第72話 魔王「王は苦しむのが王としての責任」

魔王「皆さんのお気遣いはありがたいですが…」

魔王「魔王姫を助ける必要はありません」

女勇者「…話が見えないんだけど?」

神官妹「そ、そうですわ、魔王様の妹様を助ければ、姫の言う事など聞く必要もありませんし、全てが上手く行くではありませんか」

魔王「確かにそうですね…」

神官妹「なら何故?」

魔王「それは自分たちだけが良い話になってしまうからです」

女勇者「自分たちだけ?」

魔王「はい…私の妹は王国民を虐殺すると言う罪を犯しました…」

魔王「その罪を償わないで自分たちだけが都合の良いようにしてしまうなんて許されません…」

魔王「私と魔王姫はその罪償わなくてはいけないのです…!」

女勇者「ば…そんな事を言ってる場合かよ!」

魔王「いいえ! この罪は絶対に償わなくてはいけません」

魔王「償わなくては、人間と魔族…一生分かりあえないと思うんです…!」

魔王「だから…この問題から目を背けていけないのです!」

女勇者「目を背けてはいけませんって…じゃあ妹はどうするんだよ」

魔王「…姫様の言う通り…」

魔王「く…」

魔王「…処刑して貰いましょう…」

一同「…!?」

魔王姫「おにい…さま…?」

姫「え? ちょ、ちょっと…」

女勇者「てめっ…魔王! 本気で言ってるのか!?」

女勇者「妹! 妹何だぞ!?」

女勇者「さっき自分の命を差し出して、妹の命を救おうとしてたじゃないか!?」

女勇者「なんでそれが…今になって…」

魔王「僕が死ぬ事は簡単です」

知ってる一同(いや…簡単じゃないだろ)

魔王「確かに僕は妹に代わって、自分が死ぬことで妹の罪を償おうと思いました」

魔王「しかし妹に虐殺された方の遺族には、家族を失い、きっと死ぬよりも辛い悲しみを味わった方が多くいたかと思います…」

魔王「その人たちの怒りを感じたら、自分が簡単に死ぬ事に逃げて良いのか、と疑問を感じたのです」

魔王「だから僕も感じた方が良いかと思ったのです」

魔王「僕も悲しみを背負った王国民の皆さんのような悲しみをもっと味あわなくてはいけないと…」

魔王「だから、妹の処刑は…お任せする事に決めます」

魔王姫「…お兄…さま」

女勇者「…この!」ガッ。

魔王「ゆ、勇者さん…」

女勇者「マジで言ってるのかてめー! 妹だぞ? 妹!?」

魔法使い「とりあえず話が締まらないから、妹から離れろ…」

魔王「関係…ありません」ふい。

魔王姫「…!」

女勇者「お、お前本当にそれで良いのか?」

魔王「良いんです!」

女勇者「じゃなくて…お前の感情とか…それはどうなんだよ!」

魔王「感情…!」

魔王「…」

魔王「それも関係ありません…王の努め…です!」

女勇者「…!」

魔王姫「…」

女勇者「お前…いい加減っ…!」

魔王「…平和な魔界を作るためです!」

魔王姫「…!」

魔王姫「…お兄さまをお離しになりさない! 女勇者!」

女勇者「え…」

魔王「魔王姫…」

魔王姫「…お兄さまは、昔から平和な魔界を作るのが夢だと言ってましたものね…」

魔王姫「この魔王姫…そんなお兄さまの夢を叶えるお役に立てるなら喜んでこの命捧げますわ」

女勇者「ちょ、ちょっと待てよ…い、良いのかよ!?」

魔王姫「元々将軍として戦場に出た時より、この命捨てております」

魔王姫「だから貴女に倒された時から、私はもう死んだも同然だったのです」

魔王姫「そんな私が最後に敬愛するお兄さまのために命を使えるのですから、もう悔いはありません…」

魔王「魔王姫…ごめん」ブルブル。

魔王姫「いえ…さあ行って下さいませ」

魔王「…うん」

魔王「と言うことで、姫様…後はよろしくお願いします」

姫「い、いや…え? 本当に良いの?」

魔王「はい! 妹は罪を償わなくてはいけないのです…!」

魔王「悲しいですが…これも両国のため、よろしくお願いします」ペコリ。

姫「…!」

姫(え? これって虐殺の罪を問わせようとした話じゃったろか?)

姫(いやいやいや…そんな今更魔界の王族を一人や二人処刑したところで、こちらには何の益もないわ…)

姫(え? こいつ簡単に身内切りするとか、お人好しそうに見えて、実はやり手!?)

姫(って言うか…どうするの!?)

姫(こっからどうやって荒れ果ての地の街を奪えば良いの!?)

姫(商人!?)チラ。

商人「…」

商人「ふ…」お手上げ

姫(!?!?)

