第10話『最凶VS最強』
ベネットとジミーがステージに上がると歓声は一気に最高潮のものと化した。
ベネット! ベネット! ベネット!
ジミー! ジミー! ジミー!
二人は歓声を上げてくれる観客たちに微笑みながら手を振って応える。
しかし、その歓声は対戦相手の入場により一斉に静まり返った。
音もなく現れては理不尽に暴力を振るう双子の不良兄弟。
その暴れっぷりを評して風雷坊と呼ばれ恐れられている。
どの面下げてステージ上がってきたんだ!
この人でなし兄弟が!
テメェ等なんざお呼びじゃないんだ!
帰れ! 帰れ! 帰れ!
生徒会コンビとは逆にブーイングの嵐を受けるウィリアムス兄弟。
しかし、ギルバートは特に気にする事無くフンッ! 鼻息を吐いて対戦相手のベネットとジミーを睨みつけた。
「ようやくテメェ等と決着をつけられると思うと楽しみで仕方がなかったぜ」と不敵に笑うギルバートに対してベネットは「まさかこんな形で決着をつけることになるなんてな?」と返した。
「何故、去年は出場しなかった?」
ベネットの問いにギルバートは黙り込み、そして暫くして口を開いた。
「最強になる為に力を蓄えていたんだよ。 テメェ等全員を軽くぶっ潰す事が出来る程のな」
対してベネットは「そうか」と特に気にしなかった。
「余裕ぶっているテメェ等に良いものを見せてやるよ」とギルバートは歯を剥き出しにしながら右手の薬指に嵌めた碧色の調律石があしらわれた指輪を出す。
それに合わせる様に双子の弟のアルバートも右手の薬指に嵌めた同調アイテムを出してギルバートの指輪に近付ける。
すると一〇〇と言う数値が浮かび上がった。
馬鹿な!? 同調率一〇〇パーセントだと!?
会場中がざわつき始める。
「レオン、君以外の人間でも一〇〇パーセントの数値を出せるのは可能なの?」
観客席でギルバートたちの同調率を見たミシェルの問いにレオンは「不可能な話ではない」と答えた。
「さあ、始めようぜ。 既に勝敗が決まった準決勝ってヤツをな!」
高笑いを上げるギルバートに「同調率一〇〇パーセントだからって必ずしも勝てるとは限らない」と顔色を変えないまま虚勢を張るベネット。
審判は「これより、ギルバート、アルバートコンビ対ベネット、ジミーコンビの試合を始める。 二組共、構えて」と腕を前に出した。
それと同時に二組は戦闘に入る態勢をとる。
観客席に座る人たちは一斉に黙ってただその様子を見守った。
「始め!」
審判が試合開始の合図をとると、二組共ほぼ同時に融合した。
「アクア・ランス!」
先手を取ったのはベネットとジミーの同調体だった。
彼は水の魔法で槍を精製し、双子の同調体に放つ。
しかし、双子の同調体は風で渦巻いた盾を作りそれを防いだ。
「どうした? その程度か?」
余裕の笑みを浮かべながら煽ってくる双子の同調体に「勝負はまだ始まったばかりだ」とベネットとジミーの同調体は声を上げて今度は炎で出来た矢を三本程飛ばす。
だが、双子の同調体は焦る事無く風で精製した盾で吹き消した。
「どうして生徒会長たちは混合魔法を使わないの?」
ベネットとジミーの同調体の戦い方を見て疑問に感じたミシェルにレオンが丁寧に説明した。
「ベネットたちが起こす霧は水を炎で蒸発させて出来ている。 しかし、対戦相手のギルバートたちは雷と風。 水は電気を通す。 その危険性があって使えないんだ」
「それじゃあ、生徒会長たちに……」
勝ち目は無いじゃないかと口にする前に、「大丈夫ですよ」とフィリップが言葉を被せた。
「あの人たちは俺たちを纏めるリーダーだ。 絶対に勝利を捥ぎ取ってくれる」とジョニーが少し強い口調でそう言った。
そんな生徒会役員たちの様子に、ベネットたちは信頼されているんだな、と改めて感じるレオンであった。
「フレイム・アロー!」
ベネットとジミーの同調体は炎の矢を三本精製して放つと双子の同調体は風の魔法で難なくそれを吹き消した。
それによりベネットとジミーの同調体は僅かに眉根を寄せる。
同調率一〇〇パーセントと言うのはこれ程の力を秘めているとでも言うのか?
