紅葉紅葉短編集
紅葉紅葉
01:流星
戦争の末期。各地で流星が確認された。赤く、神々しく、見せつけるように進む一筋の光。
その戦争は、確実に人々の優勢になりつつあったが、数年に及ぶ世界的な戦争により、皆が疲弊していた。だから、その流星は何かの見間違いに思えたのだ。
天を突き進む赤き流星。赤光は、確かに人々の住まう大地から昇っていた。
◇
ある政治家はこう断言した。
「あれは◯◯◯(当時の敵国)から発射されたミサイルだ。あれこそ、友好同盟の破綻を意味する」
戦いに疲弊した人類は、共に外敵に挑まんとするために統一されたというのに、世界にはまだこのような人間がいた。
勿論、誰もその言葉を信じやしなかった。
◇
ある村人は喜びを露わにした。
「あれぞ、我らが大地の神の怒りじゃ。あの光こそ、我らの救済の光……ッ!!」
疲弊の中、新しく生まれたカルト集団もいた。彼らにとって、この不思議な光は、まさにうってつけの語り文句に成り得た。
勿論、その語り文句はカルト集団にしか通じず、誰も信じやしなかった。
◇
ある軍人はただ静かに語った。
「……この戦いが終わるならば何だっていい。これで、終わりにしてくれ……」
彼らにとって未知との戦いであったその戦争は、彼らの大事なものを幾度も奪っていった。家族、友達、夢、恋人……
勿論、その言葉は誰も聞いていなかった。彼の周りには、誰一人生存者はいなかったのだから。
◇
ある子供達は不思議そうにそれを見つめた。
「ねぇ、あれ何かなぁ?」
「きれいー。あれは流れ星だよー」
「なら、願い事しなきゃ。えーと、何がいいかなー?」
「なら、これかな。世界が平和になりますよーに!」
戦争の最中、育まれた命があった。壊される町を縫い歩き、彼らは必死に生きた。生き続けた。
「ねぇ、今度はどこいくー?」
「どこいこーか?」
勿論、その言葉を返す人はいなかった。彼らの親も、戦争の巻き添えとなってしまっていたのだから。
「頑張っていきよーね!」
◇
ある科学者は、小さく呟いた。
「あれは希望の光……そう、彼が生み出している、世界に映る願いの光……ねぇ……あなたの映る世界は綺麗? あなたが生きたその世界は、美しい……? ねぇ――」
勿論、そのうわ言に耳を貸す者はいなかった。その場にいた誰も彼もが、各々の想いでその流星を見届けたからだ。
◇
「綺麗だ……」
ある少年は言った。彼の目には流星など映っていない。代わりに映るのは眼下の水色。それに緑、茶色もあれば、白もある世界。
「僕達は生きていたんだ……あの世界に」
少年はそこで初めて知ったのだ。世界を。自分達が生まれ、育ち、そして踏みしめたあの大地を。その瞳に、映す。
「――あぁ。僕は、そんな世界を背に立つ。君と一緒なら、怖くはない」
勿論、その言葉は嘘ではなかった。彼の相棒は小さく感謝の言葉を語る。少年は、微笑んだ。
眼前には多彩色の何かがいた。あれは――色だ。世界を知った彼らは、それを持ち帰ろうとしている。
「行こう――」
少年の言葉に、その赤き流星は前に進んだ。青い世界を背に立つ、赤き機動鎧装。彼の役目は簡単だ。
「――――」
相棒が頷いた。少年は、小さく笑った。
その笑みに、嘘はなかった。
◇
宇宙に昇る流星。その綺麗な赤光は、世界に刻まれる。
誰もが目を奪われた。誰もが心惹かれた。その赤き光は――いつしか、巨大な光となり、そして消えた――
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