女勇者「…」

女勇者「うわあああっ!!!」バシューン(魔力放出)

一同「!?」

魔王「ゆ、勇者さん!?」

女勇者「こんな…ふざけんなっ!」

女勇者「行かせねー絶対行かさないぞ魔王!」ギラ(聖剣を抜く)

魔王「…!」

神官妹「ちょ、何マジになってるのよ!」

魔法使い「そうだ何を熱くなってるんだお前らしくもない…」

女勇者「…!」

女勇者「う、うっせー!」

女勇者「はああーーー聖光浄魔斬っ!」

魔王「!」

一同「!」

女勇者「…」ビタ。

魔王「…」

女勇者「…どうあっても妹を見殺しにするのか?」

魔王「…はい」

女勇者「…!」

女勇者「…」イライラ…。

女勇者「…勝手にしろ!!」クル(踵を返す)

魔王「…!」ビク。

女勇者「ふん…!」ツカツカ。

一同「…」シーン。

魔王「…」

神官妹「えっと…と、とりあえず魔王様のご意向がそうなら、私たちもホームに戻りましょうか?」

魔法使い「そうだな…魔王の腹が決まった以上、魔王姫の事に関して我がどうこう言ってもしょうがないしな、帰るか」

神官姉「魔王…ちゃん、本当に…良いのね?」

魔王「は、はい、行きましょう皆さん」

魔王「それでは姫様、またのちほど…」

姫様「え? あ、ああまたの…」

魔王「魔王姫も…」

魔王姫「はい…お兄さま…」

魔王「…姫様」

姫様「? なんじゃ」

魔王「大事な王国民を殺しておいて言える事じゃ無いかも知れませんが…」

魔王「妹は力を使える依代が無ければ無力…もう抵抗もしないと思いますので、処刑にするとは言え、王族の一員…それなりの扱いをして貰っても良いでしょうか?」

姫「あ、ああ…任せておけ」

魔王「ありがとうございます」

魔王「では…」

姫「あ、ああ」

魔王一同「…」ツカツカ。

シーン。

姫「…」

姫「ど、どうしようこれ…」

商人「参りましたなー…」

姫「…!」

姫「そなた! 他人事見たいに言ってるんじゃないぞ!」

姫「お前がこうすれば街を奪えると言うから、人質を用意したのに」

姫「あっさり、殺してどうぞ…って言ってきたでは無いか!」

商人「うーむ、それは確かに意外でしたな…」

姫「は!?」

商人「いやいやいや…あのかなりお人好しそうな魔王がそう言ってくるのは確かに私めの読み違いでした…」

姫「だったら…!」

商人「まあまあ落ち着いて下さい…まだあの感じなら魔王姫は使えます」

姫「? でも殺して良いって…」

商人「いや…殺して良いとは言ってましたが、未練はかなりある様子でした」

姫「未練」

商人「そう未練、それを火で炙って熱を高めてやれば良いのです」

姫「未練を火で炙る…? それは一体」

商人「…魔界には人間には想像もつかない恐ろしい処刑法があるとか何とか…」

姫「…?」

商人「まあ当日をお楽しみを…」

商人「必ずや魔王様はお心をお変えになる事でしょう、くくく」

戦士「…」

戦士(清く正しく美しい事を言う魔王だと…?)

戦士(…そんな魔王…あってたまるか…)

戦士(そんな綺麗な言葉を使って良いのは勇者だけなんだ…)

戦士(そんなおかしい魔王…魔王は俺が正してやる…!)


~魔王城~


魔王「…」ズーン|||

神官姉「魔王ちゃん…大丈夫…?」

魔王「…」ズーン|||

神官姉「あう…反応…無い」

魔法使い「そりゃ…魔王に取っては最後の肉親なんだ」

魔法使い「悪いことをしたとは言え、人間に差し出したんだ…そうなって当然だろう」

魔王「差し出す…!」

魔王「魔王姫…」

魔王「…」シクシク。

神官姉「魔王…ちゃん、泣かないで…」

神官妹「そんなにウジウジするなら、今からでも断ってくれば良いのでは;」

魔王「…いえ、それは出来ません…」

魔王「この悲しみを受ける事こそ、人間さんたちの贖罪の形になるのです」

魔王「だから…この悲しみを受ける事は当然の事なのです」

魔王「…」

魔王「…魔王姫」シクシク。

神官妹(うわ~…鬱陶しくなってきたー)

魔法使い「しかし実際どうなんだ…姫のやつ、魔王姫の事正直殺すつもりは無かったから困ってるじゃ無いのか?」

神官妹「ですわよね~…」

魔王「へっ…殺すつもりは無い?」

魔王「そ、それはどうしてですか?」

神官妹「どうしても何も…」

魔王「?」

魔法使い「姫は元々魔王姫の命を交渉材料に荒れ果ての地の街の全権を奪おうとしてたのだ」

魔王「全権って…何のためにっ!?」

神官妹「何のためにって…」

神官妹(あ…あんまり、人間の汚い駆け引きとか見せない方が良かったかな…)

