吸血鬼『カーミラ』の想区

月華

第1話

私は誰からも愛されずに、吸血鬼になることが運命の書で知った。

そのことを知った時、私は絶望した。

このまま誰からも愛されずに吸血鬼になるなんて嫌。

吸血鬼になる前にどうか一回だけでいいから、だれでいいから私を愛してーーーーーー。


この想区では、また今日も女性の怯えた声、吸血鬼の男の小さな笑い声が聞こえる。

女性の首筋から深紅の血が鎖骨を通って、ツー……と滴る。

吸血鬼は深紅の血を一滴も残さぬように、口に含む。

吸血鬼が血を飲むたびに、女性の顔色はまるで死人のように青白くなっていく。


「まだ、死にたくない……っ」


淡い希望と共に女性はアスファルトの上に倒れこんだ。


「もっと血がほしい……」


アスファルトの上に倒れこんだ女性には見向きもせず、吸血鬼は次の獲物となる女性を探しに立ち去った。


「早く、……早く、会いたい」


吸血鬼は満月に願うように、目をつぶりカーミラの笑顔を思い浮かべた。


「待ってて……カーミラ」







『沈黙の霧』が広がる世界においてもカオステラーの気配を感じとり向かうべき想区へやってきた。


「ここどこ~?お腹すいた!!」


レイナの声は町中に響く。

しかし、この声に応える人はいない。


「姉御、めっちゃうるさいです」


シェインに一蹴にされたレイナは多少ムッとしながらも相当お腹が空いたのか辺りをキョロキョロしている。


「ここはどんな想区なんだろう?」


「どこでもいいじゃねーか。ちゃっちゃと終わらせて、パパッと次の想区に行こうぜ」


エクスの言葉に反応を示したタオは、いつものお調子者だ。


「ちょっと!!なんでタオが指示だしてんの!?リーダーはこのあたし!!」


「いや、俺だろ」


レイナとタオはいつものどちらが一行のリーダーか争っている。


「止めなくていいの?」


「時間の無駄なんです。新人さん、お願いします。」


いつもの光景に安心しながらもエクスは苦笑いで二人の痴話げんかの中に巻き込まれる。


「あれ?」


レイナは何かに気づき、首を傾げる。


「レイナ、どうしたの?」


「お嬢何か美味しそうな物でも見つけたか?」


タオは相変わらずレイナをからかっている。


「おふざけは禁止ー!!こんな真昼間に人が一人もいないのはおかしくない?」


「確かに……」


「まるで何かに警戒しているようですね」


シェインの言葉にエクス、レイナ、タオは考え始める。

町中の人々は家の中から『何か』に警戒する。


「まずは情報集めでもしようじゃねーか……」


タオの言葉に頷くエクス、レイナ、シェイン。


「こんな所にいると吸血鬼に襲われちゃいますよ?」


「きゃぁぁぁ!!」


レイナの背後にはメイドの格好をした髪の短い黒髪の女の人が居た。

驚きでバランスを崩し、後ろに倒れかけたレイナを素早く支えたのはタオ。


「おっと……お嬢大丈夫か?」


「ありがとう……、ちょっと驚いただけ……」


「ごめんなさい、こんなに驚くなんて思っていなくて……私、メアリーと申します」


「平気よ、それより吸血鬼が出るってどういうこと?」


申し訳なさそうな顔をするメアリーにレイナは詰め寄る。


「はい、ここの想区は吸血鬼の想区でございます。だから町中の人は怖がり必要最低限の外出しかしないのです。つい、先日も何人か女性が襲われ、帰らぬ人となりました」


「貴方は襲われるかもしれないこの状況で、なんで一人で出歩いてんですか?」


「私はカーミラ様を探しに来ただけです」


「カーミラ様?」


「はい、私の大事なご主人様です」


メアリーは心底愛おしそうに遠くを見つめて言った。


「誰か……たすけて……」


か細い少女の声、その声をエクスとメアリーは聞き逃さなかった。


「女の子の声が聞こえる……」


「カーミラ様っ……!!」


メアリーは蒼白で声がした方向に急いで走っていく。


「あっ!待ちなさい!!」


レイナの焦った声が聞こえる。


「僕たちも追いかけよう!!」


エクスの言葉にレイナ、シェイン、タオは急いで声のしたほうへ走っていく。


「グルルル……」


小さくうずくまっていて姿は見えないが、確かにヴィランの中心に女の子がいる。


「助けて……っ、メアリー!」


「このメアリー、命を懸けてカーミラ様を守り抜きます!!」


取り出したのはナイフ。


「私たちも助けるわ!!」


エクス達は『導きの栞』を手にし、すべてのヒーローの魂とコネクトできる『ワイルドの紋章』を取り出した。


---------------




エクスたちはヴィランを倒し、メアリーに抱きつく女の子を見た。

髪の長い、白色の女の子。

メアリーはカーミラをあやすように頭を撫でる。


「助けてくれてありがとう」


カーミラはエクスたちに笑顔でお礼を言う。


「無事でよかった」


「いえいえ」


エクス、レイナは笑顔で応える。

シェインとタオは照れくさそうに笑う。


「メアリーもありがとう」


「ご無事で何よりです」


カーミラはお花が咲いたように微笑み、メアリーに勢いよく抱きついた。


「あの、もしよかったら家に泊まりませんか?助けてくれたお礼にご飯とかご馳走させてください」


メアリー控えめにエクス達に向かって、今夜の宿に申し出た。


「え、ほんと!?」


レイナがその申し出に食いつき、エクス達はカーミラの宿へ向かった。








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