BLACK TUNER

楽椎名

第1話『邂逅』

 ミシェル・ブライトはいつもの様に不良たちに校舎裏に連行されて囲まれていた。

 相手の数は六。 ミシェルは武術の心得があるがこの数を相手にするのは些(いささ)か分が悪い。

 不良たちのリーダー的存在だろう金髪オールバックの男子生徒がミシェルに対し意地悪な笑みを浮かべながら「何故ここに連れて来られたか解るよなぁ?」と言った。

 ミシェルは「まったく」と少し相手を睨みつけながらバッサリと切り捨てるように冷たく答えた。

 刹那、片足に強い衝撃を覚え、そのまま片膝をついた。

 リーダーは跪いた彼女の胸座を掴みそのまま自分の顔の近くへと引き寄せ今にも殺しに掛かる様な血走った眼で睨みつけ「同調(シンクロ)も出来ない雑魚が調子乗ってんじゃねぇよ……!」とドスの効いた低い声で威圧し、力強く突き放した。

 『同調(シンクロ)』、それは遥か太古から伝わる融合方法。 『調律石(ちょうりつせき)』をあしらった道具を使い、シンクロ率が高い人間と同調することが出来る。

 同調することで生まれるメリットは二つ。 一つは融合状態の時、パートナーの属性も使える。 もう一つはパートナーの魔力量が足され、膨大な魔法を解き放てると言う事。

 ミシェルは七大属性の中で最も希少な光属性を保有している。

 魔力量も平均を遥かに上回っている彼女だが一つだけ欠点があった。

 それは彼女が『誰とも同調出来ない』と言う体質であった。

 『大調律時代』と呼ばれるこの御時世、調律出来ないのは最早前代未聞。 それにより彼女は世間からは『不協和音者』、『落ちこぼれ』と言うレッテルを張られ、こうして陰で虐めを受けている。

 悔しい……、悔しい! 僕も、僕にも調律出来る相手がいれば……。

 ミシェルはその場で拳を握りしめ、顔を俯かせた。

「金目の物を置いていけば今日の所は逃がしてやるぜ?」と下卑た笑いを浮かべるリーダー。

 それに対してミシェルは「ふざけるな!」声を荒げるが「うるせぇ」とリーダーに一蹴されその場に倒れ込む。

 その反動で制服のポケットの中から青色の石が嵌め込まれた指輪が二つ出てきた。

 ミシェルはすぐにポケットに戻そうと手を伸ばす前に不良たちに取られた。

「おい、コイツ同調出来ない癖に一丁前に同調アイテムなんか持ってやがるぜ?」と不良は半ば馬鹿にする様に言う。

「惨めな奴だな」とリーダーの言葉に下品な笑いの嵐が吹き荒れる。

 最早一つのコンプレックスと言えよう『同調出来ない』事を指差されて笑われると言う屈辱。

 ミシェルにとっては何とも言えない耐え難いものである。

 彼女は地面に添えてある手を土ごと抉る様に握りしめ、ギュッと唇を噛みしめながら涙を堪えた。

「しかし、こいつぁ中々小洒落たビジュアルをしてんな。 不協和音者のお前には身に余るくらいだ。 同調出来ない奴が持っていても仕方がない。 学年トップを争う俺が有り難く頂戴しよう」

 やめろ……! それは、お父様から譲り受けた大切な同調アイテムなんだ!

