027「エルフ娘と、手押しポンプ井戸」


(カンボジアの田舎みたいになってしまったのです……)


エルフ娘のエルフィンは、井戸から水を汲む重労働を放棄して、村の外を見ていた。

水堀の周りに、鉄条網という鋭いトゲが付いた糸を縦横無尽に張り巡らし、更にその外側には、膨大な数の跳躍地雷が埋まっている。

村の入口以外、全てが罠だらけという異常な場所になってしまった。


(……せ、生活が不便になったような気がするような………?

迂闊に、外部に畑を拡張できなくなったのです……!)


そんな風に、のんびりゆっくり過ごしていると、村の外に、豚人間が10匹ほどやってきた。

豚どもの視線は、金髪巨乳エルフ娘――ではなく、地雷原のど真ん中に設置された看板に、注がれている。

看板には、地球の金髪巨乳美女アイドルが印刷されており、豚人間は、その絵の巧妙さに好奇心が抑えられない。


「ブヒィー!あんなところに素晴らしい絵があるブヒィー!」

「お嫁さんにしたいブヒィー!」

「きっと、絵の世界から美女が出てくるに違いないブヒィー!」


すぐに、看板を略奪しようと走る。地雷原の真上を駆け抜けた。

1匹が敷設された跳躍地雷を踏んでしまう。

すぐに空き缶サイズの地雷が、真上へとジャンプして、空中で大爆発。無数の鉄球を周辺にばら撒き、豚人間達をズタズタのボロ雑巾さんにしてしまった。


「ブ、ブヒィ……?」

「な、なにが起きたブヒィ……」

「もっと……お尻を……揉みたかった……ブヒィ……」


(お、恐ろしい地雷なのですっ……!

周りを効率よく巻き込むために、ジャンプさせてから爆発させるなんて鬼畜すぎるのですよっ……!)


恐怖するエルフィン。そんな彼女の後ろに――地雷を仕掛けた張本人が、音もなく、空を飛んでやってきて、挨拶した。


「おはよう、エルフィン」


「……お、おはようなのです、シルバー様」慌てて後ろを振り向くエルフィン。


「水汲みの仕事、大変そうだな?」


『エルフ娘が仕事をサボっているのを見たのにwww気を遣う妖精さん優しいwww』

『妖精さんは、巨乳好き。はっきり分かんだよ』

『そりゃ陵辱レイプされた美少女だからな。優しく接して、後で美味しく食べるんだろう?』


「た、確かに大変なのです。でも、ここではこれが当たり前なのですよ」


エルフィンは嘘をついた。水汲みが重労働だから、仕事をサボった事を誤魔化した。

現代の地球とは違い、この未来世界では、掃除機を含む、世界史を変えた省力家電の類は存在しない。

家事だけで貴重な一日が終わってしまう。そんな大昔に戻ってしまったのだ。


『妖精さん、十万円あげるから、ポンプ付き井戸を作って、エルフィンちゃんに楽をさせてあげてほしいお!』

『この村に足りないものっ!それは衛生的な深い井戸だ!

浅い井戸は、バイキンだらけでバッチィぞ!

食中毒で亜人娘達が苦しむ様は見たくない!』


(や、やっぱり、不思議な雑音が聞こえるのです……。

きっと、嘘とか全部ばれているに違いないのですよっ……!)


叱られると思ったエルフィンは、エルフ耳が下に垂れた。

だが、彼女の反応を余所に、目の前の小さな妖精は、エルフィンの事を思いやって――


「なぁ……エルフィン。

井戸の水を汚いと思ったことはないか?」


「た、確かにバッチィような……?

でも、熱で殺菌すれば大丈夫なような……?」


「よし、俺に全部任せろ!

