第3話 文明論とマネジメント・サイクル

 知的生命活動とは、脳神経系という専門分化した器官により、環境変化に応じて活動を制御(コントロール)することにより、よりよく自己と種族の保存を行う、すなわち調整(マネージ)できる生命活動です。それには事実認識、欲求・意思決定、現実行動という段階があり、それらが循環(サイクル)関係を作っています。簡単に言えば、どうなっているかを知り、どうしたいかに照らしてどうすべきかを決め、その通りにする、そしてさらに、それを繰り返していく、というものです。


 その段階や流れを短く、分かりやすく表わす言葉に『知情意体』というものがありますが、教育では各段階の養成目標として『知徳体』、スポーツなら『心技体』といった表現も使います。


 英語の『Plan,Do,See』という表現は、認識と決定をPlanにまとめ、Seeで次のサイクルの認識を含めて、循環を示します。昔この言葉を見て、さすが欧米の考え方は能動的アクティブ積極的ポジティブだなあと思っていたら、その後さらにSeeをCheck・Actionとして、次の行動まで明示するPDCAサイクルという言葉が使われるようになりました。


 このサイクルを示す用語として、経済分野ではAIDMA(アイドマ/Attention,Interest,Desire,Memory,Action)の法則、軍事分野でもOODA(ウーダ/Observe,Orient,Decide,Act)ループスという言葉があります。


 作中の文明論でもこうした分析方法に従って、文明活動を科学・技術、経済・社会活動、制度・政策及び価値観に分類しました。文明の発展に伴って、文明活動はこの順序で変化してゆきます。


  知る⇒決める⇒行うという知情意体の流れと、科学・技術⇒経済・社会活動⇒制度・政策という文明活動の変化の流れでは、『認識』に続く『決定』と『行動』の順序が違います。社会全体でこうすべきだという決めごとは、人々や組織が実際に動いていくなかで決まっていくところが大きいからだと思います。


 例えば、自動車の普及前から全ての課題を予測・防止できるような、完璧な制度・政策を構築・実施することはできません。個人や企業などが自動車を運用し、起きてしまった様々な事故や公害に対処していくうちに、『歩道と車道を分けよう』とか、『環境基準を作ろう』など、共通の社会的合意というか、制度・政策や価値観が固まっていきます。そこで、社会全体の現象としては技術(認識)⇒社会(行動)⇒政策(決定)の順序になるのでしょう。


 PDCAサイクルという言葉も、あり方の修正という意味を含んでいます。最初のPlanで決定されたことが、次のCheckで修正されています。言い換えれば、文明の潮流とは、技術革新や歳月の経過によって生じた新しい課題や需要に対処していく中で、マネジメント・サイクルによる人々の活動修正が、社会全体に広がり、共有されいく過程を表現したものといえるかもしれません。


 制度・政策の立場から見れば、そうした事実を認識したうえで、『ならば加速化する技術革新や社会の変化に対応するため、我々もまた技術の開発・普及や人々の教育・啓発、利害の調整・紛争の解決、そしてそれらの評価・改善を効率化・迅速化して、社会変化と政策対応のタイムラグをできるだけ縮めていこう』という、マネジメント・サイクルを働かせていくことになるのだと思います。

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