ドラゴン・イーター・フェイト
キール・アーカーシャ
第1話
ドラゴン・イーター・フェイト シナリオ
第一話
宇宙ステーションからは一人の宇宙飛行士が真空中を漂っていた。その者の背には特殊な探知機が備え付けられており、それは今、激しく反応を示していた。
その宇宙飛行士の前には、ありえない存在が居た。
竜・・・・・・巨大な美しき黒銀(くろがね)の竜。
だが、その壮麗な体は傷つき、その命は尽きるかに見えた。
そんな竜に対し、宇宙飛行士は臆する事なく、慈愛と共に両手を差し伸べた。
そして・・・・・・世界は変わった。
大規模な戦争。大規模な暴走。
それは宇宙空間からも見て取れる程であった。
だが、その時にその宇宙飛行士は空には居ない。
その者は重力の底における渦中のただ中に居たのだから。
《未知との邂逅(かいこう)。
それは人類にとり
福音となるか、
災厄と化すか。
だが、それにより
彼らは生まれたのだ。
そう、新人類、
超能力者達が・・・・・・》
『ドラゴン・イーター・フェイト』
一人の黒髪の少年が沿岸都市のトーイ市を歩いていた。
少年はクールに雑踏(ざっとう)を進んでいた。
その雑踏で、少年は《声》を聞かされていた。
本当は聞きたくもないのだが、ある目的の為、感覚(センス)を高める必要があり、その代償として他者の心の声が聞こえてしまうのだ。
もっとも、その声は雑音まみれであり、しかも周囲の波動に影響されるから正しいかどうかも分からない。
なので、少年は適当に聞き流していた。
そもそも、少年は他者の心の声など聞きたくないのだ。
《あいつ、最低》
《はぁ、仕事、仕事・・・・・・》
などと通り過ぎる通行人の心が聞こえてしまう。
さらに、《ちょっと、かっこいいかも?》などという女性の心の声が自分に向けられるのを感じるも、少年は無視した。
多分、目が悪いのだろう、と少年は考えた。
すると、店頭のテレビでニュースが流れて居た。
『本日、正午過ぎ、我らが偉大なる聖王アドニス陛下が・・・・・・』
アドニスという名を耳にし、フェイトは心がざわつくのを感じた。しかし、感情を抑え、その場を通り過ぎようとしていく。
隣のビルの上方には巨大なスクリーンが映し出されており、そこではサングラスを掛けた有名芸人が音楽番組の司会をしていた。
『では、次の曲はネットでも今話題の人気歌手サイカさんによるドラゴン・イーターです』
次の瞬間、画面には長髪の女性の口元が映し出された。
フェイトは興味なさげに前を向いて歩き続けたが、流れ出したメロディーを聴き、口ずさんだ。
『ドラゴン、ドラゴン、僕たちは、ドラゴン、ドラゴン、生きている・・・・・・・』
と。
すると、銀髪長身の男が前から歩いて来た。いや、厳密には一般人にはその髪は銀髪では無く金髪にしか見えないのだが、フェイトにはまざまざとその銀髪が視認できた。
立ち止まるフェイト。
同じく立ち止まる銀髪の男。
二人は背を向けたまま棒状の武器サイコ・ブレードを起動させた。
《フォン》という音が重なり、それぞれの武具に光刃が生まれる。
次の瞬間、二人は光の刃を打ち付け合い、共鳴が発した。
今、世界の運命は大きく変換し、不確定領域が拡大し、その運命線は散らばっていく。
《キーン、コーン、カーン、コーン》
と、朝のチャイムが鳴る。
そこは『私立トーイ・超能力者養成学院』という何世紀も前なら考えられなかった教育機関だった。
しかし、超能力者が実在し、大きな力を持ってしまったこの惑星においては、それを教育・管理する機関が必要となっていた。その一つがトーイ学院であり、今まさに一人の女子生徒が息を切らしながら走っていた。
その整った顔立ちのグラマラスな女子生徒はセミロングの茶髪をポニーテイルのように束ねており、それが走る度に揺れていた。
「はぁ、はぁ、遅刻、遅刻ーーーーッ!
