乗り遅れた女

めらめら

乗り遅れた女

 久々に息子や孫達の顔を見る事ができて嬉しかった。

 おまけに、未だにしぶとく生きている級友たちとの酒席も楽しくて、気がつけば終電を逃してしまった。

 仕方ない、タクシーを拾うとしよう。

 そう思って夜の駅前の『乗り場』を目指して歩いていると……

 女性が一人、道端にポツリ。

 まだ若い。長い黒髪を夜風になびかせて、呆然とした表情で空を仰いでいる。

 私に気がつくと、

「あの……お願いが……」

 そう言いかけて、モジモジとこちらを窺っている。

 ははん。彼女も乗り遅れたクチらしい。

「いいですよ。相乗りで帰りましょう。『家』は一緒ですからな」

 私は快く応じる。いつもより多めに路金を持ってきておいてよかった。

「ありがとうございます」

 ホッとした表情の彼女。だが、

「七日なんてあっという間ですね……パパやママ、あと、あの人の顔を見ていたら……」

 そう寂しげに呟く彼女の目には、涙が一粒。

「大丈夫、またすぐに会いに来られますよ」

 私は彼女に笑いかけた。

 タクシーはすぐに見つかった。

 私と彼女を背中に乗せて、ふわりと空に舞い上がる白鵲。

 とろりとした闇の立ち込めた静かな彼岸の夜の事だ。

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乗り遅れた女 めらめら @meramera

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