042「妖精さん VS 人間3000匹」

シルバーは、人間の村を空中から見下ろした。

弓矢が届かない位置に滞空し、村中にいる人間(ハムスターマン)を見つめる。

動物の皮を使った衣服を着ていて弓矢で武装している。、矢をいくつもショタ妖精めがけて放ってくるが、やはり届かない。

ここで、一番の問題なのは――


『人間(ハムスターマン)の数が、明らかに3000を通り越している件』

『妖精さんと戦争するために、かなり前から、援軍を募っていたんじゃね?』


ハムスターマンの数が、明らかに多すぎた。

後に、消し飛んだ死体を骸骨戦士に数えさせたが、この場には1万匹を越すハムスターマンが勢ぞろいしている。

しかし、物量はあっても、装備を揃える事に失敗しているから、空を飛ぶ妖精に対して無力なように見えた。

シルバーはネット通販から、細長い拡声器を購入、降伏勧告を行う。


「おーい!俺はシルバーだ!

お前らぁー!レンタルした道具を借りたままパクるのはやめろぉー!

今なら、利用料金を1年間、倍にする程度の罪で済むぞー!

金がないなら借金すれば良い!俺が貸してやるぞー!利子は高いけどなー!」


『借金地獄に陥るけどな!』『俺は闇金で異世界無双する!』


返ってきた返答は――罵声。


「はぁぁぁぁぁぁぁ!?!!

亜人のクソチビの分際で、生意気なのぜぇぇぇぇ!!!

栄光ある人間様に向かって命令するんじゃないのぜ!

俺達のご先祖様のおかげでっ!お前らは生きている事を許されているのぜぇぇぇぇ!!

それを理解しているのぜぇぇぇぇぇぇ!?」


叫んだのは、身なりの良いハムスターマンだ。

立派な紅い鎧を着ていて、一人だけ目立つ格好をしている。顔がデップリ太っていてうざったい。

さすがのシルバーでも、以前、出会った事を覚えていた。備中鍬の宣伝の時に、一度だけ会話した事がある。


「確か……この村の指導者だったけ?

えと、名前は?」


『ちょwwおまwwww忘れるなよwwww』

『なんて失礼すぎるww交渉wwww』


「ドン・アドルフなのぜ!

下等な亜人は、こんな事も分からないのぜ?

以前、自己紹介したはずなのぜ!

無駄に長生きしすぎて、頭が、脳みそがないクラゲみたいになっているのぜ?ゲラゲラゲラ!

もう、早く死んだ方がいいのぜ!」


「じゃ、ドンなんとか。

さっさと備中鍬のレンタル代金払えー。

払わないと、村を粉々に吹き飛ばすぞー!

あとで後悔しても知らんぞー!交渉を拒絶してからが本当の地獄だぁー!」


『とんでもない説得力』

『妖精さん、躊躇なく爆弾投げるもんな……』


シルバーの警告に、ドンはますます顔を真っ赤にして怒り、罵声を浴びせてきた。


「無視するんじゃないのぜぇぇぇ!!!

空を飛べるからって、調子に乗るのもいい加減にするのぜぇぇぇぇ!!

亜人は、俺達、人間のために存在するっ!下等生物なのぜ!

さっさと自害するのぜ!これは人間様の命令なのぜ!

村の周りに布設した、怖い物体を除去するのぜぇぇぇぇ!!」


「返さないと、村を爆破するぞー!

子供達が不幸になってもいいのかー!」


「元はといえばっ!お前のせいで、俺らの生活が破綻したのぜぇぇぇぇ!!!」


「はっ?」 シルバーは呆けた声をあげた。


「お前らの村がっ!

安い鉄を使って!

鍬を量産したせいでっ!鉄の相場が崩壊して俺らが生活できなくなったのぜ!

だから、これくらいの事はやっても良いのぜ!

それが分かったら!自害するのぜ!これは命令なのぜ!」


『なぜ、鉄の相場が下がるwwwww』

『たった10トンで相場が崩壊だとっ……!?』

『妖精さん……明らかにこれ、口からデマカセだぞ……。

いくらなんでも、たった10トンの鉄で相場が崩壊するのはありえない事だ……』


現代子なシルバーにも、ドンの発言は明らかな嘘のように思えた。

地球の17世紀初頭の戦争だって、一回の戦いで65トンくらい金属資源を砲弾に変えて、撃ちまくっているのだ。

たかだが10トンくらいで、相場が崩壊するはずがない。


(どうするかな……?

穏便に話を終わらせる方法が思いつかないし、ドンの発言を肯定して、仕事を紹介すればいいか……?)


ショタ妖精の心は決まった。

さすがに豚人間以外も殺しまくったら、ガチの恐怖政治になりそうだから、それを避けたかった。

一応、ネットの皆からの寄付で、異世界生活が成り立っているだけに、理不尽な虐殺は許されない。

シルバーは地上にいるドンめがけて、交渉を再開する。


「だったら、俺の所で雇用してやるよ!

それなら問題ないだろ!賃金は応相談な!」


「はぁぁぁぁぁぁ!?

亜人の分際で、俺らを雇用する!?

何様のつもりなのぜぇぇぇぇ!!

下賤な下等生物の分際で、言いたい放題言うんじゃないのぜぇぇぇぇ!!

お前らの薄汚い邪悪な先祖を殺さなかった、礼を忘れたのぜぇぇぇぇぇ!?」


「いや、どうせ嘘だろうけど、俺のせいで……お前らは生活できないんだろう?