 敵が強大過ぎて言葉に出来ず、ミシェルが絶望するその時だった。

「何してんだ?」と黒髪の少年が音も無くやってきてミシェルの同調アイテムを手に持っているリーダーの腕を掴んだ。

 リーダーは鬱陶しそうに彼を睨みつけ「何だテメェは?」と聴いた。

 それに対して黒髪の少年は「通りすがりの転校生さ」と不敵に笑った。

 刹那、リーダーの拳が彼の頬に向かっていた。

 通りすがりの転校生は顔色を変える事無くその拳を掌で受け止め、そのままリーダーを投げ飛ばした。

「ギルバート!?」

 リーダー、ギルバートの名を叫ぶ双子の弟のアルバート。 しかしギルバートは心配無用と言わんばかりに空中で態勢を整え猫の様に衝撃を抑えた柔らかな着地に成功した。

「ほう? この俺の『不意打ち』を交わし、そして投げ飛ばすとはな……」

 ギルバートは転校生に少し感心し、指を鳴らした。

 すると不良たちは一斉に二組ずつになって通りすがりの転校生を囲む。

 リーダーのギルバートは一笑し、「『同調』だ」と言った。

 それに呼応し不良たちは次々と「『同調』!」と叫んでパートナーと融合した。

「いけない!」と叫ぶミシェル。

「何がだ?」と聞き返す黒髪の少年。

 それに対してギルバートは「何だ? 『同調』も知らんのか?」と呆れながら溜息を吐いた。

「ん? ああ。 知ってるぞ?」

「知ってんのかよ! ならお前今の状況解るだろ!」不良たちが叫ぶ。

 しかし少年は顔色変える事無く「状況なんて何一つ変わってないぞ?」と言い切った。

 それが引き金となったのか、何かがキレたギルバートはわざとらしく舌を鳴らして「殺れ」と不良たちに指示した。

「応っ!」と同調状態の不良たちは一斉に一人の少年に襲い掛かった。

「死ね!」と不良Aが振るってきた拳を難なく受け止めそのまま一本背負いして一人片付け、次に頭部に放ってきた不良Bの蹴りを、頭を下げてかわし、その勢いに任せて隙だらけの片足をすくい上げる様に蹴り、宙に浮いた所を踵落としで蹴り倒した。

 こいつ……、強ぇ……!

 後退る不良たち。

 同調状態の不良たちを同調無しで意図も簡単に倒していくなんて……。 彼はいったい……!?

 ミシェルは少年の戦いぶりにただ感銘を受けていた。

「何手こずってんだお前ら!」

 怒鳴るギルバートに対して「いや、でも……」と口籠る不良たち。

 それによりギルバートの怒りが有頂天に達し「もういい! 下がってろ!」と怒鳴られる始末。

「アル!」

 彼の叫びに応える様にアルバートは肩を並べた。

『同調!』

 双子の同調アイテムの緑色の輝きが視界を遮る。

 そして光が収まるとそこには同調に成功した双子の姿があった。

「逃げて!」

 ミシェルの呼びかけに少年は「いや、俺は逃げないよ」と言って聴かなかった。

 その余裕の態度に双子の兄のギルバートが前面に出た同調体が「クソが! 甞めやがって……!」とこめかみに青筋を浮かべながら「後悔しても知らねぇぞ!」と目にも留まらぬ速さで少年との距離を縮め、電気と風を纏った拳を放った。

 しかし、少年は上半身を少しだけ横にずらしそれを難なく交わし、隙だらけになった双子の同調体の肋(あばら)に膝蹴りをお見舞いした。

 諸にくらった双子の同調体は胃から込み上げてくるものを必死に抑え込みながらその場で蹲る。

 思った以上に堪えたのか、同調体は光を発しながら分離した。

「貴様……、同調していない状態であの速さを何故見切れた……?」

 未だに蹲った状態のまま苦い表情を浮かべ、睨みつけてくるギルバートの問いに、黒髪の少年はうーんと首を捻りながら思考を巡らせた結果、「鍛え方が違うんだよ」とだけ答えてニッ! と歯を見せて笑った。

 その時、ギルバートのズボンのポケットの中からミシェルの同調アイテムが出て来る。

 少年はそれを拾い上げ、「お前のだろ?」と彼女に手渡す。

「ありがとう……」

 弱々しくミシェルがお礼を言うと少年は「なに、当然の事をしたまでさ」と微笑んだ。

「テメェ……、覚えておけよ……?」

 蹲ったまま悪態を吐くギルバートに対し少年は「気が向いたらな」と火に油を注ぐ様な返答してそのままミシェルと共に学園の方へと足を運ぶのだった。



 校内の渡り廊下を歩いている中、「そう言えば自己紹介がまだだったな」と少年が思い出すかのように言った。

「俺の名はレオン。 レオン・スミス。 お前は?」

「僕はミシェル。 ミシェル・ブライト」

「宜しくな、ミシェル」

 それにしても、とレオンは陽気な表情から一変、真面目な顔つきになって言葉を続ける。

「いつもあんなことをされているのか?」

 疑問を抱くレオンに対し、ミシェルはすぐに答えを出せないまま顔を曇らせた。

 彼には言うべきだろうか……? でも怖いな……。 自分が誰とも同調出来ない『不協和音者』だなんて知られるのが……。

 しかし、彼は自分を助けてくれた恩人だ。 このまま黙っていては人として恥。

 そんな彼女の心情を察したのか、レオンは「言いたくないことなら無理して言わなくて良いぞ?」と優しく言った。

 その言葉はミシェルにとってどこか暖かいモノを感じた。

 故に劣等感を覚え、暗い顔が更に暗くなり「ごめんね?」と俯いて密かに拳を強く握りしめた。

 対してレオンは「気にするな。 誰しも言いたくない事の一つや二つあるもんだ」と言ってニッ! と白い歯を見せて笑う。

 無邪気に笑う彼に「どうして同調していない状態であの人たちを倒せたの?」とミシェルが首を傾げると、レオンは「そうだな……」とどこか困った表情を浮かべながら頭を掻いた。

