10円玉
自販機の下に10円玉が転がっていった。
私の初任給だ。1ヶ月の努力の結晶だ。それが今、自販機の下にある。
なんとしてでも取り戻さなくてはならない。なぜなら初任給だからだ。
まずは手始めに、自分の足元を思い切りふんずけた。衝撃で地面が傾くはずだったが、上手くいかなかった。象を連れてくれば早いだろうが、私は象の言葉が分からないから彼らを呼んでこれない。
今度は自販機の下に向かって大きな声で呼び掛けた。
「ほら、10円玉、早くこっちに出てきなさい。」
しかし出てくる気配はない。しまった、こんなことなら、10円玉をもらってすぐに躾をしておくんだった。
いや、もしかするとコイツは自分の名前が分かっていないだけかもしれない。私は名前を変えてもう一度呼んでみた。
「おぉい、初任給、出てきなさい。」
やっぱりダメだった。全く、なんのために脳みそがあると思ってるんだか。
最後に私は近くに這っていたゴキブリを捕まえて、自販機の下に放ち、10円玉を取ってきてもらおうと考えた。
しかしゴキブリは戻ってこなかった。
しまった、ゴキブリの躾を忘れていた。
もう一度ゴキブリを捕らえて、今度は家に連れて帰った。
それから1年、しっかり躾をしたゴキブリたちが入った虫かごを抱え、私は今、例の自販機の前に立っている。
これだけたくさんいれば、どれか1匹は10円玉を拾って戻ってくるだろう。
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