おきのどくですがぼうけんのしょがきえてしまいました

奥田啓

第1話

「名前何にするかな。まあ適当でいいか」

▼ほんとうに たくや でよろしいですね?

ポチッ


「久々にやるわ・・・・おーこれこれ・・・」

おれは久々に昔やってたゲームをやっている。

「やっぱおもしれーな。このターン性じゃないとドキクエとは」

ドキクエとは何十年と愛されている大人気RPGゲームだ。

俺はガキのころ、このゲームを何十回とやっていた。

みんな一回はあるだろう名前を「あああああ」にして後悔することを。

ストーリーが進むにつれて話がシリアスになってくとその物語にはいっていくのに、この名前が邪魔になっていくんだ。

ゲーム中に名前を変えられるところがあるがそこまで結構長いし

もうそれならやり直すかとおもって一回データをけしたりする。

ちゃんとした名前にしてゲームをスタートさせる。

古いゲームだとセーブデータっていうものも結構脆いもので

雑に扱ったりしているとデータがふっとんだりするんだ。

ゲームを始まるとおどろおどろしいBGMとともにお決まりの言葉がでてくる

『おきのどくですが ぼうけんのしょは きえてしまいました』

これがほんとうにこわいんだ。

だれもがトラウマ。

ゲームがいいところまですすんでいるほど悔しい。

もうラスボス直前っていうところで消えたりしてプレイヤーを絶望に落としていく。

その試練を潜り抜けてクリアしたとき。

達成感に満ち溢れる。










「結構進んだな。」

一息つく。かなりの時間やっていた。そのおかげで

かなりストーリーは進んだ。

子供のころはたくさんやったから、時間がたったとはいえ結構覚えているもんで、スムーズに進められた。

トイレもいかずに、何も食べずにすすめてたので一服したい。

そうおもいながら立ち上がると、

コントローラの線に足が引っかかってしまった。

そのはずみで少しだけ高いところにおいてた本体が床に激しくたたきつけられた。

「うわああああああああああああやべぇええ」

思わず叫び声をあげた。

画面は何色もの線がごちゃごちゃと画面を走る。

「これはまずい・・・・・せっかくいいところまでいったのに・・・・セーブはあんましてねぇし・・・やばいな・・・」

一回切ってまたつける。

なかなかつかない。

カセットを抜いてカセットの接触部分をふーふーやる。

ほこりやなんやらごみがついていると接触不良になってしまうので

それを吹き飛ばすためにこうやって風を吹き込むのだ。

本体の差込口にも同様に風を送り込む

そしてカセットを差し込みスイッチおす

「おっ!ついた!」

しかしセーブデータは無事だろうか。

コントローラーのスタートボタンを押してオープニングなどを飛ばす。

スタート画面に変わり、セーブデータを確かめる。

すると

『おきのどくですが ぼうけんのしょは きえてしまいました』

「うわーーーーくそーー!!いいところまでいったのによ」

これまでの時間なんだったんだよ。俺はショックで寝転がる

こんなにあっさりきえちまうもんか。切ないな。

子供のころは悔しさやいら立ちが前面にでたが

いまはちょっと切なさが強い。

もうやる気をなくした。

時間を見ればもう休日は終わりをつげようとしていた。


「明日から仕事か」一人しかいない部屋に声は跳ね返ることもなくすぐに消えてなくなる。

一緒にしゃべってくれる人もいない。

明日の仕事もそういえば早いしねるか。

おれはねむりにつく。


起きたら予定の時間よりも遅れてしまった。

朝飯はなしにするしかない。

急いで家から出る。




「おまえ!はやく動けよそっちの積まれているところに置けよ。」こわもてのひとがいう。

「は、はい。」

俺は普通の会社じゃなじめず軽作業の日雇い肉体労働で生活をつないでいる。

今日はオフィスの引っ越し作業だ。

おもい段ボールを移動させるとこわもてのひとが呼ぶ

「おい!おまえ!終わったらこっちこい!」

ここでは名前は呼ばれない。名もなき労働者なんだ。

「じゃこれ運んで。」

おもい板を何枚も持たされる

いつもの倍もたされる。これでは腕がちぎれてしまう。

「いやこれはちょっとおもいです。」

「はあ?こんなので?あんた何年やってるの?」

「4年です。」おれはしたむきながら

「4年でこのへっぴりごし?もうやめたら?」

「す、すいません。」

「じゃあこのからの段ボールはこんで。これはもてるかな重かったらいってね。バイト君。」

「はい、はい。」

自分がほかの人より重いのを持てるからってそれを自分に押し付けて

できるやつはできないやつをいたぶる。

