第7話 妙案
深海と桜は部屋に戻った。先ほどの出来事について話すためだ。深海は珈琲を入れ直した。
信じられないことだが、あれだけ派手に魔術を使ったのに、現実世界にはなんら影響はないのだと桜は言った。
「結界の中は一種のパラレルワールドのような状態なの。まったく同じ空間のように見えるかもしれないけど、なんて言えばいいかしら。世界のレイヤーが違うというのかな。例えば、結界内で目の前にある珈琲カップが割れても、結界の外の世界の珈琲カップは割れていない。わかるかしら?」
そう説明されても、深海にはイマイチ原理が理解できなかった。まぁしかし、大丈夫ならいいか、というのが正直な気持ちだった。
「それで、さっきの男は一体誰なんだ」
「アイツの名前はパッツォ。パッツォ・ロブハルト・クラインベル。神崎家と同じく、だいだい魔術を扱ってきた家系の末裔よ」
「婚約がどうこうって言ってたけど」
「こういう家柄に生まれた人間は、あまり表の世界の人間とは関わらないの。だから婚姻相手は、だいたいが同じ裏社会同士の人間になる。クラインベル家もその筋では名家よ。だから両家の親が勝手に決めて、私が16の時に婚約させられそうになったの。もっとも勝手に決められた婚約相手なんて、私は願い下げだわ。アイツの人間性も気に入らなかったしね」
「その点については君に同意する。癇に障る男だった」
初めて意見が一致したわね、と桜は笑った。そして、すぐさま真面目な顔に戻って続けた。
「とはいえ、性格は最悪だけど、魔術の腕はそれなりよ。今回は様子見くらいで来ただけのようだったけど、アイツが本気でしかけてきたら、かなり面倒よ」
僕は関係ない、と深海は言ってみたが、無駄だろうなと思った。あの男は明らかに、深海も標的にしているような口ぶりだったからだ。
「きっと僕は完全に巻き込まれたんだろうね」
そうね、申し訳ないけど、と桜は言った。
「でも大丈夫よ。私が優一君を守るわ。私の魔術だってアイツに引けを取らない」
「とはいえ、僕を守らなければいけない分、桜は不利だ。何か方法はないのかな」
桜はしばらく考えていた。珈琲はとっくに冷めてしまっていた。深海は冷めた珈琲をすすりながら、桜が口を開くのを待った。桜は何か案が無いわけでもなさそうだったが、どうやら言うべきか迷っているらしい。
「方法があるなら言ってくれ。それとも、あまり良い案ではないのかな」
「あるにはあるわ。でもそれなりに危険が伴うから……」
今更危険も何もない、と深海は思った。もう既に状況はかなり切迫しているように思えたからだ。
「危険でもやれることがあるなら教えてくれ。もう状況はここまできてしまったんだ。それならやるだけやった方がいい」
桜は深海をじっと見つめていた。
「話していて思ったんだけど、優一君てやけに冷静よね。物分かりがいいというか。でも、もしかしたら、その性格、向いているかもしれない」
「向いてるって……。一体何に?」
「あなたも魔術が使えるかもしれないってこと。案ていうのは、まさにそれよ」
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