全くこちらの魔法が通らない。 通る気配すらない。
そんな生徒会コンビの同調体の心情など知らない双子の同調体は詰まらなさそうな表情を浮かべながら首を左右に捻る。
「そろそろ決めるか」
ギルバートとアルバートの同調体の発言が気に食わなかったのか、ベネットとジミーの同調体は「何だと……?」と拳を強く握り締め怒りを露わにする。
「出来るものならやってみろ! フレイム・ランス!」
ベネットとジミーの同調体は中級魔法と呼ばれる一際大きく威力のある炎の槍を放った。
対して双子の同調体は特に気にする事無く片手を前に出し、「サンダー・アロー」と雷の矢を一本放った。
その雷の矢は目にも留まらぬ速さで宙を駆け抜けベネットとジミーの同調体が放った炎の槍を突き抜けた。
「何だと!?」
驚愕を顔に浮かべた時、ベネットとジミーの同調体は突き抜けてきた雷の矢を諸にくらい悲鳴を上げて地面に伏せる。
「会長! 副会長!」
予想外の展開に思わず席から立ち上がる生徒会役員たち。
「中級魔法を初級魔法で勝るなんて……!」
信じられないと言った様子で驚くミシェル。
双子の同調体は倒れているベネットとジミーの同調体に追い打ちをかける様に風の矢を放つ。
「アクア・シールド!」
咄嗟に水の盾を精製するも、相手が放った風の矢が無残に貫通してダメージを受けるベネットとジミーの同調体。
そしてその間に距離を詰めていたギルバートとアルバートの同調体が容赦なく生徒会コンビの同調体の腹部を踏みつけ電撃を浴びせた。
悲痛な声を上げる自分たちの憧れの存在の姿に耐えられなくなったアンナは「もう止めてっ!」と目に涙を溜めながら金切り声を上げた。
しかし、そんな切なる叫びに双子の同調体は聴く耳を持つことなくベネットとジミーの同調体に電流を浴びせ続ける。
その瞬間、双子の同調体は後方から只ならぬ殺気を感じ、思わずベネットとジミーの同調体に電流を浴びせるのを止めてそちらへと振り返った。
そこには、以前、ギルバートと一騎打ちをして敗北したミシェルの看護をしてくれた保険医のアントニーがいた。
彼はただ怒りの帯びた無表情を浮かべたままゆっくりとベネットとジミーの同調体へと歩み寄る。
その何とも言えない威圧感に流石のギルバートとアルバートの同調体もベネットとジミーの同調体から足を退けてアントニーに道を譲った。
それと同時にベネットとジミーの同調体は光に包まれ、分離した。
アントニーは分離した二人の身体に触れて安否を確認し、「審判、終了の宣言を」と促した。
彼の一言にハッと我に返った審判は「ベネット、ジミーコンビ、戦闘不能の為、勝者、ギルバート、アルバートコンビ!」と試合を終了させたのであった。
アントニーはベネットとジミーをそれぞれ肩に担いで保健室へと向かっていく。
「ベネットさん! ジミーさん!」と生徒会役員たちは席から立ち上がり保健室へと向かう。 レオンとミシェルもそれに続いて行ったのだった。
保健室へと辿り着いたレオンとたちはただ黙ってアントニーに看護されるベネットとジミーの様子を眺めていた。
「暫く安静にしていれば時期に良くなる」
ある程度の看護を終えたアントニーの言葉に、生徒会役員たちはホッと安堵した。
アントニーはレオンとミシェルに近付き、「決勝戦は明後日だ。 お前たち二人は先に学生寮に戻ってコンディションを整えておけ」と告げて自分の席へと戻っていった。
「行こうか、ミシェル」
「うん」
レオンとミシェルはアントニーの言葉に従って保健室を跡にした。
渡り廊下を歩いている中、レオンが不意に口を開いた。
「ミシェル、少し良いか?」
「何だい?」
「今のままでは、確実にギルバートたちには勝てない」
予想外の発言に、ミシェルは勢いよくレオンの顔を見上げる。
「あいつらは属性の相性とは言え、あのベネットたちを完膚なきまでに叩きのめした。 このままではきっと奴らに敗けてしまうだろう……」
だから、とレオンは言葉を続けた。
「明日、特訓しよう」
「特訓? それは良いけど、一日そこらで強くなれないよ?」
ミシェルの最もな意見に、レオンは「考えがある」と不敵に笑うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます