敗戦魔王の戦後処理

てんたま

第1話 魔王「平和な魔界を作りたいです」

魔王 (…)

???「お…さ」

魔王 (…?)

???「う…ま」

魔王(…何か)

???「おき…く……い」

魔王(聞こえる)

魔王 (これは)

???「まぉう…ま…起きて……さい」

魔王(呼ぶ声?)

魔王(一体誰だ…)

魔王 (いや…)

魔王(それ以前に…ここはどこなんだ)

魔王(見えるのはどこまでも続く暗闇)

魔王 (そして…これは)

魔王(眠い…?)

魔王(そう…眠い…とてつもなく)

???(…おうさま…起きて…)

魔王(眠いから…起こさないで…)

魔王 (…)

魔王 (いや…)

魔王(何か…忘れている事が…)

魔王(起きてやらねばいけなかった事が…)

魔王(…!)

魔王(そうだ…それは!)ガバッ

参謀「おはようございます魔王様」

魔王「…? 確か…参謀…?」

参謀「はい、参謀でございます」

魔王「…ここは?」キョロキョロ

参謀「魔王様の寝室でございます」

魔王「…そうか…ここは寝室」

魔王「…そうだ…ここは寝室だ」

魔王「…う!」

参謀「いかがなさいました魔王様? 」

魔王「頭がクラクラ…する」

参謀「無理もありません」

参謀「魔王様は10年間お眠り続けていたのですから」

魔王「10年…そうか、あれから10年が経ったのか」

参謀「左様でございます。魔王様」

魔王「…? ちょっと待って」

参謀「はい?」

魔王「さっきから魔王様魔王様って」

魔王「僕は魔王じゃありませんよ?」

参謀「…確かに貴方は魔王様ではありません」

参謀「お眠りにつく前は」

魔王「…!」

参謀「ここまで言えば、聡明な魔王様にお分かり頂けると思いますが…」

魔王「父上が…魔王が討たれた…と言う事ですか…」

参謀「はい」

魔王「父上…くっ…」ジワ

参謀「心中お察しします」

魔王「…いつですか?」

参謀「つい最近でございます」

魔王「…」

参謀「貴方が前魔王様のお怒りを買い封印された10年前」

参謀「その後前魔王様は侵攻を開始し、9年間の間に人間界の9割を制圧下に治める事が出来ました」

参謀「しかし1年前」

参謀「最後に残った人間の領土から、魔王様を倒せる勇者が生まれたのです」

参謀「当初はその存在が分からず、またそれほどの力を持っている事に気付けませんでした」

参謀「しかし人間は圧倒的な不利な状況下で」

参謀「我ら魔族の目を盗み、反旗を翻すその時まで」

参謀「その勇者の資質を持った者を、我ら魔族の力を圧倒的に凌駕するほど鍛えあげていたのです」

参謀「その力で勇者たち人間側は」

参謀「たった1年で、人間の領土を支配していた七魔将軍を倒し」

参謀「ついにはこの魔界まで侵攻し、前魔王様はお討たれになられたのです」

魔王「…」

魔王「話は分かりました」

魔王「つまり僕は前魔王の後釜であり」

魔王「僕を魔王に担ぎ上げ、再び人間界を侵略しようと言う訳ですね」

魔王「…ですが僕はやりませんよ」

魔王「例えそれが父上の仇討ちに繋がる事でもです」

参謀「分かっております」

参謀「だから貴方が魔王に選ばれた」

魔王「…? どう言う事です?」

参謀「魔族は人間に無条件降伏しました」

魔王「え…!?」

参謀「驚きましたか?」

魔王「え、ええ…少し」

魔王「魔族は基本的に人間を下に見る傾向がありましたからね」

魔王「だから人間に降伏するくらいなら、名誉ある死を選びそうでしたから」

魔王「それが無条件降伏を受け入れるなんて…驚きました」

参謀「まあそこら辺の経緯は後程にでも」

参謀「とにかく魔族は無条件降伏を受け入れました」

参謀「しかし人間側が無条件降伏を締結させる際に条件を出してきました」

参謀「それが貴方様の魔王即位です」

魔王「僕の…?」

参謀「はい左様でございます」

魔王「僕のような弱い魔族を魔王に据えるのを条件にするって…」

魔王「一体何故?」

参謀「…人間たちの権力者は魔族とその魔界の土地を利用して生み出される利益に目をつけました」

魔王「利益…」

