2-e


「お兄ちゃんは今年に成人式がありますから、きっと先生とは年齢も同じくらいでしょうね。性別ももちろん一緒です。背はお兄ちゃんのほうが先生よりもすこしだけ高くて、それから眼鏡をかけています。あと、お兄ちゃんは先生よりも目元が怖いです。昔はそんなことありませんでしたから、眼鏡をかけ始めたせいかもしれませんね。でもわたしが何よりも可笑しかったのは、先生の笑い方です。笑い方が本当によく似ていて、びっくりしました」


 明るい声で話し始めるエリー。

 膝の上の犬が腹を撫でられて寝返りを打った。彼女のロングスカートが巻き込まれて、たくし上げられる。


「お兄ちゃんは昔から、わたしとは違って文武両道の優等生でしたから。みんなからも特別慕われていたようで、〝揺り椅子の麗人〟なんて呼ばれていました。わたしは麗人の妹だったおかげで、こんなにも奇妙な身体をしていても、美しいとよく言われます。でも違うんです。そうじゃありません。あぁ、なんと言えばいいのでしょう。喩えるなら、蝶と蛾みたいなものですね。お兄ちゃんはわたしみたいに病気に罹ってはいません。無口ではありません。卑怯者ではありません。たくさんの人と闘って、たくさんの人から愛される人です。だからわたしにとっては憧れのひとです。雲の上の神様みたいなものです。きっと、触ってはいけないものですね。兄妹なのに、世知辛いです」


 蝉の鳴声が一斉に止む。代わりに夕立がさらに勢いを増して、頭上の屋根を乱暴に叩いて回る。

 犬の寝返りに巻き込まれて、たくし上げられたスカートの下。

 白い太腿。病的な白さはまるで雪のよう。

 季節外れの雪の上では、霞んだ紫陽花が咲き乱れていた。

 青紫に変色した殴打の痕。それも一つではない。幾つも。幾つも。

 僕の目の前でにこやかに笑っていた文学少女には不似合いの、暴力的なきずあとたちがスカートに隠されて、ずっとそこにいた。


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