「こればっかりは体質としか言いようがないな」

「体質?」

「ああ、生まれつき戦闘能力が高いんだ。 だからそこらの人間が同調して束になって掛かって来ても簡単に往なす事が出来るんだ」

 レオンのその言葉に「なにそれ……」とミシェルはにわかには信じられなかった。

「ここが職員室か」

 いつの間にか着いてしまった職員室の前で「じゃ、また出会う事があれば」とレオンは言って中へと入って行った。

 彼の背中を見送ったミシェルは両肩を落として落胆し、教室へと戻るのだった。



 教室へと辿り着いた時、あの悪名高い双子の兄弟も戻っていた。

 現在、午前八時五〇分。 もうすぐ朝のSHRが始まるので流石に双子も易々と襲っては来れない。

 だがそれでもミシェルは緊張した面持ちで自分の席へと着いた。

 それから五分が立ってチャイムが校内に鳴り響く。

 それと同時に担任が教室へと入ってきた。

「今日からこの六年二組に新しい仲間が加わる」

 担任の言葉にざわつき始めるクラスメイトたち。

「静かに」と担任は手を叩いてそれを制した。

 転校生……。

 ミシェルと双子はすぐにその正体の見当はついていた。

「入ってくれ」と担任の言葉に応じる様に教室の扉が開かれ、転校生が中に入ってくる。

 彼の秀麗さに思わず目を奪われる女子生徒たち。

 変わって男子生徒は詰まらなさそうな表情を浮かべるのだった。

 教卓の近くで止まり、転校生はクラスメイトの方へと身体を向ける。

「初めまして。 レオン・スミスです。 宜しく!」

 自己紹介と共に、黄色い歓声が沸き上がる。

「それじゃ、あそこの席に座ってくれ」と担任が指さしたミシェルの隣に空いている席に移動するレオン。

「宜しくな」と彼はミシェルに微笑みかけて席に座る。

 ミシェルはこんなすぐに再会出来るとは思わなかった。

「それじゃ、皆、一時限目は実技授業だからグラウンドに行くぞ」と言う担任の言葉に次々と席から立ち上がり、グラウンドへと移動していく。

「教えてあげるね」とミシェルはレオンを目的地まで案内していった。



「これより授業を開始する」

 授業が始まったと同時に「先生」と双子の兄、ギルバートが挙手した。

 彼の行いを知っている担任は「またか」と呆れる様に溜息を一つ吐き、「何だ?」と念の為耳を傾ける。

 するとギルバートは不敵な笑みを浮かべながら転校生のレオンを指差して口を開いた。

「コイツと勝負したいです」

 彼の発言に、レオンを除く全員が息を呑んだ。

「レオン、お前、パートナーはいるか?」

 確認を取る担任に対し、レオンは「いや」と首を横に振った。

「じゃあ駄目だ」と担任が言うとギルバートは笑って「パートナーならそこにいるじゃねぇか」とミシェルを指差した。

 そにれよりざわつくクラスメイトたち。

 ミシェルがパートナーだって?

 馬鹿な。 あいつは不協和音者だぞ?

 そこまでして転校生と戦いたいのか?

 いや、転校生と戦う名目でミシェルをイジメたいだけだろ。

 色んな言葉が飛び交う中、レオンはパチパチと瞬きをしながら「お前、俺のパートナーだったのか?」と惚けた発言をする。

対してミシェルは「ぱっ、パートナーじゃないよ!」と慌てながら否定した。

「別に一対一でも良いんですぜ? 俺ぁよ」

 悪い笑みを浮かべるギルバート。

 しかし担任は「これは実技授業だ。 同調せずして授業を行う訳にはいかないな」と彼の提案を却下した。

 レオンと戦えない事にギルバートが苛立ちを覚え、小さく舌打ちをしたその時だった。

「パートナーを作ればいいんですか?」

 彼の突然の発言に担任は思わず目を丸くしたが、「ああ。 だが、このクラスで残っているのはミシェルだけだ」と元の表情に戻って言った。

 ミシェルはばつが悪そうに顔を俯かせる。

「ミシェル、パートナーいなかったのか」

 レオンの言葉にミシェルは目を逸らしながら小さいく頷いた。

 そうか、とレオンは特に彼女の様子を気にする事無く「俺のパートナーになってくれないか?」と手を差し伸べる。

「無理だよ……」

 弱々しく、そして悔しそうに答えるミシェルに対して「何故?」とレオンは首を傾げた。

 彼女は拳を強く握りしめ、身体を小刻みに震わせながら「同調……、出来ないんだ……」と溢れそうになる涙を堪える。

 その様子をギャハハハッ! とギルバートが笑いながら「同調出来ないんじゃ仕方ないよなぁ!? なんたってお前は誰とも同調率ゼロの『不協和音者』なんだからなぁ!」とコンプレックスを馬鹿にした。