参謀「はい、その事に関しては無条件降伏を受け入れた」

参謀「人間側に降った魔族の有力者たちはその条件を受け入れたのですが」

参謀「それで直接的に生活に負担を被る下位魔族の不満が爆発し」

参謀「魔界では大規模な暴動が起きることを懸念して」

参謀「人間たちは形だけでも魔族主導の元の政治体制を作る事にしました」

参謀「自分たちの言う事を聞く従順な者を魔王に据えることで」

参謀「つまりそれは…」

魔王「そっか…良く分かったよ」

参謀「…」

魔王「つまり平和になるって事ですね!」キラーン

参謀「は?」

魔王「だって僕は戦争をする気は無いのですから」

魔王「僕が人間さんたちが争いしないように付き合えば」

魔王「戦争が…争いが根本的に無くなるって事じゃ無いですか」

魔王「それは平和になるって事じゃ無いですかキラキラ」

参謀「いや魔王様それは…」

参謀「…」

参謀「…いや、そうでしたね」

参謀「貴方はそう言う魔族でしたね」

魔王「?」

参謀(…魔族でありながら、人間すら愛し慈しむ優しさを持っており)

参謀(その事から極度に争いを嫌う傾向)

参謀(前魔王の人間界侵略を最後まで反対し)

参謀(それ故に前魔王の怒りを買い封印されてしまった魔族の変り者)

参謀(この性格は封印された10年前と変わらずか…)

参謀(まあ10年封印されていたとは言え、昨日今日で起きた感覚)

参謀(当然だが変わる訳も無しか…)

参謀(そしてその優しさが傀儡にするのにうってつけだと)

参謀(人間たちに目をつけられた訳だが)

参謀(…まあその情報を売ったのは私ですがね…ククク)

魔王「どうしました参謀? 何か楽しい事でもあったのですか?」

参謀「…! いえ魔王様は全く変わりない事に少し安心した物を感じて」

参謀「失礼致しました」

参謀(顔に出ていたか…ふ、気を付けねばな)

魔王「そうですか…まあ僕は魔族の中でも変り者でしたからね」

魔王「おかしく思われてもしょうがありませんね」

参謀「いえ、大変失礼致しました」

参謀「魔王様のお気を煩わせるとは、私も自覚の足りないところがございました」

参謀「どうかこの未熟者をお許し下さい」ペコリ

魔王「ちょ…! そ、そんな止めて下さい」

魔王「本当に気にしていませんから…!」

参謀「お気遣いありがとうございます、魔王様」

魔王「ふう…何かこう言うやり取りもいつか無くしたい物ですね」

参謀「は…? と言いますと?」

魔王「王様とか家来とか、そんな堅苦しい関係です」

参謀「…失礼ながら、秩序を守るためには必要最低限な事柄かと思いますが」

魔王「それは分かっています」

魔王「そう言う関係を全て無くすと言う訳ではありませんが」

魔王「僕が魔王をやるなら、そんな上とか下とかの関係に縛られないで」

魔王「みんなが笑って暮らせるような、そんな明るい魔界にしたいのです」

参謀「魔界と言うところに凄い矛盾を感じる言葉なような気がしますが」

参謀「この参謀、及ばずながら出来る限り魔王様が望まれる未来になるよう尽力致しましょう」ペコリ

魔王「ほ、本当ですか! ありがとうございます」

参謀「いえいえそれが参謀としての仕事であり本懐でありますのでお気にせずに…」

魔王「は、はい…ありがとうございます」

コンコンコン───。

参謀「おや…そろそろ時間になってしまったようですね」

魔王「時間…?」

魔王「何のですか?」

参謀「人間との会談です」

魔王「会談?」

参謀「人間たちは魔王様が目覚めたら早急に今後の事をお話したいと申しておりました」

魔王「え? 人間の人たち待たせていたんですか?」

参謀「はい」

魔王「それはいけない!」

魔王「せっかく人間と魔族が共に仲良く出来るきっかけが作れるかも知れないのに」

魔王「相手を待たせるような失礼な事をしたら、それも破談になってしまうかも知れません」

魔王「急ぎましょう! 参謀さん」

参謀「かしこまりました」


続く

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