そして、校門を通り過ぎると守衛さんが挨拶してくれた。
「おはよう、エミリアさん」
「はっ、はい。おはようございます!」
と、元気よく答え、その女子生徒エミリアは通り過ぎていった。
エミリア「やばい、やばい、遅れちゃう、わーん」
そして、エミリアは校舎へと駆けて行くのだった。
教室でエミリアは疲労のあまり机に突っ伏していた。
エミリア「・・・・・・」
それに隣の席のハーフの金髪美少女リオが声を掛けた。
彼女はエミリアの親友でもあった。
リオ「エミリア、大丈夫?」
エミリア「だいじょうぶだけど疲れた・・・・・・。
でも、授業には間に合って良かった」
と、ホッとしていた。
リオ「いつも、ギリギリなんだから、もー」
そうリオは時計を指差しながら、たしなめるのだった。
しかし、エミリアは「えへへ」と答えるだけで、悪びれる所が無かった。
すると、扉が開かれ、メガネを掛けた温和な印象を与える長身の男性が入って来た。
先生「はいー、皆さん、着席して下さい」
エミリア「あっ、先生」
先生「はい。では本日の対ヴァンパイア学Aの授業を始めましょう」
教壇の前で先生は告げるのだった。
先生「であるから、しまして・・・・・・」
このメガネの先生は良い人であり、教師としても優れていた。
真面目に板書をノートに写しているエミリアであったが、どうにも隣からカリカリと音が聞こえてきた。
エミリア(何の音?)
奇妙に思って右隣を見てみると、そこには黒髪の男子生徒が居た。
エミリア(隣の席のフェイト君?
ペンの音か・・・・・・。
何を書いてるんだろう?)
そして、エミリアは覗いて見た。
すると、そこにはアニメの絵コンテらしきものが置かれていた。(教科書が立て掛けられて、先生からは見えないようになっている。まぁ、先生も気づいて放置している節があるが)
アニメ『モモンガ・モモ』PV、とか書かれている。
中では小動物のモモンガが荒廃した都市を孤独に飛んでいる姿が描かれていた。
素人らしい感じではあったが、それなりにしっかりしている印象を与えた。
エミリア(って、絵コンテかい!っていうか、モモンガ何気に可愛いし・・・・・・)
と、心の中で突っ込むエミリアであった。
エミリア(こやつ、アニメーター志望か。
しかも、良い表情して書いてるし)
エミリアの記憶にあるフェイトと言えば、いつも眠そうにしているか、寝ているか、面倒くさそうにノートをとってるかの印象しか無かった。
エミリア(というか、最前列でよくやるわ・・・・・・)
まじまじと隣のフェイトを観察するエミリア。
その時、前方から声が掛けられた。
先生「こらー、エミリアさん。あまり堂々とよそ見をしないで下さい」
エミリア「ヒィ!」
思わずビクッとするエミリア。
エミリア「アワワ。す、すみません、先生」
すると、素直に謝ったエミリアに、先生は微笑みを浮かべた。
先生「では、名誉挽回。次の問題に答えてくださいな」
エミリア「は、はい」
先生「そもそも皆さん超能力者(サイキッカー)達は、恐るべきヴァンパイアと戦う事を目的に訓練を受けるわけですね」
それは事実であったが事実でなかった。
実際の所、生徒達は軍隊の予備軍として育成されている側面もあり、学院を卒業した後に直接軍隊に入る者も居れば、そうでなくて、一年の定められた日数を超能力訓練して民間人としての生活をしながら予備の軍隊として控えているのが普通だった。
すなわち、対ヴァンパイアでは無く、対人も想定されているのである。
だが、超能力者を国家間戦争の道具にするのは人道的な問題もあり、表向きは人類共通の敵ヴァンパイアに対抗する為に、必要悪として超能力者を育成しているのが各国政府の建前である。
ただ、この先生に関して言えば、そのような現実を知った上で、少しでも生徒達が幸せに暮らしていけるように苦心しているのである。
先生「では、ヴァンパイア・・・・・・奴らは戦闘でいかなる武器を使いますか?」
エミリア「えっと・・・・・・。
一部の老年種を除き、一般的にヴァンパイアは武器を使用しません」
厳密に言えば、ヴァンパイアは武器を使用しないが、その血
