第188話 こうして真の勇者は無能になった
「あ~~やっぱりぃ?」
意外にも、クラマの反応は淡泊であった。
「流石だ、
「よせやい。そんな大層なものじゃないよん」
謙遜するように、
「……ナカムラってさ、目の前の問題に近道をせずに、誠実に向き合っていく頑張り屋さんだろう?
なんとなく、周りが手を差し伸べたくなる奴だろう?」
「気持ちは分かる」
「でしょでしょ? 保護者視点でそういうの見守ってると、何となく察するんだ。
あぁ、こいつは周囲を
己の推測を一通り述べた後、山伏は月を肴に銘酒を一献し、ぷはぁと酒気が混じった息を吐いた。
「流石に勇者サトウなんて大物が出て来たのは驚いたぞ? けど同時に納得できたのさ。
そう言う意味での『やっぱり』ってわけよん」
「人柄から辿り着いたわけか、クラマらしい」
相棒の慧眼に対する敬意と、考察を重ねた渾身の結論があっさり流された悔しさが混じった複雑な感情を抱えながら、膝に肘を置いて頬杖をつく。
肩をつつかれた。
「クロードさんクロードさん。
じゃあ何故にナカムラ君は、勇者サトウの息子とかいう血縁者特待生であるのにも関わらず、
「それも自分なりの仮説は立てられている。術式の処理順に合わせて説明しよう」
「ご
〜〜
①:勇者召喚術式は以下の条件が全て揃った場合にのみ起動を成功させる。
条件1:術式を起動させた人物が、神聖ルべリオス王国の王族であること。
条件2:術式を起動させた時に、
条件3:勇者サトウの血縁者の年齢が、成人を迎えていないこと。
〜〜
条件1から3までを、上から指で順になぞる。
「条件三つは、
カトリーナ王女が術式を起動したとき、未成年の
そして……」
〜〜
②:勇者サトウの血縁者を召喚対象とする。
②-1:勇者サトウの血縁者の周囲に人間が存在する場合、それらも召喚対象とする。
〜〜
「中村を起点として、その周囲の人間も召喚対象にされる。
つまり、このクロードは『巻き込まれた側』となる」
「……やけに強調するじゃないか。重要な事かい?」
その言葉を待っていた。拳を己の胸に誇らしく叩きつける。
「主人公の召喚に巻き込まれる哀れな一般人。
まさに
「すんごぉい理屈こねてら」
呆れたように空を仰いだクラマを尻目に、術式に目を戻す。
「召喚人数上限の話は先ほど済ませたから……
召喚された中村達に
「待ってました」
〜〜
④:勇者サトウの血縁者に対して、
〜〜
自分は一つ深呼吸を行った後、これから語る推理の
「……ここからより自分の陳腐な妄想になる。
手に入れた情報を無理矢理繋げたらこんな話になりました、という
笑わずに聞いてほしい」
「見損なうなよ? 真剣に話してる奴を馬鹿にするほどあたしは人でなしじゃない」
求めていた返事を聞けたことで、心を少し軽くしながら説明を続ける。
「まず前提として……
自分たちが元居た世界では
「そうなの?
それはそれで斬新な体験ができそうな世界だねぇ」
「術式は、当然中村に【勇者】を付与しようとした。
しかし、クラマが言うように、中村は【勇者】になれなかった。
この食い違いを今手にある情報で説明するには……」
人差し指を滑らせて、紙面のある一点に焦点を当てた。
〜〜
④ー1:勇者サトウの血縁者に既に職業が付与されていた場合、
〜〜
「中村賢人は、勇者召喚される前から
「既に
勇者召喚されてから間もない日、自分は
その際に、
今になって考えれば、クラスメイト達が
その圧倒的な
「術式は、
「その通り。
こちらの確認を肯定しながらも、その表情は腑に落ちていないと言わんばかりである。
「でもさでもさ、あんたの世界は誰も
ありえるのかい?」
「普通なら絶対にありえない。
しかし、勇者サトウの息子であれば話は変わってくる」
「……確かに救国の英雄なら、自分の息子に
「だとすれば、もう一つの謎にも説明がつく」
腕に線を引くように指を動かす。
「何故父親が息子に拘束術式をかけたのか。
この世界では足枷にしかならないが、あちらの世界に送る前提なら利点がある。
良くてマスメディアの餌食、最悪人知れぬ研究所で生涯実験動物か。
いずれにせよ平穏とは程遠い人生を送っていたことであろう。
〜〜
④ー2:勇者サトウの血縁者に既に職業が付与されており、
〜〜
「中村に付与できなかった【勇者】は、次にふさわしい人物……つまり言峰に付与されることになったわけだ」
〜〜
④ー3:召喚対象が複数の場合、【勇者】と関係が深い者に、
〜〜
「そして【勇者】となった言峰と関係が深い、桐埼・七瀬・町田・皆瀬・緒方先生に強力な
これが事の真相だと思う」
「……するとなんだ?」
自分の稚拙な推理を聞き終えたクラマが、眉を顰めながらこちらに問いただす。
「ナカムラはサトウの息子であり、本来【勇者】になるはずだったのに、
自らに秘められていた【
その力も父親がかけた拘束術式のせいで封印されてたから何も発現せず、
無能扱いされてイジメられていた訳か?」
「自分も同じ結論に至っている」
彼女は瞼を閉じて頬を掻いた後、ゴロリと縁側に横になった。
「どういう経緯があったか分からんけどさ。
封印するくらいなら最初から力を与えないでほしいよね」
「相当な事情があったと思う。断定はできないが」
術式を再度一読した後、丸めて庭先を跳ねていた使い魔のリンへと投げた。
リンは投擲物を包むように受け取ると、黒色の体内で溶かしていく。
国王との約束を守るため、国家機密の写本はこの世から消えていった。
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