或る冒険者の末路。そして……
芒来 仁
序章
序章 一冊の手帳
裏路地の奥にある、湿気の籠もるボロ家が僕の家だ。
酒場の仕事上がりで家に帰り、きしむ床に置かれているきしむベッドに疲れ切った身を転がせて、その手帳を手に取った。
ついさっき酒場に忘れられていたのを、テーブルの片付けに回っていた僕が拾った。拾ったものは拾った人間のもの。世間一般ではともかく、それが僕の勤める酒場のルールだ。そもそも落とし主が町の一般住民ならともかく、冒険者だったりしたらこの次現れるかどうかも怪しいのだ。すぐに次の町へ旅立って行ったり――そのまま生還しなかったり。
間に金貨……いや、銅貨でも挟まってないかな。そうじゃなくても魔術の秘法とか書いてあったりして、このノートが高く売れたりしないかな。それでこんな貧乏生活から抜け出せないかな。そんなことを思いながら、手帳を開く。
最初の数行を読んで、僕の期待が外れていたことを理解した。
そして同時に、別の興味を引かれていった。
これは、冒険者の日記……いや、手記だった。それも夢と希望に満ちあふれた駆け出し冒険者――といった類いじゃない。
すべてを諦めてしまった冒険者の、死を待つように過ごす男の日記だった。
一字一字噛み締めるように、僕は自分の目に文字を辿らせた。
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