を自在に操り、血の武具を形成した。それはヴァンパイアの原
型である特殊兵に埋め込まれたナノ・マシンの作用でもあり、
それは一世紀を越えた後も変わらなかった。
ともあれ、褒めて育てるタイプである先生はニッコリ笑顔を
見せた。
先生「はい、その通りですね、エミリアさん。
正解です。グッジョブ」
エミリア「やったぁ♪」
そして、先生は血の武具の説明や、大剣を好んで用いたヴァンパイアのオデロ将軍(彼はヴァンパイアの王ナイト・イン・ゲイズの信奉者であり、人間の神々に対する不信心者であり、恐れを知らず大聖堂を破壊し、教王と聖職者達を炎の渦に追いこんだ)の説明をしようとしたが、偶然にも遮(さえぎ)られてしまった。
フェイト「でも、ちょっと違うんだよなぁ」
エミリア「へ?」
フェイト「最近の若年種は変わり種が多いみたいで、中には
サイコ・ブレード(特殊剣)を使う奴も居る」
この発言をエミリアは看過(かんか)できなかった。
エミリア「う、嘘よ。サイコ・ブレードを使えるヴァンパイアなんて居ないはず」
フェイト「んな事、言われても・・・・・・」
困るフェイトであったが、思わぬ助け船が後ろから来た。
男子生徒A「とはいえ、そんな話どっかで聞いたな」
男子戦とB「ああ。俺の父さんの知り合いの知り合いも、見たって言うぞ」
エミリア「へ?」
戸惑うエミリア。対し、フェイトは男子生徒達の言葉に笑顔を見せた。
フェイト「だよなぁ」
男子生徒B「ああ」
男子生徒A「おうぜ」
これにエミリアは少しふてくされた。
エミリア「で、でも・・・・・・そんなの都市伝説の類(たぐ)いじゃ・・・・・・」
すると、妙に真剣な面持ちでフェイトは答えた。
フェイト「ヴァンパイアだって、元々は空想の産物だって言われてきたんだ。
あんまり固定観念に捕らわれすぎると、
いざって時に斬り殺されるぞ」
エミリア「な。なによ・・・・・・。
大体、ネットとかで拾ってきた噂話でしょ。
あほらし」
フェイト「お、お前なぁ。普段温厚な俺でも、『怒り狂うモモンガ』と化すぞ」
エミリア「そんなの全然、恐くないですから」
フェイト「なにぃ」
そして、二人は口ゲンカを始めた。
これには先生も困ってしまった。
先生「おーい、二人とも落ち着いて・・・・・・。
クール・ダウン」
すると、フェイトとエミリアは同時に先生の方を向き直って
言った。
『どうして、これが落ち着いてられますか!』
仲良くハモッてしまった二人である。
対して、先生はさらに困ってしまった。
先生「う、うん・・・・・・そうだね・・・・・・」
そして、エミリア達は再び口論を始めた。
エミリア「ていうか、あんたは絵コンテ書いてりゃいいのよ!
フェイト「って、見やがったのか、このノゾキ魔!」
エミリア「別に見たくて見たわけじゃないわよ!」
終わらぬ口論に、先生も焦りを見せた。
先生「あ、あのね。授業、進めていいかな・・・・・・?」
そう恐る恐る言うのだが、次の瞬間、『キーン・コーン・カー
ン・コーン』とチャイムが鳴ってしまい、
先生「あ」
と、口をポカンと開けるのだった。
2限『剣技』
体育館に場は移る。
そこではフェイトとエミリアを含め、生徒達が剣技の授業を受けんとしていた。
エミリア「よーし、剣技の授業だ。今日も頑張るぞー!」
と、元気に腕をグッとした。
リオ「エミリアはほんとに体育の授業が好きだね」
エミリア「え、だって、これが私達超能力者の醍醐味じゃないの?」
リオ「まぁねぇ」
そうリオは答えるのだった。
すると、筋骨隆々の体育教師が生徒達に声を掛けた。
体育教師「よーし。じゃあ、授業を始めよう。整列!」
エミリア「あっ、はい」
そして、エミリア達は整列を開始した。
体育教師「さて、超能力者の青少年・少女諸君。君達には
対ヴァンパイア用の特殊剣を学んで貰う。
そして、これこそが特殊剣サイコ・ブレードだ」
と、模擬剣ではあるが、一つの柄のような武器を見せた。
刹那、そこから光がほとばしり、光の刃が瞬時に収束した。
体育教師「強力なヴァンパイアを倒すには、このサイコ・ブレードで、まぁこれは模造刀ではあるが、これを使い、
一刀両断するか、