なら、俺の所に就職すれば無問題だろ?

戦うより、そっちの方がお互いに得だと思うんだが?血を見たら、もう後戻りできないし……」


『妖精さん、ご先祖様を馬鹿にされてもスルーしているわ』

『そういえば、妖精さんの両親も妖精なん?』

『きっと、美少女、美少年カップルだお』


しかし、シルバーの穏便に終わらせようとする努力は実らない。

ハムスターマンは、過剰すぎる兵力を持っているし、最初から有利な条件を勝ち取れるまで、戦争する気満々だ。


「こっちは1万人もいるのぜっ!

お前らの集落よりも物量が遥かに上っ!なのぜっ!

正面から戦えば、俺達が圧勝するのぜ!

むしろ、製鉄技術を寄越すのはっ!お前らの方なのぜぇぇぇ!!

理解したら、さっさとドワーフどもを寄越すのぜ!

以前みたいにっ!ミカドワを徹底的に扱き使ってやるのぜ!今度は逃げられないように足を切断してやるのぜ!

再生した傍から、切断しまくって後悔させてやるのぜぇぇぇ!!」


「うわぁ……猟奇趣味?

ダイナマイトを使いたくなってきた」


『跳躍地雷に包囲されて、骸骨軍団に二重包囲されて詰んでいる状況で、このセリフ』

『話すだけ無駄と思うのは何故だろうか……?交渉は難しいな』


この瞬間、ドンの言葉のせいで、シルバーの脳裏に、ミカドワの傷だらけの小さな背中が思い浮かんだ。


~~~~

「アタイは、あいつらに許せないくらい深い恨みがあるんだ。

これ以上は……話したくないね。人間どもの話をするだけでイラつくよ。

あと、そこのお前達!

さっきから覗いているのは知っているんだよ!」

~~~~


真っ赤なポニーテールが似合う、彼女の辛い過去を知れるチャンスだと理解して――


「……ミカドワって誰だっけ? 」 ショタ妖精はカマかけを行った。


『妖精さん!?合法ロリの裸を覗いたのに忘れたの!?』

『若いのに認知症か!?』


ドンは大笑いしながら、シルバーの期待に応える。


「ミカドワはっ!この村の奴隷だったのぜ!毎日たくさん躾をしてやったのぜ!

ミカドワの恋人の手足を引き裂いて、川に捨てて、二度と逆らえないように躾ってやったのに……許せない事にっ!反乱をっ!起こしてっ!他のドワーフ達と一緒に逃げてしまったのぜ!

俺様は亜人どもに賠償と奴隷を要求するのぜぇぇぇ!!」


『ロリドワーフを虐めただとっ……!』

『妖精さん、スケさん、カクさん、この鼠を殺っちゃいなさい!』

『ミカドワたんが恨んでいるのは、恋人を殺されたからだお?』


ネットの皆と同じ事を、シルバーは思った。

ハムスターマンの非道に嫌悪感を感じて、ダイナマイトで吹き飛ばしてやりたくなる。

だが、ここで激怒して大量虐殺をやるのは、君主としてはダメだろうと自制し、対話を健気に再開するのだった。


「奴隷制度か……俺の所も、生活に困った連中を保護するために、奴隷制度やっているけどさ。

無意味に虐めるのは、嫁が禁止しているんだ(体の傷はすぐ治るが、心に深い傷を負ったら、労働効率が悪くなって不経済的な意味で)」


「とんだ甘ちゃんなのぜ!

奴隷は、毎日、殴ったり、指を切断したり、剣で刺さないと分からないのぜ!

これだから、亜人は格下すぎる生き物なのぜ!

人間様を尊敬して見習うと良いのぜ!ゲラゲラゲラッ!」


「……なぁ、ドン。

お前じゃ話にならない。

以前、出会った時にいた穏健な奴らを出してくれないか?

確か名前はアリ――」


「あいつらは、お前が帰った後にっ!拷問してっ!今じゃ肥溜めの中にいるのぜぇぇ!!

亜人に優しくしようとするゴミはっ!ゴミらしく扱ってやったのぜぇぇぇ!!

最後のセリフは、〈生きていてすいません〉だったのぜ!」


ひどい落胆を、シルバーは感じた。

もう、おしまいだ。交渉を進展させる方法が全く見当たらない。

ここで引き下がったら、プラチナが怒るし、せっかく作った国の支配力がゼロになって、全部がパァーだ。


「……こいつと会話していると、うん。

紛争地帯で和平を模索している連中みたいな感じに、俺、苦労している気がする……。

現実で紛争解決ってどうすればいいんだっけ?」


『圧倒的な武力で叩き潰す』

『利権を与えて武装解除がテンプレだお』


「はぁ、どうすればいいのやら」


ショタ妖精は、途方に暮れた。

仮に、口先だけの交渉が終わっても全く安心できない。ハムスターマンなら、亜人とした約束はすぐに破りそうだ

交渉は、お互いに最低限の信頼関係があってこそ成り立つ。


『ハムスターが大きくなった結果』

『ただのブザイクな動物だった件』



--------------------------------------------------------------------------------



拡声器メガホン(200円


なお、ラッパの形の道具だったら、音を拡声する効果があるから、電気なくても音は大きくできる。



消費総額151万 100円☛ 151万300円




--------------------------------------------------------------------------------


(´・ω・`)主人公が今まで購入したアイテムは、こっちに全部纏めた。

http://suliruku.futene.net/Z_saku_Syousetu/Tyouhen/Neltuto_tuuhan/Aitemu.html

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る