。


「俺が審査をさせてもらう」

「え!? い、一鬼、こんなの分かるの!? お前クソゲーマニアだったの!?」

「そうじゃねえよ。だがな」


 俺は椅子を持って、画面の前に置いた。

「普通のゲームマニアよりか、クソゲーについてほんの1ミリくらいは理解がある。それだけだ」

「頼むわね」


 全く、こんな狂った戦いの審査員を進んでやるようになっちまうとは。少し前までの俺からは考えられなかったことだ。SとIはさっきまで全く俺のことを意識していなかったようだが、ここでようやく俺個人を見据える。


「ああ、思い出しましたねぇ。貴方、あの大会の時に臨時の審判やってた人でしょう」

「不本意ながらな」

「成程。『我らの術』を使おうと思いましたが、貴方なら信頼できます。審査員となることを許可しましょう」

「い、一鬼 提斗……。一体何者なんだ」

「清濁併せ呑む聖人か? ゲーム界の聖人を目の当たりにしてるのか?」

「いちいちうるせえよ! 俺だってやりたくないんだよ本当は! でも色々分かっちゃうからやるんだよ!」

「では始めましょうか。もしもし、」


 あの格好に似合わないスマートフォンで連絡をとるH。

 クソゲーバトルをする際には、「世界クソゲーバトル協会」に登録している自らのゲームを使用する必要があり、野試合の時は適宜連絡する必要がある。

勝つとクソゲーバトルのランクを上げるためのポイントがもらえるという限りなく不名誉に近い名誉が与えられるが、負けるとそのクソゲーは二度と戦いのフィールドに出すことは許されない。

 ただし後で聞いた話だが、一部の物好きに、作者に直接あのクソゲーをダウンロードさせてほしい、なんてメールが来ることもあるらしく、完全な無駄なゲームにはならないとかいう話だ。それは好事家の個人間の話、ということでグレーゾーンに黙認されているらしい。ほんとどんな奴がそんなの欲しがるのか気になって仕方がない。


「手続きは済みました。では先攻はお譲りしましょう」

「いいわ。貴方達が何者で、目的は何も分からないけどね。貴方達は私のクラスメイト達を恐怖させた」


 操作して、このゲームフロンティアにゲームをダウンロードさせる。


「ほんの少しだけど、痛い目を見てもらうわよ」


 剛迫さんはこう言いますが、俺は是非ともその凛とした横顔に言いたいことがある。

 痛い目を見るのは殆ど俺なんですがね、クソゲーメーカーさん。と。

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