入学式〜タケトとミヤコ〜
…………
な、なんだこの喧噪にまみれたリア充どもの集まりは!?
と、いう心のツッコミを入れるのも無理もない。
教室に着いて目に入ったのは、軽々しく女子に話しかける茶髪、本来、前を見て座るのが正しい椅子の使用方法に逆らい、後ろの席の女子と話す茶髪。
おいおい、おまえら新入生感ゼロじゃねえか!
あとこのクラスの茶髪メンズ率高すぎ……
もともと、この私立舞園学園は中高一貫教育を推進しており、ほとんどの生徒がエレベーター式で進学している。
部活動なども盛んで生徒は必ず部活に所属しないといけない校則まである。
学業においても、学者や政治家など著名人を多数輩出しており、由緒正しき名門である。
「これはいきなり出鼻を挫かれたな……」
すでに文化祭を乗り越えたクラスのような雰囲気のある教室に飲まれていた。
しゅん、とした表情になりながらも茶髪メンズとミディアムボブ女子の間を通り抜け、とぼとぼと窓際の一番後ろの席に向かった。
机の端に『七島タケト』と文字の入ったシールを確認し、一息着いて席に着いた。
改めまして、俺の名前は七島タケト。
この春から私立舞園学園に入学したふつうの男子高校生です!
勉強は結構得意で(友達がいなかったから)スポーツも校内マラソン大会で一位をとったこともあるし得意といえる(一位になればさすがに友達できるかと思い必死に練習した)けど、まって、悪意のある()の使い方やめて!?
まあ、自分でも容姿もそこそこだと思うし、ふつうの男子高校生よりは1ランク上?くらいだと思ってる。
こんなうざったるい自己紹介はほんの序の口で、実は俺には誰にもいえない秘密がある。
悪魔的に残酷で俺の手に負えず、人生において様々な支障をきたす最悪な能力が……
俺には……幽霊が見えるという特殊な能力がある。
正確に言えば話せますし、ええ触れます。
いきなりこんなことを言っても信じる人はいなかった。
小学生の頃は自慢気に、『おれ、ユーレイ見えるんだぜ!』的なことをそこら中に振りまいていたが、信じた人は1人もいなかった。
幽霊という存在自体は信じても、まさか身近に会話できるレベルのやつがいるわけがない……
周りからは悲しくも信じてもらえず、いつしかお化け見えるらしいぜアイツくらいのキャラで小学校生活を終えた。
中学校にあがると、たまたま幼稚園のころに、よく遊んだシンヤ君と再会し、同じクラスになった。
シンヤ君は、学区が違うため、違う小学校に進学したが、とても人気者だったらしく多くの友人にいつも囲まれていた。
それは大チャンスだった。
忌々しい小学校生活から脱却し、中学デビューを飾るにはこれだ!と……
小学校のころの経験を元に、霊見えちゃうんですよキャラを封印してシンヤ君にべたべたな毎日を送った。
シンヤ君も楽しそうだった。
彼の考えることはいつも刺激的で、友達と遊ぶことを知らない俺にとっては、なにもかもが初めてだった。
帰り道にコンビニに寄る文化とか知らないもん。
カラオケって未成年でも大丈夫とか知らないもん。
そうやってシンヤ君とは毎日つるんでバカやって遊んだ。学校でもいつも一緒だった。周りから冷やかされるくらい仲良しだった。
そして、そんな日は入学して一月も過ぎたころに、崩壊していくのだった。
いつも通りシンヤ君の家に遊びに行った週末の日。
彼の部屋でTVゲームをしているところに、黒人でマッチョの幽霊がいきなり出てきた。
そのときには幽霊に対する対処法はすでに身につけており、話しかけられても無言、触られても反応しない——たいていの幽霊はこれだけでなんとかなる。
相手にするのが一番だめなのだ。
無反応。これが当時の俺の生み出した唯一の対処法だった。
しかし、この黒人の幽霊はなにもしないなあ。
ただ、部屋の片隅を漂っているだけに見える。
無害なやつか。これならゲームに集中できると思ったそのときだった。
「きみ、その男の子、ゲ○だよ」
驚きと同時にコントローラーを落とした。
様子のおかしい俺に気づくシンヤ君。
心配そうに見つめる顔がなぜか近く感じた。
笑い転げる黒人。
迫るシンヤ君の顔。
床をたたきながら腹を抱える黒人。
目を閉じ頬を赤らめるシンヤ君——
あれ、いけない涙でちゃいそう!
