第2話:異世界転生キャンペーン実施中。
光に包まれた私は、しばらく経ってから恐る恐る目を開けた。
辺り一面真っ白だ。
と、目の前に、大きなまん丸い生物が現れた。
縦長の可愛い瞳にニッコリと開いた口。色はなんとピンク色だ。
楕円形の足がついたその不思議な生き物は、ふっくらした形の大きな黄色い星の上に座っていた。
「ほ、星の◯ービィ……?」
思わず口をついて出てしまった。なんでこんな所にゲームのキャラクターが???
カ◯ビィの笑顔の口がパクパクと動き始めた。
「おめでとーさん。お主、当たったぞい」
「うぁっ!カー◯ィが喋った!」
可愛い外見に反して、声はオジサンだ。
うっ、なんか気持ち悪い。
「あの、当たったって……?」
恐る恐る問いかける。カ◯ビィの口がさらにパクパクする。
「お主、自分が死んでしまったことに気づいとらんようじゃな」
「はいぃ?」
我ながらマヌケな声を出してしまった。
◯ービィが心なしかドヤ顔になり言う。
「聞いて驚けい。只今、『異世界転生キャンペーン☆キミも今日から勇者だ!』を絶賛実施中なのじゃっ!此度は隕石に当たって死んだお主を、特別に異世界に転生させてやろう!」
えっ、何そのネーミング?と思う気持ちを懸命に抑え答える。
「えっと……あの、マジですか……じゃあさっき見た光の塊は隕石だったってことですか?」
「そうじゃ。バーンと当たって、ドーンと死んだぞい。隕石に当たったおかげで、キャンペーンにも当たったってか!フォッフォッフォッ!」
いやいや、面白くないし!
得意そうなカー◯ィに、心の中でツッコむ。
てか、隕石が落ちたアパートはどうなったんだろう。チラリとそんな考えが浮かんだが、すぐ消えた。
まあ異世界に行けるんだし、この際細かいことは置いとこう!
「お主が今回のキャンペーンの記念すべき当選第一号じゃ。初回特典として、なんと!転生先を選ぶことができる!」
わーーお。
すごいお得なキャンペーン!!
小説なんかだと、普通は強制的に何かに転生しちゃうものねぇ。
一応、先ほどからの疑問だけは聞いておく。
「あのー……、あなたは神様……的な感じですか?」
「『〜的な感じ』などとフィーリングで話すのはやめるのじゃ。全く、社会人だというのに恥ずかしい。むろん、ワシは神じゃ」
「さりげなく落としてくるのやめて!神様なのになんでそのキャラの姿なんですか?」
「ワシの姿は見る者によって異なるんじゃ。ワシが何に見えるかは、その人間次第。つまり、お主が見ているワシの姿は、お主自信が作り出しているのじゃ」
「ええ〜〜。じゃあ『NAR◯TO』のカカ◯先生とかの方が良かった……。あのう、今からでも変えられませんか?」
「誰じゃそれは。悪いが無理じゃ。1度決められた形は変えることはできん。それより、さっさと転生先を決めんかい!ワシもヒマじゃないんじゃ」
◯ービィ姿の神様が、座っていた星から降りてくる。その星を縦にして固定すると、星の表面に四角い画面が現れた。そこに、ブーンという音と共に文字が浮かび上がる。意外にも文字は日本語。どうやら、転生先のリストらしい。
私はここぞとばかりに勢い込んで言った。
「はいはいはいはいっ!!姫っ!!姫がいいですっ!」
「ぶっ!!わかった、わかったっ!近い!息がかかっちょるっ!!」
はっ、つい……。私としたことが興奮してしまったわ。
危うくカ○ビィにキスしそうなくらい近づいていた。
神様がため息をつきながら言う。
「はぁ〜〜〜〜、また姫か……。毎回毎回飽きもせず、貴族の子弟だ姫だ魔王だなどと……。最近は村人とか、スライムとかだって人気があるんじゃぞ」
「いやいやいや!断じて姫希望っ!それも美人!んでもって、イケメンに囲まれてあちこちで求婚されまくるっ!!」
「はいはい、そっち系じゃな……。乙女ゲー的展開と言うのか……。まったく、女子というのは……。じゃあ絞り込み検索っと……」
カー◯ィがよちよちと星の画面をタッチし始めた。
……手が短いからやりづらそう。
しかも、1回タップするごとに「ヨイショ」とか「ドッコラショ」って言ってる。
うちの会社のオジサン社員がパソコン使ってる時にそっくりだわ。
笑いをこらえているのを神様に気づかれないように、そっと手で口元を抑えながら画面に近づく。
「あの、よかったらお手伝いしましょうか?」
「悪いのう。ここじゃ、ここ。そう、そこをポチッと押すのじゃ」
「はい、ここですね。……あ、出てきましたよ」
「うーん、文字が小さくて読めんのう。あんた、読んでくれんか」
うぷぷ……、完っ全に機械に弱いオジサン状態である。
はいはい、と言ってリストを読み上げる。リストの上位にあったのはこれだった。
