タイ旅行記

梅花藻

平凡な旅に意味を持たせる

 タイへ行く。

 そう聞くと取りも直さず「すわ性転換か?」だの「(道義人倫上許されざるもの)でも買うのか?」だのと言う人があるものだ。私が言われたことである。


 甚だ心外であるし、微笑みの国たるタイの国民も流石に怒り出すかもしれない。しかしでは何のために行くのかと言われると自分でも何故行くのかよく分からない。別に貧困地域に行って(そういう地域があるのかも知らないが)慈善活動を行う訳でも、1年も2年も住み込んで現地語を学ぶということでもない。2泊4日、しかも行先は世界的観光地プーケットの方面である。この時点でこの旅行にはもう然したる起伏がないことも明白なのであるが、旅行者というものは兎角自らの旅行に意味を見出したがる。


 失恋を紛らわす傷心旅行に見聞を広めるための修学旅行。学生生活の終了を確かめる卒業旅行に実地を学ぶ研修旅行などあらゆる旅行には何らかのお題目が付属する。


 プーケットに行くとなれば一応バカンス、ということになるだろうが、バカンスとはいったい何をするものぞ?避暑と言うにも違う気がするし長期休暇と言えば味気ない。


 適当な訳語が見つからないものは日本人には合わないものと断じて良い。この理論に従って私はバカンスの芽を摘むことにした。


 しかしそれでは今回の目的が定まらず、どうも決まりが悪い。そこで思い付いたのが取材旅行である。思えば今まで国内外を問わず旅行への感想を

「ああ楽しかった」

「ああ疲れた」

以外に持ったことがない。こんな感想は近所の図書館に行って得られるものと大差なく、知識を得ている分図書館の方が数段有意義であると言える。


 そういった次第で旅行記を書くことにした。筆者死亡により唐突に終了する可能性も捨てきれないが、その時はインターネットに良くある怖い話の1つに加われば良いと思う。しかし絶対に避けたい。

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