ジョン・マクドナルド Story 3 - 僕の話

苺原 永

第1話 ジョンの誕生

ケビンとミミの間に授かった子供は1970年の春に誕生しました。エイドリアンじいさんとクリスティーナにとっても、ミミの両親にとっても初孫でした。特に、その2年前にスモール・マックを病気で失っていたエイドリアンじいさんにとっては最高の贈り物となりました。洋の東西を問わず、初孫は可愛いと決まっている様で、ケビンとミミに遠慮がちにではありますが、溺愛をしました。しかし、エイドリアンじいさんもクリスティーナばあさんも若い頃は、決して裕福な家族で育った訳でもなく、また、恐慌や戦争を経験していますので、決してなんでも買い与える「甘い」祖父母ではありませんでした。時には厳しく、臀部を強く叩いてしつける事もありました。特にクリスティーナばあさんは昔の苦労と、父親のケビンを育てた経験から厳しかったのです。ケビンもミミも決して子供を必要以上に愛するタイプではなく、愛情を注ぎながらも厳しく育てました。

お陰でジョンは身体的には強いものの、心優しい子供に成長して行きました。エイドリアンじいさんの影響が大きかったのですが、動物が大好きでクリスティーナばあさんや母親のミミが決して側に寄らなかった爬虫類も飼っていました。しかし、スポーツ一家のマクドナルド家の一員として当然スポーツには目がありませんでした。エイドリアンじいさんもケビン父さんも勿論、自分がスポーツを経験していますので、ジョンがやろうというスポーツはなんでも付き合ってやりました。ジョンはバスケットボールも好きでしたが、エイドリアンじいさんが好きな野球も好きでした。家には当然、バットやグローブが揃っていましたし、近所の子供達は殆どが野球専門だったせいもあって、野球をする事が多かったのです。

3歳頃のジョンはありとあらゆる物に興味を示し、壊せる物は殆ど壊し、訳のわからない物を創造しました。ミミ母さんは、子供の成長をどの様にすべきかでケビン父さんとよく話し合いました。勿論、小さい子のする事ですが、無下に止めたり、逆に物事を強いたりする事もありませんでした。そのお陰で、ジョンは好きな事を好きな様に出来ました。しかし、大切な事ではミミやケビンはいつも話をしてくれました。例えば、バットは野球のボールを打つ物で、決して物を壊す道具ではない事も「目」を見て教えられました。また、野球のボールをバットで打っても、そのボールは家に向かって飛ばすのではなく、広いフィールドで打つ物である事を教えられました。アトランタ・ブレーブスのハンク・アーロンはこの年ベーブ・ルースの714本のホームラン記録を抜きました。(ハンク・アーロンは生涯で755本のホームランを打っています。後の2007年に、バリー・ボンズに抜かれています。)「ジョン、ハンク・アーロンはバットでホームランになるボールをかっ飛ばして世界でいま、一番の記録を作った。ハンクのスウィングを観てご覧。体の回転とバットの出方、さらに、「目」。でボールを見る姿勢。これが本当のバットやの使い方だよ。ハンクのあだ名はハマー(ハンマー)だけれど、決してボール以外の物をバットでは打たないよ。だから、ジョンも広いフィールドでボールをかっとばす事はいいけど、丸いからといって決してママの毛糸玉を打ってはいけないよ!」、と、云う具合です。

両親の温かくゆき届いた教育や躾(しつけ)のお陰で、暴力的で無茶な性格が治り、むしろ、優しい子に育って行きました。時々、奇想天外な事をする子でもありました。例えば、ボールやバット、グローブ、ユニフォーム、シューズなどを庭に置いてあるプールに全て浮かべて観ているのです。ミミが発見して叱りましたが、その話を聞いたケビン父さんが何故、そんな事をするのか話をする必要がありました。本人は物体が水を吸収する研究したかったのです。さらに、叱られたあと水に浮かべた全ての物を最近買ったばかりの全自動洗濯機に入れて乾かそうとしたので、ミミ母さんが慌てたのも無理はありません。ミミ母さんにすれば、オイルショック(ニクソンショックとも呼ばれる)の直後だったので、余計に慌てたのでしょう。しかし、両親は話し合い、大人にとっては馬鹿げたことでも、3歳児にとっては真面目な「研究・実験」。である事を認めてあげました。その代わり、全てのずぶ濡れの野球用品を並べて外に干し、全てが乾くまで野球をさせませんでした。ジョンには、毎朝、何が乾いていて、何がまだ湿っているか報告させました。ユニフォームや帽子はすぐに乾きましたが、ボールとグローブは1週間かかりました。しかも、以前と比べて「ゴワゴワ」で使いにくい道具となってしまいました。ジョンの研究はジョンにとって有意義な物となりました。雨の時の道具は重くなりプレーに支障が生まれることも学んだのです。また、道具を大切にすることも学んだのでした。

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