023「妖精さん、豚の策をねじ伏せる」
勢いが勢いを呼び寄せ、弱兵が強兵に勝利する。
兵法の基本中の基本。それをシルバーは体現していた。
堤防を切った川の水の勢いは土石を飲み込むように、小さな妖精は火炎放射器を両手に、突撃して無双する。
「お前らなんてっー!この世から消えてなくなれぇー!」
無謀といえば無謀。
相手をしている豚人間は、策を弄する豚だ。
だが、シルバーは一人じゃない。
『妖精さん!隣の川を見ろ!』
『それ以上、進んじゃダメだ!』
『後ろの処女を失っちゃう!』
警告の声に従い、シルバーは、洞窟内部の片側を流れる川を見た。
川の上には、小さな竹の棒が二十本ほど立っている。
水中を見ると……竹筒を咥えた豚人間がいた。どうやら竹筒に穴を開けて、そこから空気を吸っているようだ。
あのままシルバーが突撃していたら、今頃、潜水していた豚どもに、後ろから襲われて、色んな意味で挟み撃ちにされていただろう。
『妖精さんファイヤー!』
『豚は出荷よー!』
シルバーは、燃料つきの炎を、竹筒に食らわせる。
酸素を全て消費しきった空気を、豚人間達は吸い込む羽目になり、20匹の豚が酸欠で即死した。
その光景を遠目に見ていた豚人間達は絶叫する。
「「ふ、伏兵に気づかれたブヒィー!」」
「「せ、戦闘の天才ブヒィー!」」
「「お嫁さんにするの大変すぎるブヒィー!」」
今なら勝てる。そう思ったシルバーは、叫ぶ豚めがけて突撃。
燃料が付いた炎をばらまき、片っ端から豚人間を焼豚に変えていく。
……絶対絶命の大恐慌状態にも関わらず、豚人間が策を弄している。
その事実に、シルバーの手足が震えそうだったが、身に溢れる怒りで全てを誤魔化し、豚人間の追撃を続けた。
『俺らが一度でも、索敵失敗したらゲームオーバーか』
『妖精さんの人生は、俺らにかかっているんだお……』
『失敗したら、白濁な液体が妖精さんにかかるんだお……?』
ネットの皆の心配は的中した。
伏兵は川だけではなかった。
むしろ、川の伏兵は、最初から犠牲にする事を前提にした捨て駒。
天井の石柱に、豚が20匹ほど張り付いている。恐ろしい筋力とスタミナだ。
シルバーが真下に来た途端、豚どもは掴んでいた石柱を離し、迅速に降下して包囲陣を敷いた。
「「ブヒィー!」」
『妖精さんっー!』
『上に豚がぁー!』
『親方っー!空から豚が降ってきたぁー!』
さすがに、アドバイスが遅すぎた――かのように見えた。
だが、昔から、高所からの落下には問題点がある。
落下した時に生じる運動エネルギーを殺したり、受け止めたりする必要があるから、僅かな隙が出来るのだ。
「うわぁぁぁぁぁ!」
それゆえに、包囲されて、絶望的に不利だと判断したシルバーが、素人らしい無茶を実行する。それだけの猶予が生まれた。
その場で、火炎放射器を持ったまま、360度回転。
炎つきの燃料が、辺り一帯にばらまかれ、着地した豚人間達に降り注ぎ、一瞬で戦闘能力を喪失した焼豚となった。
「「あ、熱いブヒィィィ!」」
「「み、水が欲しいブヒィィィー!」」
皮膚が焼ければ、もう戦えない。
ここで生き残っても、無数の病気を併発させて死ぬだけだ。
『ば、馬鹿なっ……!』
『動画を見ている俺たちの方が信じられないっ……!』
『妖精さんは、ニュータイプなのかっ……!』
ネットの皆も、豚人間達も、シルバーの所業に驚愕する。
ありとあらゆる策を、力技でねじ伏せる戦いっぷりに――
「さ、最強のオッパイ二十人衆がやられたブヒィー!」
「お、恐ろしい魔法少女ブヒィー!」
「俺たちはもう駄目ブヒィー!」
豚人間達は、交通渋滞のせいで、後ろに進めないのに逃げようとした。
シルバーは、地面から立ち上がり、火炎放射器の燃料タンクをネット通販で購入して、ゆっくり交換。
発射口を、豚人間の背中に定めて、追撃戦を再開する。
「なんで追い詰められている側のお前らがっ!