エルフィンに清潔で、美味しい水を飲ましてやる!」


「……はぃ?」


突然の展開に、エルフィンは訳が分からなかった。


『エルフィンたん、明らかに異常だお。細菌の存在を知らないと出てこない単語があるお』

『殺菌という概念を知っている時点で、何か、凄い秘密を握っているに違いないお……』



~~~~~~~~


数日後。シルバーが暇そうにしている骸骨達を集めて深い井戸を掘った。

シルバーだって、美味しくて、清潔で、冷たい水を飲みたい。

だから、井戸はとんでもない深さになってしまった。ざっと40m。水質検査はしたが特に毒物は入ってないようだ。


『俺らの寄付を湯水のように使う妖精さん』

『らめぇー!アフリカで同じ事をしたら、盗まれて転売されちゃうよー!』

『日曜大工の仕事としては……難易度高すぎるな』


そこに、ネット通販からポンプ付き井戸の部品を購入し、ネットの皆のアドバイスを聞きながら作業をやり……なんと、村の中央にハイテクな井戸が出来上がっていた。

動力は人力しかないから、手でハンドルを押し下げて、水を汲み上げる事ができる手押しポンプだ。

シリンダー内の空気を、真空状態にする事で、低いところにある水がパイプを通り、大気圧で自動的に登ってくる仕組みである。

そんな科学的な説明を、シルバーは、エルフィン達を含めた村人達にした。


「し、真空って何だべ?」

「ま、魔法だ!魔法の井戸だぁー!」

「シルバー様の魔法だぁー!ありがたやぁー!」


『原理を説明しても、意味がない件』

『アホにも理解できるように説明しないとダメだお』


「えと、そうだな。

うん、魔法っぽい力で動く装置だと思えば良い。

単純な操作で、深いところにある水が、ここまでやってくるんだ」


シルバーは、教育って重要なんだなぁ、という顔をしている。

難しい事を簡単な内容にして説明できる会話能力が、ここでは求められていた。


(ぜ、絶対に転生者か、『夢幻』に違いないのですよっ……!

ダーク・シルバーは、物質を創造するタイプの能力だと、本に書いてあったのですっ……!

し、しかも、技術者としても優秀なのですっ……!

これが完璧超人という奴なのですかっ……!?)


エルフィンは驚きながらも、これから先、家事で楽が出来ると思い、心を安らかにする。

科学文明が完全崩壊した世界で、手押しポンプは画期的な道具だ。

農作業用の水路に、手押しポンプで水を送るもよし、水が少ない地域だったら、これで灌漑農業出来る。


(シルバー様はとんでもないお方ですけど……家事が楽になりそうなのですよ……。

美味しくて冷たい水が飲めるのですっ……!)


「これで、水汲みの仕事は楽になったな!」


シルバーが、エルフィンにほほ笑みかけてくる。

ショタ妖精の魔性イケメンっぷりに、エルフィンの心臓がドキドキした。大きな胸に両手を当てる。


(ぜ、絶対にチャームの魔法か何か使っているに違いないレベルの美少年なのですっ……!

美しすぎて、逆に不審者すぎるのですよっ……!

ぜ、絶対に惚れたら、碌な最後を迎えないに違いないのですっ……!)


しかし、ここでシルバーに返事をしないのは失礼だった。

だから、エルフィンは、お礼の言葉を言おうとして――この場にいたプラチナに、言葉を遮られる。


「さすがはシルバー様です!

家事の仕事を軽減して、もっと領民に色んな有益な仕事をやらせるんですね!経営者の鏡ですよ!

たくさんたくさん働かせて、大国を作りましょう!大国!

世界帝国でも良いですよ!」


「……あ、うん。そういう事でいいかな……?

いろんな産業あった方が、豊かになれる……?」


『自信がない指導者に、付いてくる民草は居ませんぞ!』

『ダメだ、この妖精っ……!恐怖政治やってなかったら破滅しているわっ……!』


シルバーの意味のない呟き。

領民達はそれを聞いて、残酷な未来を想像した。

支配者が、民草に楽をさせる政策を行うはずがないという先入観が働き、不安となり、彼らの心の中に染み渡る。


「お、俺達をもっと働かせるっ……?」

「やっぱり、恐ろしい大魔王だっ……!」

「オラっ!働かずに暮らしたいだっ!」

辛い農作業は嫌だっ!

「や、やめるだ!そんな発言したら、リザードマンのゴロツキみたいに処刑されて、ステーキにされて食われてしまうだ!」


『内政チートが難しいお』

『妖精さんの信用度はゼロだお』


この場で、シルバーの傷ついた心を救ってくれるのは、嫁の銀髪ロリだけだった。

プラチナは落ち込みかけているシルバーを励まそうと、両手を振り回し、民衆を扇動する。


「さぁ!皆さん!

シルバー様に拍手しましょう!

えと、手押しポンプ?

僕たちは、それのおかげで、水汲みの仕事から解放されました!さぁー!パチパチッー!」


領民達が、命の危機を感じながら拍手をした。

その光景はまさに――支配者と奴隷。数日前に繰り広げられた新領主演説の時と同じ、恐怖政治だった。


「シ、シルバー様万歳っー!」

「て、手押しポンプで、生活が楽になりますだぁー!」

「新鮮な水を飲み放題ですだぁー!」

「あっひゃー!水だぁー!綺麗な水だぁー!」


『生活が楽になったのに、なぜこうなった』

『人と人が分かり合うのは大変だお……』

『プラチナたんとの子作りはよ』


この拍手の嵐の中、エルフィンだけは自然と笑みを浮かべる事ができた。

現代人な彼女にとって、水汲みなんてクソゲーそのもの。

手押しポンプで、楽に水を汲み出す日々が到来すると思えば、少しだけ落ちついた。


(シルバー様の思惑は分かりませんが……これで私の異世界生活が楽になるのです。

目指せ現代文明生活なのですよ~)


『このエルフ娘、妖精さんに惚れてますぞ!』

『この笑顔、間違いないお!』


