006「妖精さん、暗黒王子になる」 一章終了
昔、読んだ本の内容を、シルバーは思い出した。
……人間は誰かが自分を見ていると思うと、悪い事ができない。
日本人なら『お天道様がアナタを見ている』という言葉が一番しっくり来るだろう。
転生者は、ひとり残らず、観察系お姉さんにストーカーのごとく観察され、シルバーはネットの皆から監視されている。
悪い事をしたらボロ雑巾のように批判される環境だ。
でも、この異世界で日本の常識を持ち出されても困る。
法律を全て完璧に守って生きている人間なんて、ほとんどいないのに。
(俺の異世界人生……難易度が若干上がっていないか……?)
広告収入で生命線を握られている以上、犯罪行為は出来ない。
広告費を払うのはスポンサーだ。
異世界で泥棒や、殺人でもやった日には。どれだけアクセスが集まっても収入が0円になるだろう。
逆に言えば、殺人やっても稼げるなら――惑星間通信なんてものは存在せず、シルバーは観察系お姉さんに騙された事になる。
(いや、考えすぎだろ、俺。
ストレスで深読みしたらハゲる。
出来る範囲内で、精一杯、行動するしか、俺には道はない)
考えるのをやめて、シルバーは、プラチナがいる茂みへと視線を移す。すると――
「シルバー様ぁ~!
服を着るのに、手間取ってすいませんっー!」
茂みの向こうから、装飾たっぷりの黒いドレスを着た、銀髪ロリが走ってきた。
シルバーのすぐ目の前まで彼女は近づき、その場で一回転。
スカートの裾が、ふわりっと、風の動きで、軽くめくりあがった。
(……年齢相応で可愛い。
こんな可愛い生き物、初めて見た気がする)
「どうです?僕のドレス、可愛いですか?」
『この娘お持ち帰りしたい』
『メイド服着せたいお』
『スカートが長いから、パンチラが見れないお』
上目遣いのプラチナは、抱きついて撫で撫でしたくなるほどに愛らしかった。
しかし、プラチナとシルバーの間には――とんでもない誤解の壁が広がっている。
「僕、シルバー様の活躍を描いた小説を読んで、子供の頃から尊敬していたんです!
とうとう、千年の時を越えて復活なされたんですね!」
「ち、ちなみに聞くが……どんな内容だった?」
「都市を一撃で吹き飛ばしたり、大勢の女性とハーレムしたり、次々と国を攻略して征服したりする英雄物語でした。
そんで最後は7英雄にボコボコにされて、地獄に封印されました、めでたし、めたでし、です」
『なんでそんな極悪人が英雄扱いなのwwww』
『ちょwwwそれ、英雄じゃなくて大魔王だろwww』
(うわぁ……誤魔化しきれないぞ。これ。
素直に謝った方がいいか?
核爆弾でも買わないと、同じ事はできないぞ……)
「僕、一目でシルバー様だって分かりましたよ!
ありえないくらい美形ですし!
羽が紫色で特徴的ですし!とっても綺麗な模様ですよね!」
プラチナの目が、純粋すぎる好意で輝いていた。
『妖精さん、誤解どうするん?』
『このロリ面白いwww』
(俺、どうしよう……。
この娘に好かれたい。仲良くなってイチャイチャしたい。
でも、嘘は良くないし……)
「シルバー様!大事なお願いがあるんです!」
プラチナがドレスが汚れるのも構わずに、その場に土下座した。
「豚人間を一匹残らず殺してください!
あいつらのせいで、世界中の女性が迷惑を被っているんです!
主に性的な意味でっ!」
「豚人間……ああ、さっきのレイプ魔か」
「あいつら酷いんですよ!
ほぼ全ての亜人と交配できるから、1匹でも放置すると爆発的に数が増えて、治安が悪くなるんです!
寿命短いから、目先の利益しか考えないし、女の子を見つけたら犯そうとするしっ!
僕の親友も豚人間に誘拐されて行方不明になりました!
今頃、口では言えない感じに……エ、エッチィ事になっていると思います!」
「そ、それは……大変だっ……!」
「だからお願いします!この地にいる豚人間を駆除してください!
僕の身体を好きにして良いです!
それでも駄目なら、誘拐された親友の体も好きにしても良いです!
シルバー様に抱かれるなら、あの娘も納得すると思います!」
『それなんてエロゲー』
『妖精さん、豚人間を皆殺しにしてあげなさい』
『銀髪ロリの頼みは聞かなきゃ……!』
『異世界ハニートラップ~女の子のためなら本気出す~』
頼られたシルバーは激しく苦悩した。
ここで我が身可愛さに、豚人間の駆除を拒むという選択肢はある。
だが、彼はプラチナに好かれたいのだ。結婚してイチャイチャして暮らしたい。
色んな思い出をこれから共有して、一緒に仲良く暮らしたい。
ならば、やるべき事は決まっていた。
「全部っ!任せろ!
