第2話

「じゃあ、行こうか」


早速小学校へ歩きだそうとする悟仙の背中に少女の声が掛けられた。


「でも、がっこうでしらないひとについていったらダメってせんせいがいってたよ」


「そうきたか……」


近頃の子供に対する教育が行き届いている状況に感心するが、思わず落胆の声を漏らしてしまう。


「えーと、由衣ちゃん本当に今頃だけどさ俺の名前は陸奥悟仙って言うんだ」


本当に今頃だなと思いながらもそう言うと由衣は難しい顔をしながら反芻する


「むつ ごせん?」


「ああ、好きに呼んでもらってかまわない」


由衣はしばらく首を捻って考えていたが、何か思いついたように顔を上げる。


「じゃあ、むっちゃん!」


「なんだそりゃ」


その奇抜なネーミングセンスに一言いってやりたかったが、目をキラキラさせて何か期待してるような由衣を見てると何も言う気分にならなかった。


「まーそれでいい」


そう言いながら何とかしてこの小さなお嬢さんを小学校に連れて行く手段を考える。


「えーとさ、俺と由衣ちゃんはもうお互いの名前を知ってるだろ?それってさ俺と由衣ちゃんはもう知り合いだってことだろう?」


いくら何でもそれはないだろと思いながらも、日頃よりいくらか柔らかい口調で言ってみる。


「うん、そうだねむっちゃん!」


その名前、気に入ったんだな。


「それに、さっきも言ったけどさ、俺が由衣ちゃんを小学校に連れて行くわけじゃなくて、由衣ちゃんが俺を小学校に連れて行ってくれるんだろう?

それってさ困ってる俺を由衣ちゃんが助けるってことにならない?」


これで納得してくれと願いながら由衣の表情を伺っていると由衣はその小さな背中を誇らしげにらせた。


「そうだね、わかったよ!まったくむっちゃんはしょうがないひとだなー」


得意顔で由衣は言った。


その態度に思わず顔が引きつってしまうが、納得してくれたようなので、何も言わないことにする。


「じゃあ、行こうか。道はあっちで合ってるよね?」


仕返しとばかりに尋ねると


「そ、そうだよ。」


由衣は若干言葉に詰まりながらも答えるのであった。




☆☆☆



由衣はあの後、悟仙が小学校の場所を知っているんじゃないかと不思議に思いながらも隣に並んで歩いた。日頃の学校生活のことや年の離れた優しい姉のことなどを話していると、あっという間に小学校に着いてしまった。

校庭を見回してみると一緒に遊んでいた友達の姿があった。


「おーい、みんなー」


由衣が大きく手を振ると皆も手を振り返してくる。

すぐに皆の所に駆け出そうと思った。しかし、悟仙のことを思い出して振り返る。そういえば、あの眠たそうな目をした少年は小学校なんかに何の用があったのだろう。


「ねぇ、むっちゃんって、あれ?」


しかし、そこにはさっきまでいた少年の姿はなかった。

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