XXXの仮想化輪廻

青波零也

Opening

Layer_???/ Judgement

 ぐらり、と足元が揺れる感覚。

 意識とは無関係に脳内に広がっていく、圧倒的な情報の渦。ばらばらに散らばっていた意味を成さない断章が、怒涛のごとく押し迫る記録に翻弄されながらも、一つ一つ関連性の糸で結ばれ、巨大なかたちとして浮かび上がってくる。

 終わりを迎えつつあったモノトーンの世界。空に向かって聳える白磁の塔。僕の名を呼ぶ誰かの声。

 僕は……。そうだ、僕は。

「思い、出した……」

 いや、これは果たして「思い出した」と言っていいのだろうか。

 これは何だ? 僕はどうしてここにいる? 一体何のためにここまで駆けてきた? 僕が欲しかったのは本当に「これ」だったのか?

 混乱は一瞬のことで、今はいつになく整然とした意識を取り戻していた。皮肉なことに、混乱し続けていることも、今の僕には許されないらしい。

 床も壁も、天井すらも淡く輝く幻想的な世界で、目の前に立つ白衣の女性が、顔を上げた僕に向かって艶やかに笑う。ああ、この人のことも知っている。僕が残してきた記録の中には、彼女の名前が出てきていたはずだ。

「全てを思い出した今なら、もうわかるでしょう。ここが『何』であるのか」

 鼓膜を通して体の内側に響き渡る声。僕と同じく人に「聞かせる」ことに特化した声。その甘い音色が僕の脳髄を浸食する前に、感情と理性を切り離す。

「ええ、わかりました。嫌というほどに」

 言って、軍服のベルトに収めていた銃を抜く。厳密に計算されつくしたこの空間において、設定に縛られた銃という武器が、どれほど有効なのかはわからない。それでも、握り慣れたグリップの感触を確かめて、まっすぐに構えると、自然と頬が緩む。

 白衣の女性が息を呑むと同時に、頭上から僕を呼ぶ声がする。天の声。僕をここまで導いてくれた、取り戻した記憶の中にもなかった、不思議な女の子の声。

 ――ごめんなさい。そう、口の中で呟く。

 謝ったところで許されるものではない以上、彼女には届かない方がいい。

 ただ、これがどんなに彼女に対する裏切りであろうとも、何もかもを思い出してしまった以上、ここで僕がすべきことは、ただ一つ。

「だけど、僕は」

 冷たい銃口を、僕自身のこめかみへ。

「都合のいい奇跡なんて、望まない」

 そして、引鉄を。

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