「そんなもの、俺には関係ないね」

 堂々と言い切るレオンに担任を含む全員が呆然とした表情を浮かべる。

「ミシェル、同調アイテムを渡してくれ」と手を差し出すレオンに対し、ミシェルは「無理だ! 僕とは絶対に同調出来ない!」と言ってそれを拒んだ。

 しかし、レオンは「大丈夫だ。 俺となら絶対に出来る」と口端を上げる。

 それは、余りにも信憑性の無い発言。

 だが、ミシェルはそんな彼の自信に満ちた瞳に賭けてみようと胸ポケットの中から同調アイテムを二つ取り出し、一つをレオンに手渡した。

 彼はその手渡された同調アイテムを右の薬指に嵌める。

「流石だな。 綺麗に嵌まった」

 すると、同調アイテムに嵌め込まれている青い調律石が眩い輝きを放つ。

 始まった……! とミシェルは祈る様に目を瞑った。

「何だと……!?」

 目の前の現状を見て信じられないと言った表情を浮かべるギルバート。

 他のクラスメイトたちも小さく騒ぎ始める。

 ミシェルはゆっくりと瞼を開くとそこには一〇〇と言う数値が青い輝きを放ちながら浮き出ていた。

「同調率一〇〇パーセントだとっ!?」

 脅威の数値を前にギルバートは柄にもなく叫ぶ。

 レオンはミシェルの手を取り「相性抜群だな!」とどこか嬉しそうに無邪気に笑った。

 未だに同調率の数値を信じられないのか、ミシェルは何度もそれを見返す。 しかし、何度見直しても数値は変わらなかった。

 それにより、ミシェルは口元を両手で抑える。

 同調……、出来る……! 僕も……、やっと……。

 涙が溢れ出そうになった時、レオンが「まだ涙を流すには早いぜ?」と言って零れ落ちそうになったそれを拭った。

「先生。 パートナー作ったぜ? 試合お願いします」

 彼の言葉にハッと我に返った担任は「解った」と言って審判の位置に着く。

 それと同時にレオンとミシェルも肩を並べて戦闘に入る位置に着いた。

「これより、ギルバート、アルバートコンビ対レオン、ミシェルコンビの試合を始める」

 担任は片腕を前に出し、

「始め!」

 振り上げた。

「アルバート! 行くぞ!」

 先手を切ったのは双子コンビ。

 双子は自身が身に付けている同調アイテムに魔力を込め、輝かせる。

『同調!』

 強い緑の輝きが双子を包む。

 光が収まるとそこには融合した双子の姿があった。

「ミシェル!」

 レオンが呼ぶと、ミシェルは「うん!」と力強く応じる。

 やっと同調が出来る。 そう思うとミシェルは嬉しさと不安が入り混じったよく解らない感情に襲われ緊張する。

 大丈夫、きっと上手くいく。

 覚悟を決めて、彼女は念願のパートナーと共に叫んだ。

『同調!』

 刹那、二人の同調アイテムが強く蒼い輝きを放ち、その場にいる全員の視界を遮った。

 光が収まり、レオンとミシェルは見事に融合していた。

 顔つき、身体つきはレオンのまま、ミシェルの金色の髪に青い瞳。

 感じる……。 レオンの暖かく優しい力。 気持ち良い……!