~~~~

『ヤムチャしやがって……』

『手押しポンプさん、ご愁傷様です』


……手押しポンプ付き井戸(中古品)を、千人の亜人が、朝から晩まで使いまくった結果。

使い方を録に覚えていない連中のせいで、一週間でチェーンが切れ、一か月後には水を収納するタンクが壊れてしまった。

浅い井戸を利用する時代が、また戻ってきて、エルフ娘のお腹が痛くなる。

エルフィンは。壊れた手押しポンプを見て、呆然と佇む。

その彼女の後ろを、シルバーが申し訳なさそうな顔で立っていた。


「私達の希望が……砕けてしまったのです……。

辛い水汲みはもう嫌なのですよ……」


『これ見ると……発展途上国を思い出すな……支援しても支援しても、技術者がいないから、ポンプ付き井戸の大半が壊れたまま放置されると聞く……』

『でも、浅い井戸だと、ばい菌がウヨウヨいてバッチィお?』

『朝から晩まで、濁った水を飲んでいるから、自分たちがどれだけ不衛生な環境にいるか知らないんだお……。

エルフィンたん可哀想だお……』


「あ、安心してくれ、エルフィン!今すぐ修理するから!」


シルバーは、男としての意地を見せようとした。しかし、豚人間の討伐や、領主としての仕事を覚える必要がある。

だから、今度は壊れても、簡単に修理できるようにドワーフの鍛冶師に、設計図を書いて渡し、修理させた。

そのおかげで、手押しポンプは治ったが、その過程で人件費が発生し、財源にしようとするプラチナの介入で、有料となり、周りに4体の骸骨戦士が配備され、気軽に使用できない高級井戸として、村に残った。

安全な水は無料ではない。お金に出来るのだ。そんな現実にエルフィンは消沈する。


「うううっ……!

やっぱり、シルバー様は悪の帝王なのですっ……!

税金が2倍になって、安全な水の有料販売までするなんてっ……!

私の貯金が尽きてしまうのですよっ……!」


エルフィンの懐の財布が軽い。もっと給料を上げて貰わないと生活できない的な意味で。

そして、新たな事実に気がつく。


「ま、まさかっ……!」


目の前の深井戸。この清潔で安全な水を飲んだら、二度と他の水は飲めない。

特に、21世紀の日本人なら、この井戸のために、金を払い続けまくって、水を飲み続けるだろう。


「て、転生者を炙り出す装置っ……!

な、なんて卑劣な陰謀なのですかっ……!

ダーク・シルバー様はっ……!

転生者を炙り出して、一体、な、何をするつもりなのですかっ……!」


怖くなったエルフィンは、それでも清潔な水が欲しくて、深井戸を利用し続けた。

深井戸は利用者が少なくなりすぎたせいか、静かにションボリ、佇んでいる。

4体の骸骨戦士が無言で笑った。



~~~~


現実の井戸(´・ω・`)地下にある水が、毒物な事があるから、水質検査しないと、大変な事になるお。


カンボジア(´・ω・`)ボランティアに井戸を掘ってもらったら、ヒ素に汚染されている水だったお……

死人続出……





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井戸用手押しポンプ2万円



消費総額10万1100円 ☛ 12万1100円



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(´・ω・`)主人公が今まで購入したアイテムは、こっちに全部纏めた。

http://suliruku.futene.net/Z_saku_Syousetu/Tyouhen/Neltuto_tuuhan/Aitemu.html



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