せっかくの新たな高校生活の幕開けの日に何でこんな脳内回想しないといけないんだよもう!
と、ともかく、幽霊のせいかどうかはわからないがそこからの中学時代は、いろいろと大変だった。
もう、あんな苦労はしたくない。
そんなときに教室の扉が開き、
「全員いるかーー今から体育館で入学式を行うから全員廊下に出ろ」
威勢のいい女教師の声で騒がしかった生徒たちが静かに廊下に並んだ。
きっと内部進学組は知っている先生なんだろう。
茶髪メンズも緩めていたネクタイを必死に戻している。
難しいことじゃない——
今から取り戻していけばいいんだ。
十分時間はあるんだ。
高校三年間——毎日に生産性のある日々を——
ふと顔を上げ、息を吸い、入学式に向かった。
***
……ムカムカする。
いや、今ね、入学式の最中なんだけどね。
もはや終盤にさしかかってるのだけどね。
この体育館にユーレイ多くね!?
さまよいすぎだろこれ……
町一番の納骨堂よりも、寂れた墓地よりもユーレイがいる。
「さすがにこれはないだろ…」
よりによってこの学園はユーレイのたまり場なのか?
そうであって欲しくないが、これだけの数のユーレイを見ると、疑うのも無理はないよな。
ざっと10〜15体は見える。
あ、おれはユーレイのことは○人で数えずに、○体で数えることにしてるから。
だって人じゃあないもんね。もう死んでるんだし。
校長の長い話も終わり、上級生による校歌斉唱が始まる頃だった。
もうそろそろ式も終わるな……と思い、
1体の白いポロシャツを着た5歳くらいの男の子のユーレイが近寄ってきた。
周りをきょろきょろと見渡していて、まるで誰かを捜しているように見えた。
おいおい、こっちに気づくんじゃねえぞ……
いままで式中、アホみたいに話しかけてくる関西弁のおっちゃんをスルーしてきたんだ。
来賓の偉い人の顔真似しては、感想を求めてしつこかったが、なんとか撃退したんだぞ。
キリス○に祈るような気持ちでいたが、その幼児は俺に気づき指を指して
「あ、お兄ちゃんだ!!」
おいおい待ってくれよ……
おまえの兄ちゃんでもなんでもないのよ俺は。
ただのしがない霊感強い系男子よあたしは。
幼児は座っている俺の膝の上にちょこんと座り
「お兄ちゃんは歌わないの?」
…………
いかん——
無言を貫き続けていたが、この子の汚れの知らない透き通った瞳が、俺の心を激しく揺さぶる——
話してあげたい。
お兄ちゃんは今ね、おしゃべりできないのと、小声で話したい——
周りにはこれからフレンド申請する予定のクラスメイトたち——
もしかしたら親友と呼ぶことになるかも知れないし、奥さんになるかも知れない人たちの集まりの中、俺はユーレイに話しかけれるか?
今までの経験上、その行為は愚かで、確実に間違った選択なのだ。
膝の上に座る少年よ、無垢な心を汚すようで悪いがここは悟ってくれ——
その瞬間——
少年から視線をそらすと同時に、前の席に座っていた女の子が、こちらを振り向いた。
「あんたねえ!せっかくその子が話しかけているのよ!無視するとはどういうことよ!」
…………
ああああああああ!!!???
こ、この女の子はなにを言っているんだ?
周りの生徒がざわついている。
完全に注目の的だ。
そんなことなど構わず彼女は続けた。
「あなたわかっているんでしょ。ユーレイが見えるし話せるんでしょ」
「い、いやあ……なにを言っているのかしら」
いやまじでやばいってこの人!
あれれ?そういえばいつの間にか校歌も終わってるんですけど!?
周囲から痛いほどの視線を浴びながらも、その女の子は俺から目を離さなかった。
強く、力強い眼差しは、まるで親の敵のように鋭く、離れることがなかった。
これが、神宮寺ミヤコと七島タケトの出会いだった。
ひどく運命的で、それでいて偶然で、必然な出会いだった。
タケトミヤコの七不思議解明記録 おちお.com @s_akuyama
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