第4話接触1

福岡県 中心部


「対象の移動無し 確認」

先刻の魔法陣からの攻撃で、化物達を一掃した後、彼らは動く気配を見せなかった。

それどころか、食事を取ったり、レジャーシートのようなものを出して寝転んだりと、リラックスムードだ。

「あれ、何してんでしょうか。」

監視に当たっているSATの一人が、スコープを覗きながら先輩隊員に話しかける

「まあ、飯食って、昼寝か。。。数万人を吹き飛ばした後の行動としては、常軌を逸しているけどな」

今は報道のヘリは全て引き払っており、更地にされた中心部の監視はとても容易だった。

ただ、二キロ以上離れているはずのこちらと、たまにスコープ越しに目が合う事が気味が悪かった。

隊員は恐らく偶然だろうと、自分に言い聞かせる。

監視任務前に見た彼らの戦闘は、およそ常識とかけ離れている。

あんなものが、こちらに敵意をもってやってくれば確実に殺される。


彼らが監視している、倒壊を免れたビルに2台の車が近づいてくる。

一台は黒塗りの高級車で、もう一台は自衛隊の中型トラックだった。

ビル玄関で車を停車させ、三名が下りてきた。

一階ロビーを待機所にしていた。SAT隊員の玄関に向かいにでる。

「報告は聞いております。福岡県警 第二機動隊 SAT隊長 満島猛です。」

玄関先で出迎えた満島はぎょっとした。自衛隊隊員の装備に。

「完全武装だな。良く許可降りたな」

そう、聞こえないよう呟いた。

「只今より、対象と接触いたします。外務省 総合外交政策局 安全保障政策課 安藤司です」

「西部方面普通科連隊 徳山渡 一等陸曹です 」

「同じく、西部方面普通科連隊 檜山実 二等陸曹です」

「外務省の車はここに置いておきます。多分これから先には進めないでしょうから」

手短に自己紹介を終えた三人は直ぐに、自衛隊の車に乗り込む。

「頼むから、これが戦争の始まりになったりしないでくれよ。」

そう言いながら、安藤たちを見送った。


「見事なまでに、瓦礫の山ですね徳山先輩」

「不謹慎な事を言うな、檜山」

「す、すいません」

「しかし、徳山さん、自衛隊の武装でこの状態にする事は可能ですか?」

「安藤さんそれ、どういう意味ですか?」

徳山は顔をしかめんがら、半径約500メートルの瓦礫ばかりとなった、元商業ビル群を見渡した。

「敵戦力の把握と、興味半分です。そんな怖い顔しないで下さいよ。」

安藤は肩をすくめた。

「立場上答え辛い質問です、ご容赦願いないでしょうか。」

「口外はしませんよ。徳山さんの私見で構いませんので。」

徳山は安藤の目を覗き込み、もう一度周囲を見渡した。

「口外しないで下さいよ。」

「勿論ですよ。」

「恐らく航空、海上自衛隊が保持する対地ミサイル、実際は対艦ミサイルなどの名目になっていますが、そこら辺まで駆り出せば、というところでしょうか。」

「そうですか、いやー。ファンタジーの世界ですね徳山さん、檜山さん。」

今年37になる安藤は、これから自分が行う任務を分かった上でそれでも楽しそうな笑顔を浮かべた。

「私は、ドラゴンファンタジーや、ファイナルクエスト世代ですからね。少しワクワクしているんですよ。

映像も見ましたが、魔法使いの大魔法で一発という感じだったですよね。」

徳山と檜山は一瞬顔を引きつらせた。彼らは西部方面普通科連隊の中でも最精鋭のレンジャー小隊所属の隊員であり、心身共に鍛えられた者達だったが、安藤の笑顔は底冷えのするようなものだった。

何せ、少なくとも2万人以上がすでに亡くなっている可能性が高いのだ。

勿論、今年35歳となる徳山、32歳となる檜山もゲームもファンタジーも意味は分かっている。

むしろ最も熱中した世代だと言ってもいい。しかし、目の前に突き付けられた現実をゲーム感覚でとらえられるほど、狂ってはいなかった。

「そ、そうですね。まるでゲームの世界です。」

徳山は言葉を合わせるだけで精一杯だった。

「見えてきましたよ。」

車両を運転してくれている隊員から声がかかる。

「それでは、ご対面ですね。」

安藤は相変わらず機嫌がよさそうだった。徳山達との顔合わせの時はポーカーフェイスだと思っていたが、そうではないらしい。

逆に、最初は一番元気だった檜山が一番青ざめていた。


爆心地にいた5人は、こちらの接近に合わせてレジャーシートのようなものから立ち上がっていた。

そして、攻撃の意思はないのか、武器を手にして構えている者などもいなかった。


彼らの近くに止め、安藤、徳山、檜山の三人は車両から降りた。

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