第23話 魔王「伝説の呪族」

戦魔将軍「魔王様、 話したい事がござる」

戦魔将軍「一度浄化するのを止めて、結界の中へ!」

勇者「何だあいつ…」

魔王「分かりませんが、もしかしたら戦魔将軍さんはあの毒の魔獣について何か知っているかも知れません」

魔王「子供の身の安全もありますし、ここは一度結界の中に戻りましょう」

勇者「まー確かにらちあかないし? 良いんじゃね?」

魔王「はい! ありがとうございます!」

勇者「…」

勇者(前から変に思ってたけど、こいつって言うことが妙に優しいような…)

勇者(少し前ならアタシより弱いからビビってヘコヘコしてるだけかと思ったけど…)

勇者(実際アタシより強い力を持ってるし…それなのにアタシの方が強いとか意味分かんない事言ってるし…)

勇者(最初はアタシをコケにするために、わざと言ってるような気もしたけど)

勇者(何かそれも、自然と言うか…本当にそう思っている見たいにみえるような…)

勇者(だから余計に腹が立って、手を出しちゃいけない相手って分かってても、何かついついやっちゃうんだよな…)

勇者(それでもこいつは受け身のままだ…)

勇者(さっきも破壊とか殺すのとか嫌だって言ってたし…)

勇者(もしかしてこいつ、本当に口で言っている通りの平和主義者…なのか?)

勇者(…魔族なのに?)

勇者(…! そうだ魔族だ…!)

勇者(人を騙し嘲り踏みつける…それが魔族だ…)

勇者(こんな恐ろしい力があるやつが平和主義者であってたまるか…!)

勇者(すぐにアタシを殺さないのもおかしいけど、きっと裏があるはず…!)

勇者(何を…考えているか分からないけど…何かされる前に油断させて必ず殺してやる)

勇者 (そう…)ジッ

勇者は先ほど魔王に捕まれた腕を見て、その恐怖から泣き叫んだ屈辱を思い出し、悔しがるようにぐっ、と手を硬く閉じる。

勇者(2度と魔族なんかに負けるもんか…)

魔王「勇者さん?」

勇者「…!」

魔王「どうしました? 厳しい顔をして、毒をお吸いになっちゃったんですか?」

魔王「そんなきつい毒では無かったと思いましたが…勇者さんに有効な毒何ですかね…?」

勇者(あの猛毒できつくないかよ…毒耐性も規格外だな)

勇者(やっぱりだけど毒殺も出来んか…)

魔王「勇者さん?」

勇者「別に…ちょっとそう言う気分だっただけだよ…体調は関係ないし」

魔王「あ、そうなんですか、良かった」ニコ

勇者「…;」

勇者(だから…魔族が人間なんかに気をかけるなっつーの///)

勇者(どーせ芝居の癖に…)

戦魔将軍「おお、魔王様はわざわざ足をはこんでもらって申し訳ないでござる」

魔王「いえ、それで一体何か?」

戦魔将軍「いえこの地の毒の事なのですが」

魔王「…! 何か知っているのですか?」

勇者「!」

戦魔将軍「はい、儂がこの地に修行に来た昔の事だったので、すっかり忘れておりましたが」

戦魔将軍「実はこの地は、呪族(ジュゾク)が支配する土地と言う伝説がありまして」

魔王「呪族…って幻のあの!?」

勇者「…? 何だ呪族って…」

戦魔将軍「呪族とは魔界に住んでいるとされる、魔族以外の種族だ」

戦魔将軍「我ら魔族か魔力を使うのとは違って、呪力なる力を使い、呪いを得意とするらしい」

勇者「じゃあさっきの魔獣は…」

戦魔将軍「恐らくその呪族が作った呪いの獣だろう」

勇者(…ふーんなるほど、さっき攻撃が効きにくかったのが、何となく分かってきた)

勇者(聖剣には魔族特攻はあっても、呪族特攻は無かったからってか)

勇者(魔も呪も似たようなもんだけど、基本的に聖剣は創造神がタブーとして設定した物しか特攻効果がつかないからなー…)

勇者(設定し直せば良いけど、創造神にはちょっと今頼みづらいしなー…)

勇者(うーん、まあアタシの地力の力でも結構戦えそうだったし、まいっか)

勇者(戦うと決まった訳じゃないし)

勇者「まあいいや、とりあえずこの土地の毒霧は、そいつらの呪いかなんかって訳か」

神官妹「なるほどそう言う訳だったのね…」ボロボロ

神官姉「あうう…><」ボロボロ

勇者「お前ら無事…ってほどでも無さそうだな」

神官妹「見ての通りよ、無限湧きなんてどうしようも出来ないわよ」

勇者「だよな」

魔王「だ、大丈夫ですか皆さん」

神官姉「ごめんね…魔王ちゃん…失敗しちゃ…った」ボロボロ

魔王「神官姉さん」

魔王(勇者さんのお仲間なので、皆さん普通にお強いと思ってましたが…)

魔王(もしかしたら人間って勇者さん以外は、そんなに強くはない種族なのでしょうか?)