そんなに策をっ!弄するんだよ!
おかしいだろ!常識的に考えて!」
「「ぶぴっー!」」
豚は火炎放射で燃えて燃えて、豚の燻製になった。
肉が焼けたから、表面でメイラード反応が起き、それが香ばしい匂いを発生させる。
『口は正直なのに、体が全然正直じゃない妖精さん』
『豚さんが可哀想だお』
『妖精さんやばいな……火炎放射器の使い方がむちゃくちゃすぎて、下手したら妖精さんが燃えるぞ……』
豚人間の数を、減らせる内に可能な限り削ろうと、シルバーは前進し続ける。
だが、人工的に洞窟を削り取られて作られた広場へと来た瞬間――
『妖精さんっ!危ない!』
『逃げてぇー!』
何が危険なのか、さっぱり理解できなかったが、シルバーは後ろへと、咄嗟にジャンプした。
先ほどまで居た場所めがけて、大量の石が高速で飛んできて、地面に衝突する。
もしも、警告が少し遅れていたら、今頃、戦闘不能になっていた事は間違いない。
「ブヒィー!手に負えない娘は殺して良いブヒィー!」
「毒嫁は、この世から消し去らないといけないブヒィー!」
「今すぐ、降伏するなら、お嫁さんにしてあげても良いブヒィー!逆ハーレムが待っているブヒィー!」
広場には、木を加工した盾を持った豚人間30匹が布陣し、その後ろにスリングを持った投石部隊20匹が展開している。
スリングは、投石紐の事だ。石を載せて回転させて、その遠心力で遠く力強く飛ばせる原始的な投石器――
『妖精さん、石見て』
『これ、ただの石じゃない』
しかも、飛んでくる石は……全てが角張っている狂器だ。
当たれば、相手を傷つけ、下手したらそのまま殺してしまう。
自然界にはない加工された石。
どうやら、シルバーの目の前にいるのは、オッパイ党の精鋭部隊らしかった。
「抵抗は無駄ブヒィー!」
「今なら、オッパイを十時間くらい揉む程度で許してあげるブヒィー!」
「貧乳を大きくしてあげるブヒィー!」
(ど、どうすれば良いっ……!
お金ほとんどないのにっ……!)
火炎放射器は、射程距離が短すぎて、役に立ちそうにない。
無理に近づけば、有効射程に接近する前に、投石の雨が飛んできて、あの世に行くのは確実だった。
かと言って、ここで籠城するのは得策ではない。長期戦になれば、1人しかいないシルバーは寝込みを襲われてゲームオーバーだ。
『妖精さん、オラに秘策があるお!
火炎放射器を買わせた罪を贖うお!』
ネットから出た突然すぎる提案。内容も突飛すぎた。
しかし、豚人間の性質を考えれば、99%成功するように思える。
シルバーは、その内容の酷さに、嫌そうになりながら……なけなしの金で、とある物を購入した。
「早く降伏するブヒィー!さもないと痛い目に合わせるブヒィー!」
「降伏の仕方がわからないなら、全裸になってこっちに来るブヒィー!」
「たくさん、チッパイを可愛がってやるブヒィー!」
「腫れ上がるまで、貧乳を揉んでやるブヒィー!怒ったブヒィー!」
『男の娘を追いかける豚の群れでござる』
『うむ……なんと言えば良いのだろうな。
妖精さんをショタだと知ったら、きっと絶望しそうだ……』
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豚(´・ω・`)よく見たら、ちっぱいを通り越して、まな板だった。
どうしてこうなった。
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(´・ω・`)主人公が今まで購入したアイテムは、こっちに全部纏めた。
http://suliruku.futene.net/Z_saku_Syousetu/Tyouhen/Neltuto_tuuhan/Aitemu.html
【小説家になろう】 「二輪台車って需要ないん?」馬車でOK
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