第3話密談

官邸三階、正面玄関側のエントランスホールは、マスコミでごった返していた。

矢継ぎ早に質問されるが、今は回答は控え、急ぎ車に乗り込んだ。

車に乗り込み岸は大きくため息をついた。

「桐谷君、聞いたかね、質問の中に英雄だの勇者だの言う声が多かったのを、あの映像を見てどうしてそうなるのかね。」

「マスコミは分かりやすいものが好きですから、被害の事実を知っていたとしても。」

「報道の自由ね。」

言葉を切ったあと、岸は続けた。

「今からの会合は気を引き締めなければな。」

岸はスーツを整え、髪を撫でつけた。


都内 料亭


「遅れて申し訳ない。」

先客が全員いるのを確認しながら、桐谷とともに部屋に入る。

「今回は大変でしたな。」

先客達は口々に、岸に労いの言葉をかける。

―さて、こいつらは、今回の件どう見ているのだか―

そう考えながら、岸は労いの言葉に答えと後、先客達に問いかける。

「本日お集まりいただいたのは、皆さんの率直な意見を聞かせてもらう為です。

 あの化物共を倒した者達を、どのような立場で記事にされる予定ですか。」

先客達、大手新聞会社5社の代表達は当然そのために呼ばれたことは理解している。

「まあ、好意的な論評にはならないでしょうな、特に最後がまずかった。生存の可能性を殆どなくしてしまった。」

「わが社に至っては、ヘリを落とされている。残念だが、生きてる可能性もまずないでしょう。」

5社の代表達は、岸が更に頭を痛める内容で記事にすることはなさそうだった。

「まあ、我々がそのように記事にしたとしても、近頃はインターネットの掲示板やSNSなんかで、世論は思はぬ方に転がったりしますからな。」

「そうそう、すでにネットなんかでは救世主が現れたなんて、大騒ぎだと下からは聞いているからね。」

お前らの会社のリポーターのせいでもあるんだよと、叫びたくなったがぐっと堪えた。

「ここからが本題なのですが。」

岸の言葉に、その場にいた全員の表情が硬くなる。

「その前に、この件に関してはオフレコを約束して頂きたい。」

岸が言葉をつづける前に、桐谷が全員の顔を見て確認した。

「勿論です。お話の内容は想像がつきますが、今回はお互い抜け駆けはしません。」

珍しく、自由党政権を叩くことを社是としている新聞社の社長が口にした。

他社の代表者たちも表情は硬いままだが、同意して見せる。

「同意して頂いた事、感謝する。では本題だ。今すぐにではないが、彼ら五人の行動次第、もしくはまた化物達が現れた場合、最悪自衛隊の防衛出動がありえる。その場合どのようなスタンスを取られますか。」

無言。どの代表者も答えは持ってきている筈だった。

しかし、全員がけん制し合うような空気が流れる。

しばらくの沈黙の後、みょうにち新聞の代表者が口を開く。

「今回に関しては弊社は、大筋において賛同の評を行うでしょう。勿論、幾つか注文をつける形になるでしょうが。」

「基本的には弊社も、みょうにちさんと同じでしょう」

岸は少しほっとした。左派新聞二社が条件付きだが賛同の意思を表明したのだから。

「今日は皆さんの考えを聞けて良かった。私たちはこれで失礼させてもらう。」

目の前に並べられた食事には手を付けず、水だけ一気にあおって、桐谷と退席した。

岸達が退席した後、各社の代表たちも三々五々退席していった。

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