第7話 Open the Libido 後編

「封印していた力を使わねばならないということか……」

 その顔は、何かを決意したヒーローの顔だった。


「少年…私が瓦礫をどかす。もう一度中へ入って店員を外へ運べるか?」

「もちろん!だけど、どうやってあの瓦礫をどかすんです?」


サラリーマンは立ち上がると

「そこの奥さん、協力をお願いします」

「えっ?私ですか?はい!」

ショートカットの奥さんが、サラリーマンに手招きされるがままこちらに近づく。

「ありがとう…瓦礫の方を向いて立ってください」

「え?」

「急いで!」

「はい!」

男は奥さんの背後に回って深く深呼吸する。

「オープン ザ リビドー!」

大声で叫ぶと、サラリーマンは奥さんの脇の下から両腕を突き出し胸をガシッと掴んだ。

「ホールド!」

そしてサラリーマンは奥さんの胸を揉みはじめる。

優しく撫でるように…親指と人差し指でバストトップをブラウスのうえから優しくもてあそぶ。

右手でブラウスのボタンを器用に外し左手がスルリとブラウスの中へ、イエローのブラジャーがブラウスの隙間から覗いて見える。

左手が奥さんのブラジャーの下へ滑り込むと奥さんから

「んっ…」

と吐息が漏れた。

サラリーマンの右手が左手と入れ代わる

「左手は添えるだけ……」

右手がバストトップをまさぐり、左手は形の良いバストをいつくしむように撫でる。


「少年!そろそろだ……準備しろ!」

サラリーマンが叫ぶ。

呆気にとられていた僕は、その一言で冷静になった。

(なにやってんだ?あの人?)


まばらに集まった人達も、ほぼ同時に冷静になったようだ。

「なにやってんだ!この非常時に!」

サラリーマンが袋叩きにあっている。

奥さんはサラリーマンから離れようと必死で足掻く。

「少年!私のことは気にするな!耐えてみせる…自分の限界を超えても、この高まったリビドーを維持してみせる!キミが戻るまで」

(バカだ…本物のバカだ…)

そう思った瞬間、瓦礫がゴトリと動いた。

「行くぞ!少年!走れ!」

グワッと瓦礫が宙に舞いあがる。

(WHAT?)

「走れ!私は長くは持たない…」

そのようだ…傘で叩かれ、蹴られ…それでも奥さんの身体にしがみ付いて離れないサラリーマン。

その視線は真っ直ぐ瓦礫を睨んでいる。

「念動力か?」

今は考えてる場合じゃない。

僕は店内に走り込んだ。

店員さんを担いで、外に出る。

「グッジョブ…少年…」


瓦礫が再び音を立てて地面に落ちた。

直後、救急車が到着する。

僕は拍手と歓声で迎えられた。

店員さんが救急車で運ばれてすぐに、警察がやったきた。

さっきまでボコボコに殴られていたサラリーマンが僕に近づく。

「ヒーローはキミだ」

すっと手を差し出した。

僕はサラリーマンの手を強く握りかえした。

「あなたは…もしかして念動力を?」

「おっと…少年…それは秘密だ」


「もういいか?いくぞ痴漢の現行犯だ!9時32分逮捕!」

サラリーマンの手に手錠が嵌められた。

スーツの上着で顔を隠しながらパトカーに乗るサラリーマン。


警察官が僕に近づく。

「キミは勇敢な少年だな」

敬礼をして立ち去る警察官。

JKのパンチラを眺めていたら遅刻した中学生は人命救助の英雄となり。

社会的地位を失ってまでも人命救助をしたサラリーマンは痴漢の現行犯で逮捕。

世の中とは不条理なものだ。


夕方のニュースで僕はTVに映っていた。

勇気ある少年として、その後、同じ現場で痴漢のニュースが流れたのである。

(中静なかしずか 静雄しずお……シズシズか…)

シズシズ…あれは僕と同じ…超能力者だ。

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