魔王(女性の方ですし、そこら辺は気を配るべきでしたか)

魔王(…神官さんたちに悪いことをしてしまいました)

魔王(これからは気を付けないといけませんね…)

魔王「すみませんでした。ご無理させてしまったようで…」パアッ(回復魔法)

神官妹「え」

神官姉「あ…」

神官妹(凄い速度の回復力…!)

神官妹(回復魔法と言うのは、いくら傷を直すとは言え、その部分を急激に再生するので、傷みを伴う筈…!)

神官妹(その傷みすら感じさせず、一瞬で回復させるなんて…何て技量なの…!)

神官姉(ああ…魔王ちゃんの回復魔法、至福のエンドレスタイム…♪)

神官妹「ど、どうも…」

神官姉「魔王ちゃん…ありが…とう///」

魔王「いえどういたしまして」

勇者「じゃあ話戻すけどさ…」

勇者「その呪族ってのに話をつけて、毒霧を解除してもらうなりすればいいんじゃないのか?」

戦魔将軍「それがそうもいかんのだ」

勇者「? 何でだよ」

勇者「もしかしてこの毒霧が、奴等からしたら空気みたいなもんで、この中でしか生活出来ないからとか?」

戦魔将軍「そんな洒落た物でも無いでござる」

勇者「…? 回りくどいな、何なんだよ」

戦魔将軍「話すもなにも呪族は既に滅んでいるでござる」

神官妹「既に滅んでる?」

神官姉「?」

勇者「…? 意味分かんないんだけど…」

戦魔将軍「呪族は一人を除いて、みんな死んだとされているでござる」

勇者「一人を除いて」

戦魔将軍「うむ、族と言う言葉は多くを示す、一人きりになったら、それはもはや呪族では無いだろう? だから滅んだと言ったのだ」

勇者「一人きりでは…呪族はもう形を成していない、だから滅んだってー訳か」

戦魔将軍「そうだ。伝説が正しければな」

勇者「伝説?」

魔王「はい、魔界神話に一つの伝説があるのです」

勇者「何それ」

魔王「はい、三千年くらい昔の話で、その当時、47代魔王に即位した魔王は、女性の方が一目見ただけで、見惚れるような魔界一の美男でした」

勇者「ふーん」

魔王「彼に言い寄る魔族の女性は引く手あまた、連日でモテモテだったらしいです」

魔王「その彼の魅力に引き寄せられたのは、同じ魔族だけではありませんでした」

魔王「その当時、魔族と同じく魔界に一大王国を構えていた呪族の王女が、その魔王に恋をしてしまったのです」

魔王「呪族の王女は魔王にその想いを告白しましたが、しかし魔王はその告白を断りました」

魔王「魔王に告白を拒絶された呪族の王女は絶望しました」

魔王「絶望し、自分が住む呪族の国に、永遠に誰も入ってこれないよう、とこしえの毒が吹き出す呪いをかけたされています」

魔王「その吹き出す毒により、国に住んでいた呪族たちは一夜にして滅んだのです」

勇者「うわー…何だその迷惑すぎる女は…」

勇者「国家全員道連れとか…流石のアタシでも引くわー;」

魔王「はは…まあもしかしたらそのとこしえの毒吹き出す伝説の地が、この荒れ果ての地かも知れないんですよ」

戦魔将軍「そして、そんなおのれの我儘で国民全員を殺すような女に、話したところで毒の解呪などやってくれると思うか?」

戦魔将軍「儂が無理と言ったのはそう言う意味でござる」

勇者「あーなるほどね。そりゃ無理だわ」

勇者「でも伝説とか、かもとか、曖昧な感じだな。ここじゃ無いのか?」

魔王「何しろ三千年前も昔の事なので、それが史実なのかどうなのか、定かでは無いので」

勇者「まーそれでも、その呪族の王女のかけた呪いの可能性があるから、いくら毒を浄化しても意味が無いって事か…?」

魔王「え? いやこの程度なら解呪は簡単じゃ無いですか」キョトン

勇者「は!?」

魔王「え…? だって実際簡単な結界魔法で、街が毒化するのは防げてますし、簡単でしょ?」

勇者「そ、そーですね」プルプル

勇者(はあ!? はあはあ!?)

勇者(アタシの結界魔法は簡単に破られちゃって、ぷ、だっさ! って言いたいのこのガキ!?)

勇者(くっっっそ腹立つ!!)

戦魔将軍「流石魔王様! これだけの事を簡単とは、お見事天晴れでござる!」

魔王「戦魔将軍さん」

戦魔将軍「はい?」

魔王「僕が父上の息子だからって、こんな子供でも出来る簡単な事で、見え透いたおべんちゃらをするのは止めてください」

魔王「あんまりしつこいと、流石の僕でもちょっとイラってします」ジト目

戦魔将軍「え!?」

神官妹「まあよく分かりませんけど、魔王様が簡単に解呪出来るなら、それをやれば良いんじゃないかしら?」

魔王「それは…出来ません」

勇者「はあ!?」

勇者「意味分かんないんだけど?」

魔王「…」


続く

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