※※※※※
職業:アガタ王国 第一王女
魔法スキル:素質あり 修練次第で上位魔法も使いこなせる
外見:金髪碧眼、かなりの美女になる予定
婚約者:あり、隣国の王子など候補は多数
※※※※※
へぇ〜、こんな風に選べるの超便利。
金髪碧眼の美人の王女様かぁ。
横に画面をスクロールしてみた。
すると、その王女の名前が記されていた。
ゴロツキーヌ・アバレンダー。
「うっ……、この姫はちょっと……」
「何が不満なんじゃ?この転生先はなかなか高スペックじゃぞ。魔法の才能はあるし、王国は周辺一の金持ち国じゃ。婚約希望者もゴロゴロ出てくるじゃろう」
「でも名前がダサいんです」
「そんなもん、後で改名すればよかろう」
「それはそうですけど。他の候補も見ていいですか」
そう言って画面をスクロールすると。
出るわ出るわ、おかしな名前のオンパレード。
オシリーナ・マガジンスキ。
プッチ=モニカ・フルイーヨネー。
アスコクサ・アリエナィー。
セカイーノ・オ・ワーリ。
「いやああぁ!何これぇ!?ふざけた名前ばっかじゃないのぉ!」
思わず叫んでいた。
『ほっかむり』として、これまで名前で苦労した数々の出来事が思い出される。
改名すればいいと言うが、それだってすぐ変えられるかわかったもんじゃない。
今まで名前で嫌な思いした分、せめて転生先では可愛い名前に生まれ直したいっっ!!
「神様、お願いです!可愛い名前のお姫様になりたいんですぅ!できますか?」
「何じゃまったく、名前ぐらいで。普通は神は転生後の設定までは干渉しないんじゃぞ。名前はあくまでも資料として入れてるだけじゃ!」
「そんなぁ〜〜。こんなフザけた名前になるくらいなら死んだ方がマシだよ〜」
「もう死んどるじゃろが」
「それもそっか。あー、じゃあもう転生やめよっかなぁ……」
「おい、それは困るぞい。こちらにもノルマがあるんじゃ。今月中に最低20人は転生させないとボーナスがもらえなくなってしまうんじゃ」
「何それ!?神様って、会社員みたいなもんだったの!?」
「そうそう、成績が上がらないとすごい年下の神にまでタメ口きかれたりのぅ……。って、そんなことはいいんじゃ!ほら、さっさと選ばんかい!キャンペーン中の今だから選ばせてやってるんじゃぞ」
神様の世界も意外と大変なのねぇ。
でも、なんか異世界転生の押し売りみたいになってない!?
もっと特別な感じを出してほしいんだけどなぁ……。
とにかく、画面のリストを最後までスクロールしながら、名前のみを逐一チェックする。すると。
「あっ……これ。『ルナ・シー』だって。これなら何とか」
若干、某ビジュアル系バンドが思い浮かぶが、これならまだ許容範囲内だ。
「んー?あ〜〜、この転生先か……。これはちょっと難あり物件でなぁ……。まあ、姫の外見や魔法の素質は申し分ないんじゃが……。これよりは、1番最初のゴロツキーヌ姫の方がいいぞい
「えー、この姫がいいー!ダメなら、やっぱ転生やめよっかなぁ〜〜」
ごねてみると、神様が若干神妙な声になって問う。
「お主……後悔しても知らんぞい。この転生先には、難しい試練が待ち受けているじゃろう。引き返すなら今のうちじゃが……」
「難しい試練って?」
「それは、残念じゃが教えられん。まあ、おススメはせん、ということじゃ」
難しい試練かぁ。どんなのだろう?
ルナ・シー姫の他の情報を見ようと、画面をスクロールした瞬間、聞き覚えのある携帯の目覚ましのアラーム音がどこからともなく聞こえてきた。
たんたんたららら らららら~ん。
たんたんたららら らららら~ん。
えっ!!ここまで来てまさかの夢オチ!?
焦っていると、神様が言った。
「お、時間切れじゃな。後30秒で転生先を選ばないと、ランダムに異世界に飛ばされるぞ。さ、早いとこ選ぶんじゃ」
「30秒って……ええぇ~~!!」
「ほら、どれにするんじゃ、ゴロツキーヌか、ルナ・シーか?」
「くっ……究極の選択過ぎないですか?ええっと、じゃあ、やっぱルナ・シーで!!」
選んでしまった。
「わかった。決まりじゃな。
それでは……
『1名様、ご成約頂きました〜〜!!!』」
神様はそう言うなり、どこからともなく出現した紐をグイッと引っ張った。
途端、それまで立っていた場所が、まるで落とし穴の口が開くようにパカっと開いたではないか!落ちるーー!!
ひゅるるる〜〜ん。
「きゃあああああーー!!」
「達者でなー」
こうして、なんとも罰ゲームちっくな移動方法により、私は異世界に転生したのだった。
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