第28話出産、そして復讐のとき 一
初産ということもあり、陣痛は想像以上に激しかった。
全身が千切れるような錯覚、特に腹部の感覚は何度思い出しても鮮明で痛々しい。
唯一それを忘れることができたのは、わが子の産声を聞いた瞬間だった。
力強く泣くその子は男の子だった。
一般的にカンガルーシップと呼ばれる、胸の上にわが子乗せたとき、一言では言い表せないほどの愛しさが溢れた。
両腕を持って生まれたけれど、不思議なことに嫌悪感などは一切抱かなかった。抱くはずもなかった。
この男の子は、亡き父が両腕に恵まれた姿なのだから。
父が還って来たのだ!
感動した私の顔は、汗と涙で覆われ、頬を伝う流れが止まらなかった。
翌日、私は新たに
蘇った父を恩人として慕う吉田清仁と、以前の父の名前、田川秀丸から一字ずつ組み合わせた。最初は「秀」の字を使おうかと悩んだが、あえて使うことを止めた。
父の従兄である田川英男の「ひで」と同じ読みで呼びたくなかったからだ。
我ながら、良いネーミングセンスだと自負した。
出産の報告のため、あの女が入居している介護施設へ電話した。
もし清丸のことを
「そう、ようやくあたしにも孫が……。それにしても、あんたのネーミングセンスは酷いものだね。漁船じゃあるまいし、今どき『丸』を付けるなんて」
あの女は私に、昔の男の名前を付けたくせに、由来を知らずに、孫の名前にため息をついた。しかし孫が無事に生まれただけでも十分だと、それ以上は何も言わなかった。
職場にも電話で報告すると、清丸の誕生を喜んではくれた。
しかし以前、未婚の母となる理由を偽っていたので、大変だね、と同情もされた。
職場に妊娠を報告する際、私は妊娠が分かる前に胎児の父親が事故死したということにしていたのだ。
他人に嘘をつくことに、罪悪感などなかった。
もうすぐ、復讐が果たされるのだから。
待っていてね、お父さん。
待っていてね、清丸。
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