いやな世の中だ。でもそれを反抗しないのがルールだ。

反抗するのはその場はすっきりするかもしれないが、仕事ができなくなる。

そうしたらいきていけなくなる。

だから胃を痛めながらたえるしかないんだ。


やっとのことで昼休みになる。

弁当にありつけると思ったら

さっきのこわもてに声をかけられる

「さっきちょっとこい。」

「は、はいなんですか」

「さっきおまえがはこんだ段ボール。そのしたにあったやつ大事な機械が入ってて壊れちまってるんだ。おまえなにやってんだよ。」

「えっでもつんでいいって・・・」

「は?おれのせいにすんのか?ちゃんと注意しながら運ぶ。お客様の大事な商品を運んでるんだはこんだおまえがわりぃだろうが。」

「そ、そんな・・・」

「おまえ謝りに行って弁償しろ。ほら電話かすからよ。」

お客先にこっぴどく怒られ、

いったんお昼休みをとろうとしてお弁当とろうとしたら

もうなくなってた。

ほかの人にお弁当のありかをたずねたら

「なんか余ったってのでだれかが食べちゃったみたいよ」

「そんな・・・」

朝飯もたべてないのに。

夕飯はでないので作業がおわらないとたべられないし、しかもいつ終わるかわかない。

かなりのエネルギーをいる体力仕事にエネルギー補給がないのはかなりきついものがある。でもしょうがない。

やるしかないんだ。仕事だから。



終わったのは結局10時。

今日は飲み物以外口にしていない

もうふらふらだ。

早く帰ろう。

駅にいきホームで電車を待つ。

そのときふと思う。

やりたくもない仕事をこなす毎日。

学生の頃はもっとなにかに一生懸命取り組んでいたはずなのに

なにかになりたいとおもっていた夢も忘れてしまった。

お金さえもらえれば、いまはいい。そんなのは夢がないのはわかってる。

でも夢にたどり着けるのは一握りだとはいうけど

挑戦すらせずに道を反れて反れて、いま、だれでもできるようなたんたんとした仕事をいやいややっている。

なんなんだろう。もし今だったらもっとちゃんと生きるのに。

人生は。一筆書きの絵を描くようだ。

なにをかくかわからないままとにかく線を走らせ

だんだん書きたいものがわかっていくけど

この線が余分だとか思うようにかけずに

やがててきとうになっていき意味のない絵を描き続ける。

そんなもんだ。人生って。

考え出すとろくな方向にいかない。

考えるのだってエネルギーがいる。

今日はただでさえエネルギー不足だ。

もうなにも考えずに帰ろう。


アナウンスが電車をくることを告げた。

俺は先頭にいるのでもしかしたら席にすわれるかも

今日はじめてのラッキーかもしれない。

ありがたい。

向こうから電車がライトをまぶしく光らせながら来る。

後ろから男子高校生らしき集団がくる。

一人の子がなにかとられていてもうひとりの子がからかっている

くだらないことやってないで返してやれよ。

心の中であきれながらいった。

そんなことやっても何が楽しいんだ。

やっぱり世の中には2種類いるんだ

いじめる人といじめられる人。

どこにたってそうなんだ。

いやになった。

そのとき

とられたほうがむりにとろうとして

俺につよくぶつかった

おれはよろけた

いつもならふんばれたが

エネルギー不足がたたったのか

体のコントロールが効かず

ホームのほうに吸い寄せられていく。

あれっ?もうすぐ電車がくるんじゃないか?

やばくないか?

おれは片足以外は浮いていた。

ここで終わるのか?

悪いことばっかりでおわるのか?

なんなんだよ。

あーあ。

つまんねぇ人生だった。



電車が俺に迫る。

車掌さんと目が合う。

ごめん、迷惑かけて

いろいろ責められて会社いづらくなってやめちゃうんだろうな

この人だって悪いことしてないのに

運の配分ておかしくねぇか?神様。

電車と俺の距離はもう鼻先。

さよなら。




目の前が真っ暗になる。

ん?なにがおきた?

死んだのか?

でも体は動く意識はあるぞ。

どこなんだここは

すると白い囲みがでてくる

そして

どこかできいたメロディ

おれが嫌いなメロディ

たしかこれは・・・・

白い囲みに文字が打たれる


『おきのどくですが ぼうけんのしょは きえてしまいました』

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おきのどくですがぼうけんのしょがきえてしまいました 奥田啓 @iiniku70

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