 ミシェルは余りの心地良さに同調体のまま雄叫びを上げる。

「五月蠅ぇ! 同調出来たからって調子に乗るなよ!」

 双子の同調体はトップスピードでレオンとミシェルの同調体に詰め寄り拳を振るう。

 レオンとミシェルの同調体は全く無駄の無い動きでそれを難なく払い除け、双子の同調体の腹部に軽く拳を振るった。

 諸に喰らった双子の同調体は半歩下がるもすぐにまた体制を整えて反撃に出る。

 だが、それら全ての攻撃は難なく交わされカウンターを返されダメージを負う。

「何故だ!? 何故攻撃が通らねぇ!? 同調率一〇〇パーセントだからか!?」

 圧倒的な敵の強さに困惑する双子の同調体。 それを気にする事無くレオンとミシェルの同調体は試合を終わらせようと両腕を前に出した。

 魔力を込め、黒と白が入り混じった球体を出現させる。

「何だ……!? 何だその魔法は!?」

 始めて見る光景に戸惑いを隠せない双子の同調体。

「これが、光と闇の融合魔法。 とくと喰らえ。 『カオス・ストリーム』!」

 両腕に込めた混沌の塊を放出する。

 それは太いレーザーとなって双子の同調体に襲いかかる。

 双子の同調体はそれに対抗すべく、雷の魔法を放つが、全て弾かれ、

「許さねぇ……。 許さねぇぞレオン・スミス!」

 レーザーを諸に喰らって、爆発した。

 双子は大丈夫なのかと担任が煙の方を眺める。

 煙が収まるとそこには分離して気絶して倒れている双子の姿があった。

「勝者、レオン、ミシェルコンビ!」

 歓声が沸き上がる。

 レオンとミシェルの同調体は青い輝きを放って分離した。

「勝っ……、た……?」

 現状を信じられないミシェルはレオンの顔を見る。

「これは夢じゃないぜ? 勝ったんだよ。 俺たち二人は」

 初めてのパートナー。 初めての同調。 初めての勝利。

 全てがまるで夢の様で、夢じゃない。

 今までの苦労が報われる感覚を覚え、気が付けば、ミシェルは頬に涙を流していた。

 僕は力を手にしたんだ、と……。



 時刻は午後一六時半を廻った頃。

 小等部の生徒会室にて生徒会の人間が作業している中、それはやってきた。

「会長! 朗報! 朗報ですよ!」

 騒々しく入ってきた庶務のフィリップに対し、「フィリップ。 お前、仕事しないでどこをほっつき歩いていた?」と彼のパートナーである書記のジョニーが睨みを利かせる。

「まあ、そう言うなジョニー」と小等部の生徒会長、ベネット・バーンは彼を宥めながら「それでフィリップ、朗報とは?」と聴くとフィリップは「不良双子兄弟、『風雷坊』が実技授業の試合で敗けました!」と嬉しそうに笑った。

 あの風雷坊が……!?

 予想を上回る報告に目を丸くする小等部生徒会一同。

 念の為ベネットはその情報は誠かフィリップに問いただすと「目の前で見てきたので間違いないです!」と彼はまるで自分のことの様に親指を立てた。

 しかも凄いんですよ! とフィリップは鼻息を荒くしながら言葉を続ける。

「風雷坊を倒した相手は今日やってきたばかりの転校生。 何とあの『不協和音者』で有名なミシェルとコンビを組んであの双子に勝利したんですよ!」

「あのミシェルと……? 確か彼は誰とも同調出来ない筈じゃ?」

「それが出来たんですよ! なんと同調率は現国王夫婦と同じ一〇〇パーセント!」

 同調率一〇〇パーセントと言う数値を聴いて生徒会一同は驚愕の表情を浮かべた。

「馬鹿な!? そんな事があり得るか!」

 冗談も程々にしろと言わんばかりに声を荒げるジョニーに対し、「別に良いですよ~。 信じなくたって」とフィリップは唇を尖らせた。

 同調率一〇〇パーセントか……。

 ベネットは生徒会室の窓の向こうに見える橙色に染まった景色を見つめるのであった。



「ここが僕たちの部屋だよ」

 同時刻、学生寮にあるミシェルの部屋に辿り着いたレオンは彼女の先導で中へと入る。

 この学園は基本、二人で一部屋を使うことになっており、その為内装も2LDKとそれなりに広い。

 リビングまで移動すると、そこには積み重ねられた段ボールがあった。

「それ、レオンのだったんだね? 昨日突然届いてきたからビックリしたんだよ」

 レオンは段ボールを開けるとそこには生活に必要な道具や衣類などが綺麗に敷き詰められていた。

「そう言えばさ」とレオンは段ボールの中にある生活用品を部屋に設置しながら口を開いた。

「何でミシェルは男の格好してんの?」

 その言葉に、手伝っていたミシェルの手がピタリと止まった。

「な、何の事かな?」

 笑って誤魔化す彼女に対してレオンは「惚けんなよ」と鋭い眼差しを向ける。

 どうやら、彼には自分が女だと言うことが見抜かれているらしい。

 ミシェルはお手上げと言った感じで首を小さく横に振り、

「バレてしまったか」

 と可愛らしく舌を出したのだった。

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