神官妹(醜い物が邪神を呼び寄せるみたいだし…)

神官妹(創造神曰く、だけど)

神官妹(うーん…少し誤魔化しておくか…)

神官妹「…荒れ果ての地の、えーと市長になりたかったんじゃ無いですかね」

魔王「…市長?」

神官妹「あ、いやほら姫って役職やってると上に立ちたがりたいから、それで市長と言うか街のトップになりたかったんじゃ無いですかね?」

魔王「よ、よく分からないですが…とにかく荒れ果ての地の偉い人になれれば良かったと?」

神官妹「そうそうでも、荒れ果ての地のトップは魔王様でしょう? だから魔王姫さんの命を助命する代わりにその座を下さいと、まあ姫はそんな感じにしたかったんだと…」

魔王「な、何だ…そう言ってくれれば、トップ何てお譲りしたのに」

神官妹「え!? いやいや、簡単にそんな譲っちゃダメですわ!」

魔王「そうなんですか?」

神官妹「そうなんですかって…そりゃ…魔王様が良くても、他の魔族が許さないでしょう」

神官妹「荒れ果ての地の街を失ったら、戦魔将軍とか…せっかく丸く収まった下位魔族連合も暴動を起こしますよ?」

魔王「…! あ、ああ…そうか…」

魔王「そう…ですよね、そんな簡単な話じゃ無いですよね…」

魔王「…」ズーン|||

一同「…;」

神官妹「あの…差し出がましいかも知れませんが」

神官妹「そんなに悩むなら、やはり…魔王姫様は無理矢理でも姫から取り戻せば良いのでは無いですか?」

魔王「それは…ダメです…!」

魔法使い「何故だ…正直何かを人質に取って交渉しようなど、向こうにも正義は無い」

魔法使い「お前だけが正しさを示す必要は無いと思うぞ」

魔王「姫様本人はそうかも知れませんけど…王国民の総意は魔王姫の処刑を考えてるかも知れません」

魔王「処刑して私が悲しむ事を望んでいるかも知れません」

魔王「それを考えたら…このまま魔王姫の処刑を受け入れるのが…やはり僕の道なのです…」

魔法使い「だが…」

魔王「それに、魔王姫の助命を願えば街を差し上げなければいけません」

魔王「そうすればまた魔族の皆さんは住むところも仕事も失ってしまいます」

魔王「…僕一人の我が儘で、回りに迷惑はかけられません…」

神官妹「だーから、魔王姫を取り戻しちゃえば…」

魔王「それも王国民の事を考えない僕の我が儘です」

魔王「出来ません…」

神官妹「…あー、うう…」

神官妹「はあ…」お手上げ。

魔法使い「…お前の気持ちは分かった、好きにしろ」

魔王「はい…」

魔法使い「…」

魔法使い(魔王の言ってる事は、国を担う者として正しい)

魔法使い(正しいが…だが)

魔法使い(だが…優しくない)スッ(目を伏せる)

姫の兵士「あ、ちゃーす、どもども」

神官妹「!? 姫の兵士?」

神官妹「姫の兵士が何の用!?」

姫の兵士「はい…実は!」クワ(マジ顔)

神官妹「な、何…?」

姫の兵士「大変です、ひ、姫の居城が魔物に襲われて陥落しました!」

魔王「!」

魔法使い「何っ!?」

神官妹「朗報じゃん! イエス! イエス!」

姫の兵士「ってまあそう言うの一度言ってみたかっただけで嘘何ですけどね。へっへっへ」

魔法使い「…」

魔王「…」

神官姉「…」

神官妹「…」

姫の兵士「あはは~怖い顔」

神官妹「死にたいのかしら?」

姫の兵士「じょ~だんだって、メンゴメンゴ」

神官妹 (こいつ…)ピク

姫の兵士「だからーマジ怒んないでよ、えーと姫様からの伝言伝えに来ただけだし」

神官妹「姫様から…?」

姫の兵士「そーそー、えーと来る青月の晩、魔王姫の処刑を行うので、魔王様は新生魔王軍の長として、処刑に同意した証しとして出席するようにとの事です」

魔法使い「何!?」

神官妹「処刑…やる気なの!?」

姫の兵士「まあと言う事で、よろしこお願いします~ではでは」

神官妹「うーん…人質殺してどうぞと確かに言ったけど…あっさり処刑に踏み切るとはね…」

魔法使い「何かあるかも知れんな…」

魔王「魔王姫…」


続く

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る