突き殺すしかない」
と、サイコ・ブレードを振り下ろし、突き出し、示してみせ
た。もっとも、実際はサイコ・ブレードを使わずとも超能力で
ヴァンパイアを殺す事は出来るが、なかなか大変であり、少な
くともエミリア達のような未熟な超能力者がヴァンパイアを倒
すにはサイコ・ブレードを使うしか無いだろう。
もっとも、今は治安が安定しており、エミリア達のような学
生がヴァンパイアと対峙する事はまず無いと言えた。
体育教師「さぁ、では素振り始め!」
生徒達「はい!」
こうして、生徒達は基礎練を始め出した。
エミリア「いっち、に。いっち、に」
と、エミリアはサイコ・ブレードを振り上げ、降ろした。
普通の剣や竹刀と違ってサイコ・ブレードは光刃の所に重さが無いので、素人が振るとへっぴり腰になってしまうが、エミリアは綺麗に重心移動を含めて振れていた。
しかも、サイコ・ブレードの光はエミリアのサイコ・パワーでほぼ均一に収束していた。この収束がサイコ・ブレードの要であり、一般人がサイコ・ブレードを起動させても、ロクに物を斬る事は出来ない。せいぜい、軽い火傷を負わせる事が可能なくらいだ。だが、超能力者がその光を収束制御すると、とたんに分子間の結合すら容易に断ち切るような刃が生まれるのだった。
特に上位の使い手となれば、原子間の結合すら切断する。
エミリアは未だ中位の使い手と言えたが、この若さでは大したものであろう。
体育教師「よーし、エミリア。上手に振れているぞ」
エミリア「あっ、はい。ありがとうございます」
この体育教師は収束制御の技術以上に、純粋な剣技を重視しており、エミリアは筋が良く、剣の型を素直に習得しつつあった。
一方、少し離れた所ではフェイトがへっぴり腰で、腕だけでサイコ・ブレードを振っていた。
フェイト「ういっち、に。ういっち、に」
体育教師「こらッ!なんだ、フェイト。そのへっぴり腰は!」
フェイト「え?す、すいません」
ドヨーンとするフェイトに、さらなる追い打ちが掛かる。
体育教師「素振り二百回追加だ、フェイト」
フェイト「は、はい・・・・・・」
そんな様子をエミリアは少しムッとしながら見ていた。
エミリア(全く何よ、あいつ。普段はチャラチャラしてる癖に)
すると、フェイトの隣で素振りしている金髪で小柄の男子生徒クルスがフェイトに声を掛けた。
クルス「災難だったな」
フェイト「マジな・・・・・・」
と、落ちこぼれ生徒二人は小声で囁き合った。
しかし、この二人こそが、後に世界の覇権を揺るがす程の超能力の使い手となるのである。今は同じ道を歩み、いずれ真逆の道を歩む二人。その短くも掛け替えのない日々は、怠惰の中にあっても輝いて居た。
もっとも、体育教師からすれば、そんな事情など知った事ではなかったが。
体育教師「こらっ!何、無駄口、叩いてる」
フェイト+クルス「すいません・・・・・・」
体育教師「二人とも百回追加!」
フェイト+クルス「ゲッ!」
そして、そうこうして下校時間となった。
リオ「じゃあね、エミリア」
帰り道の分岐路で、そう言いリオは分かれていった。
エミリア「うん、また明日」
そして、エミリアは少し考えこんだ。
エミリア「うーん。
そうだ。今日は天気も良いし、展望台に行こう」
と、閃くのだった。
展望台にて。
そこからは浮遊機関を搭載した浮遊船が、港から引き上げた貨物を全国に運んでいく光景が見えた。
これにより輸送の効率も格段に上がったのだが、墜落事故も少なからず発生しており、未だに賛否両論と言えたが、資本主義の悲しき常か完全な規制は難しかった。
さて、そんな見晴らしの良い展望台に、エミリアは来ていた。
ここはエミリアのお気に入りスポットの一つだった。
エミリア(・・・・・・と思ったんだけど)
彼女の視線の先には一人の少年が居た。
エミリア「なんで、あんたここに居んのよ!」
フェイト「ん?」
振り返ったのは、例のフェイトである。
すると、フェイトも困惑した表情を浮かべた。
フェイト「お、お前はノゾキ魔!?」
エミリア「誰がノゾキ魔じゃ!」
怒るエミリアである。
フェイト「大体、何の用だよ。せっかく、これから景色を楽しもうと思ったのにさ」
