是とすべき忠義とは【グリムノーツコラボ】
harito
第一話 潰崩の発芽
───彼は、独りで戦っていた。
否、今は、独りで戦っていた。
城下町のそばで戦っている彼の名はジョナスといい、その城で仕えている。城内では親しみを込めて〈ジョン〉と呼ばれている。
主な仕事は城に住まう王の息子を教育することなのだが、現在は緊急事態に直面しているため、彼のような要職に就いている者も、腕が立てば戦へと駆り出されている。
例外はあるが、基準は槍の武である。
この城、もとい王城、もといこの国では武器に槍を推賞していて、彼も槍盾を繰っている。
彼の槍の扱いは国内で十指に入ろうかというほどで、だからこそ王子の直下に就いているとも言える。
ちなみに、仕える王子は風変わりなことに、剣を得物としている。
槍を推賞する理由。それはひとえに、対人戦に優れているからである。
槍という武器が持つ特長に、リーチが長いことが挙げられる。双方違う武器で戦った時、近接戦闘において有利なのは、技術の差を抜きにすればリーチが長い方といえる。
攻撃を当てさせなければ負けることはない。
距離を取れば攻撃は当たりづらい。
そういった寸法だ。
但し、今は人と化物が争う戦だ。正確には人と人だったものの戦だが、とにかく純粋な人どうしではない。
相手方は複数種類いて、種類毎に
感情がないのか、二倍程いる
何せ、戦法や作戦など皆無だったからだ。
しかし、それも長くは続かなかった。
一際大きな敵が現れてから、戦況は一変した。
初めは、軍に死傷者が出たのかと考えた。よく観察してみて、それが間違いだと気付いた時にはもう遅かった。
軍の者が、突如敵と同じ姿になったのだ。そうかと思えば反対側にもそのような者が出始め、一人、また一人と敵に変わっていった。攻撃も此方にしてくることからも、その者が完全に向こう側についたことが分かった。
そのまま囲まれ、最後の一人までも変化してしまい、ジョンは独り残った。
自分がいつソレになり変わるのかわからない状況で、どうして勇猛果敢に敵に立ち向かっていけようか。
それでも数匹は倒したのだから、彼の腕がどれほどのものか
数匹倒したところでこの攻防は限界を迎え、ジョンの足が衝撃を受けた。体勢が崩れた時、彼は己の死を悟った。
敵の攻撃を、何もできず横目で見ながら、来たるべき死を受け取るために目を
しかし、いつまで経ってもやってこない。気付いていないだけかもしれないが、一瞬くらいは痛みが襲ってきてもいいのではないか。
と、
「っと、危ねっ。着いて早々洗礼を受けるとか。」
「タオ兄、言ってる割には余裕ありますね。」
「でも、この量は流石に危ないと思うよ。」
「新入りさん、タオファミリーを舐めてもらっちゃ困りますよ。まだそんなこともわからないんですか。」
「………」
「冗談ですよ。とりあえず、このヴィラン達をやっつけちゃいますか。」
「
「……ねぇねぇ、ここにいる人って放っておいていいの? せめて安否だけでも…」
ここまで聞いて初めて足音を聞いた。といっても、三つの足音が離れていくだけだが。
「ちょっ…、話聞いてよ、もう!」
この声の主たちが天使だとすれば、こんなにフランクな天使は物珍しいだろう。
どこからともなく現れた彼らに困惑しながら、ジョンはようやく目を開けた。
「あ、よかった。生きてたのね。動かないものだから、手遅れかと思った。……えぇっと、私はレイナ。旅をしている者です。ヴィランに襲われていたみたいだけど、大丈夫?」
「は、はい。なんとか。
レイナさんですか、私はジョナスと申します。危ないところを助けて頂き、ありがとうございます。
ところで、レイナさんは先に行ってしまわれた方々を手助けしなくてよろしいのでしょうか?」
「そうそう。そのことで、見ればジョナスさんは武器もあるようだし、動けるならちょこっと手伝ってもらおうと思うのだけれど…」
「わかりました。お役に立てるかわかりませんが、私も共に戦いましょう。」
「えぇ、ありがとう。じゃあ、」
「はい。参りましょう。」
それからは早かった。
男2人と女2人の集団であったはずなのだが、本に何か挟んでからは姿が変わっている。
今度は人から人へと変わったように見える。目には目を、歯には歯をということかもしれない。
恐らく、本は自らの生涯が書かれている不思議な書、『運命の書』だろう。
それを使って化物を斬り捨てていくが、その技術も
ひょっとすると自分は要らないんじゃないかと思いながら倒していると、近くに二人組が寄ってきた。
高度な連絡を成り立たせながら、かつ会話しながら
そうこうしているうちに、敵の残りは一際大きな化物だけになった。
彼ら四人は、普通サイズの化物をヴィラン、大きなものをメガヴィランと呼んでいたが、そのメガヴィランを倒すのみとなった。
休まずに対メガヴィラン戦に突入した。
四人が集まると戦闘がより効率的になった。連携の面では先の二人組より少しかは劣るが、数が増える分連携は難しくなるものだから、そう考えれば充分といえた。
メガヴィランとの戦いでは、ジョンも流石に闘った。
主に彼らの補助をしていたが、運が良いことに、ジョンが最後の一撃を加えてメガヴィランは沈黙した。
死を乗り越えた。
その感動に彼は震えた。
しかし、別の意味でも彼は震えていた。黒くやるかたない感情が胸中を渦巻いていたからだった。
それ即ち、仲間を
短い間だけでも仲間であった。
見知った顔の者も少なからずいた。
敵に成ったとはいえ、一日でも同じ釜の飯を食べた間柄の彼らに一切の情を抱かないわけがない。
じゃあどうすればよかったのか。
奇跡的に自分だけが生き残った。
あの四人組のおかげで。直近の死を免れて。
それとも、腑甲斐無い自分に与えられた死を選ぶべきだったか。
負の感情を
「…たの? どうしたの? すっごいひどい顔色をしてるけど。」
思考から抜け出すための手を差し伸べた少女がいた。
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