俺を誰だと思っている!
伝説の暗黒王子ダーク・シルバーだぞ!」
『ちょwwwwおまwwww』
『お前、ついさっき、異世界に来たばかりだろwwww』
『詐欺すんなwwww』
(こ、こんなに可愛い娘に好かれるためならばっ……!
俺は嘘をつく!
ネットの皆に叩かれても良い、ような気がする。
嘘は悪い事かもしれないが、結果的に彼女を幸せにすれば大丈夫なはずだ!)
シルバーのイケメンすぎる行動のおかげで、プラチナの顔が、満面の笑みに染まった。
「さ、さすがはシルバー様っ……!
英雄の中の英雄ですっ……!
あれだけ強力な魔法を無詠唱で使えるなら、豚人間の百匹や二百匹くらい軽いですよね!」
「え?」
『数多いwww』
『妖精さんが死んじゃう!』
「豚人間って、繁殖力旺盛で、短期間に一気に成長するから数が多いんです。
あの……やっぱり駄目でした?
この近くだけでも、少なくても200匹くらいはいると思いますよ?」
「お、俺に全部任せろ!
豚人間の巣ごと駆除して、誘拐された親友を助けてやる!」
『おまwwwwww安請け合いすんなwwww』
『死んでも知らんぞwwwwww』
『残りの金を全部付き込んでも足りんだろwww』
敵の数は最低200匹。拳銃弾は一発20円で買える。
200匹×20円=4000円。
百発必中でも、これだけの金額が必要となる。
まともにやったら、貯金が0円になるのが先だ。
(あ、後にひけない・・・こんな可愛い娘と仲良くなれるなら、俺、命を賭けられちゃう!
それに俺には秘策があるんだ。
地球のお金を稼ぐ方法は、広告収入以外にもあるはず。
なら、俺はプラチナのために頑張ろう。
豚人間の存在そのものが許せないのは、俺も同じだ)
シルバーは覚悟を決め、プラチナに聞いた。
「ところで……豚人間の巣はどこにある?」
「えと、山の中だと思うんですが……広大すぎて、どこを探したら良いのやら……。
今まで行方不明になった女の子の衣服が、川の近くで発見されているから……ひょっとしたら、川の上流に巣があるのかも……?」
『逃げた豚人間を追跡すればワンチャンス』
『俺らも動画をチェックして、あの豚を探してやんよ』
「大丈夫だ!空からさっきの豚人間を追跡すれば巣なんてすぐ見つかる!」
「な、なんて頼りになる方!
という事は、今すぐ豚人間を皆殺しに行くんですね!」
「……いや、でも、近くに豚人間がいるかもしれないし、プラチナ一人を置いていく訳には……」
『ヘタレるなよwwww』
『勇気出せ、妖精さん!』
「こう見えても、僕は強いんですよ!
ほら剣だってありますし!
シルバー様と一緒に、豚人間を討伐しますよ!
豚人間なんて雑魚です!雑魚!
武装も竹槍くらいしかないですっ!」
『このロリ、説得力がない』
『さっきレイプされかけたロリが言うなwww』
『おまwwww自分から性奴隷になるつもりかwww』
シルバーは困り果てた。
華奢な銀髪の美少女を戦わせるのは、リスクが高すぎる行為に思えた。
拳銃で物量をある程度は覆す事が出来る以上、足でまといには、付いてきて貰いたくない。
だから、シルバーは、首を横に二度振って――
「いや、プラチナは安全な場所で待っていてくれ。
俺は空を飛んで移動するから、一緒に行動するのは難しいと思う」
「シ、シルバー様っ……!
さすがは世界征服に挑んだお方ですっ……!
僕、たくさん手料理作って館で待っていますね!
あ、この湖近くにある村が、僕が治めてる村です!」
『おまwwwww現地の地理に詳しい奴を置いていくとかwww死亡フラグだぞwww』
『認めたくないものだな……若さゆえの過ちというものを……』
『妖精さんはなぜ死んだ?』
『童貞だからさ……』
残金2万3000円。
これが尽きたら、拳銃は鉄の棒と化す。
(あれ……?ここらへんを治める領主という事は……俺がプラチナちゃんと結婚したら、領主にクラスチェンジ?)
一章 おしまい
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作者(´・ω・`)拳銃が、故障する可能性も考慮したら、豚人間討伐は絶望的ですお
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