エミリア「それはこっちの台詞(せりふ)よ!」
フェイト「ま、まさかストーカー?」
青ざめるフェイト。
エミリア「ちっがーう!」
そして、息と感情を整えたエミリアは尋ねた。
エミリア「ていうか、ここよく来るの?」
フェイト「別に・・・・・・。
ただ、参考になるかなって」
そう告げる横顔は背後の青空に映(は)えていた。
エミリア「参考?アニメの?」
フェイト「まぁね」
と、フェイトは笑顔で答えた。
しかし、すぐにいつものムスッとした顔に戻った。
フェイト「どーせ、馬鹿にするんだろ?」
エミリア「ううん、そんな事ないよ。
夢があるっていいね」
そのエミリアの純粋な笑顔に、思わずフェイトは言葉を詰まらせてしまった。
すると、二人の青春を嘲笑うかに『パチパチ』と拍手が鳴った。
「しっかし」
影が歪(いびつ)に形作られる。
「中々、甘酸っぱい青春じゃねぇか、おい」
現れたのは銀髪長身の男。
フェイト「お前は!」
エミリア「だ、誰?」
フェイト「昨日、いきなり襲ってきた・・・・・・」
銀髪の男「ヴァンパイアさ」
と、代わりに答え、銀髪の男はサイコ・ブレードを起動させた。《フォン》という独特の音と共に、そこには光の刃が確かに幽出していた。
エミリア「う、嘘でしょ・・・・・・」
内心、エミリアは激しく動揺していた。
エミリア(ヴァ、ヴァンパイア?襲ってきたって?
っていうか、サイコ・ブレード持ってるし)
一方、フェイトは冷静に自身のサイコ・ブレードを起動していた。フェイトは周囲に見えざる結界が張られているのを感じた。これが張られると、電波や波動などが遮断(素通り)され、存在してないかのような隠蔽の作用が発生するのだった。
フェイト「お前・・・・・・何が目的だ?」
ヴァンパイア「目的?我慢ならねぇ程に濃い超能力者の匂いがしやがったからな。狩らなきゃいけなーだろうが」
昨日は警察機構が来たので、戦いは引き分けに持ち込まれた
が、フェイトは今日は決着がつく《予感》を確かに感じた。
次の瞬間、ヴァンパイは地を蹴り、姿を消した。
フェイト「ッ!」
エミリア「?」
何とか眼で追えたフェイトと違い、エミリアは完全にヴァン
パイアの姿を見失っていた。
ヴァンパイアは影のように余剰次元を利用して、フェイト達
の少し離れた後ろに回り込んでおり、さらにクルリと振り返っ
た。
ヴァンパイア「さて。昨日の続きを始めようか」
フェイト「望む所だ」
サイコ・ブレードを構え、ヴァンパイアへと進むフェイト。
その後ろをエミリアは何故か付いていってしまった。
だが、それこそが運命の転換点とも言えた。
3人が立つのは展望台に仮設されている工事中の浮遊船であった。本来ならば閉鎖されている筈であったが、何故か浮遊船は起動しているようにも見えた。
ヴァンパイアはニヤリと笑みを見せながら、浮遊船の制御ロボットに小銭を入れた。
ヴァンパイア「では地獄の遊覧の始まりだ」
すると、制御ロボットは合成音で告げた。
ロボット『浮遊船、発進いたします』
次の瞬間、浮遊船は展望台から離れ、空中を進み出した。
本来ならば、その航路は一定の軌道を進むのだが、ヴァンパイアの影響かバグが発生しており、通常では無い航路を進んで居た。
エミリア「ちょ、ちょっと!これって、動くの?まだ、工事中じゃ?」
合成結界が作動しており、風の影響が無く、エミリアは夢でも見ている心地で尋ねた。
フェイト「っていうか、なんで付いてきてるんだ!」
冷や汗を搔くフェイト。
自分一人ならば戦闘に問題は無いが、一般人に毛が生えたようなエミリアを守りながら戦える自身が彼には無かった。
エミリア「だ、だって・・・・・・」
フェイト「と、ともかく、俺の後ろに居てくれ」
エミリア「わ、分かった」
そんな二人の会話に飽きたのか、ヴァンパイアは猛然と攻撃を開始した。
ヴァンパイアのサイコ・ブレードを何とか受けるフェイト。
逆にフェイトはヴァンパイアの剣を弾き、さらに一撃を加えんとするも、鮮やかに避けられた。
一瞬で数合も打ち付け合う二人。
サイコ・ブレード同士が強烈にぶつかった事により、周囲にはサイコ・エナジーの破片が花びらのように散っていった。
その様をエミリアは唖然と見ている事しか出来なかった。
しかし、エミリアの意識は現実に引き戻された。
目前に塔が迫っている。
エミリア「っていうか、ぶつかるッッッ!」
だが、ヴァンパイアとフェイトはそれを気にする余裕が無かった。
二人は次々に斬り合っていく。
そんな中、浮遊船は制御ロボットの操縦により、巨大な塔に空いた真ん中の空間を進み、そこを間一髪、通り過ぎていった。
一方、フェイト達の戦いは一つの佳境を迎えており、半空中よりフェイトは剣撃を繰り出しており、大してヴァンパイアも突きを同時に放っていた。
腰をかかめて避けたヴァンパイアは、下からフェイトを襲わんとした。その突きはフェイトの頬をかすめる。
だが、その刹那、フェイトの瞳が半ば覚醒した。
その瞳からは運命線が出で、新たな運命を紡ぎださんとした。
神速でサイコ・ブレードを振るフェイト。
とっさに後ろにかわすヴァンパイアは、思わずさらに後ろへと退(ひ)いた。
だが、その鼻先を刃はかすめており・・・・・・。
ヴァンパイアが自らの鼻筋に触れると、そこには空気に触れて黒く変色した血が手に付いていた。
ヴァンパイア「・・・・・・チッ、だせー傷、負(お)っちまったなぁ。
オイッ!」
激昂(げっこう)するヴァンパイアに対して、フェイトはつとめて冷静であり、呼吸と思考を整えていた。
見れば、すでにヴァンパイアの鼻筋の傷は血が止まっていた。
フェイト(やはり、あの程度の傷は再生してしまうか。
となると、方法は一つ。
奴の心臓を貫く他ない)
ヴァンパイア(とか、思ってやがるんだろうが、そうは問屋がおろさねぇ。お前にとっちゃ残念な事に俺には心臓が二つある。そして、二つ同時に機能停止しないと俺は死なねぇ。
つまり・・・・・・。
並の一刀流じゃ俺を貫き殺せねーんだよ、
ガキが)
と、ヴァンパイアはサイコ・ブレードを構えるのだった。
一方、フェイトの思考は、その少し上を行っていた。
フェイト(なんて、油断していてくれてると助かるんだけどな。
とはいえ、奴に心臓が二つある確率は、奴を見るに経験上90%くらいだけど。
しかし、となると。
アレを使うしか無いか)
そして、フェイトは自身の掌に浮かんだ刻印を見つめた
いつの間にか、二人の戦いの余波か、浮遊船を覆っていた合成結界は失われつつあり、風が吹きだしていた。
フェイト(いずれにせよ)
ヴァンパイア(どちらにせよ)
二人は同時に結論した。
《剣で勝てば問題ない》
次の瞬間、二人は同時に前に躍り出た。そして、ヴァンパイアは突如として跳び上がった。
前方から空中に半固定されている浮遊台が迫り、それを足場にヴァンパイアはトリッキーに上から攻撃するも、予測していたフェイトは易々と防いだ。
そんな戦い。
そんな超常の頂上の戦いをまざまざと見せつけられ、エミリアは少なからぬショックを受けていた。
エミリア「な、何なのよ・・・・・・この戦い。
それにフェイト君。
あんなの、あんな戦い・・・・・・、
学生の範疇を超えてるよ」
呟くエミリアの横を浮遊台が通り過ぎていく。
一方、ヴァンパイアとフェイトは鍔迫(つばぜ)り合(あ)いに近い形で刃を重ねていた。
ヴァンパイア「どーした?動きが鈍ってきたじゃねぇか」
フェイト「体力バカにも困ったもんだ」
減らず口を叩くフェイトであったが、確かに疲れが表に出始めていた。
ヴァンパイア「誰が体力バカだッ!」
フェイト「お前以外の誰が居るッ!」
と、半ば念話のようになりながら、二人は高速移動しながら剣を打ち付け合いながら会話していった。
だが、互いの剣が弾かれ、突如としてヴァンパイアの姿が影のように消えた。
フェイトは眼を凝(こ)らし、左だと確信した。
刹那、余剰空間から舞い戻ったヴァンパイアが突如として出現し、剣を振り下ろした。
対し、フェイトは予測していた為、それを受けるも、力の差か弾かれた。
後ろに跳ばされる形のフェイト。それを追うヴァンパイア。
その時、フェイトは浮遊台の端に来てしまい、逃げ場が無くなった。
ヴァンパイア(殺(と)った!)
心の内で確信し、トドメの一撃を与えようとヴァンパイアはするも、その一撃は器用に下に避けられた。
フェイトは避けた勢いと戻らんとする反動を利用して、蹴りをヴァンパイアの顎(あご)にお見舞いした。
フェイト「よっと」
軽やかに身を戻すフェイトと、頭への衝撃で一瞬硬直したヴァンパイア。
ヴァンパイア「器用な真似しやがる。曲芸師か?」
フェイト「あいにく、サーカスした記憶は無いな」
ヴァンパイア「しかし、お前の曲芸にも飽きてきた」
フェイト「楽しませるつもりは無いからな」
ヴァンパイア「それで俺は考えた。
この戦いを・・・・・・てっとり早く、
終わらせよう」
その言葉と共に、ヴァンパイアは己(おの)がサイコ・ブレードを浮遊船の床に突き立てた。
刹那、運命は転換し、そこから大量の運命線が発生し出した。
ロボット『システム異常発生、異常発生』
と、合成音の警告が発された。
エミリア「う、嘘でしょ?!」
ロボット『水平を保てません。ご注意を』
エミリア「ええッ?」
そして、予告どおりに、浮遊台は空中で傾きだした。
斜めの空間において、ヴァンパイアは嬉しげに告げた。
ヴァンパイア「ははっ。楽しくなってきやがった!」
フェイト「どこがだッ!」
そんな中、それでも二人は刃をぶつけ合った。
浮遊船は制御を失い、斜めに墜落していく。
それを見て、地上の通行人達は「ヒエッ」と危機を感じ、必死に避けようとしていった。
通行人「に、逃げろーーーーーー!」
わずかな時間の後、浮遊船は人のほとんど居ない道路に激突した。
エミリア「キャアアアアアッッッ!」
そして、エミリアの意識は途切れた。
周囲は煙で満ちていた。
何故か、救急車や消防車は来る気配が無い。
そんな中、エミリアは目を覚ました。
エミリア「ん・・・・・・」
ロボット『システム異常・・・・・・ピー、ガー』
下の部分が千切れたロボットはついには壊れ、沈黙した。
エミリア「あれ・・・・・・私・・・・・・、
生きてる?」
自身の両手を見て、エミリアは言った。
ヴァンパイア「だが、残念ながら・・・・・・お連れさんは」
その時、フェイトの手からサイコ・ブレードが落ちた。
ヴァンパイア「終わった」
煙が晴れるや、そこにはヴァンパイアのサイコ・ブレードにより胸を貫かれたフェイトの姿があった。
ゆっくりサイコ・ブレードは引き抜かれ、フェイトは血を吐いた。
エミリア「フェイト君!」
彼女の悲痛な声が響く。
ヴァンパイア「油断したなぁ。俺のサイコ・ブレードは長さを
自在に変えられるんだよ」
その間合いの差と墜落後の状況を利用して、ヴァンパイアは
フェイトに対して致命的な一撃を与えたのだった。
ヴァンパイア(まぁ、実は長さを伸ばすと威力は落ちるんだが、それは内緒だ)
そう心の中で付け足すヴァンパイアだった。
さらに、ヴァンパイアは余裕そうにフェイトの首元にサイ
コ・ブレードを寸止めした。
ヴァンパイア「しかし、心臓を貫かれたのはお前の方だったな」
もはやフェイトは生気を失っていた。
エミリア「そんな、嘘、嘘よ!」
フェイト「・・・・・・」
ヴァンパイア「嘘なんかつく必要がねぇだろうが。
その傷じゃあ人間ではとても助からねぇ。
超能力者だろうとな。
今はサイコ・パワーで何とか生を繋いで
いるようだが、それが切れたら・・・・・・」
そして、ヴァンパイアは刃を持たない方の手を自分の首に当てる真似をした。
ヴァンパイア「おだぶつだ。とどめは差してやらねぇよ。
苦しみ死にな」
この声は瀕死のフェイトにも届いていた。
フェイト(奴の言うとおりだ。終わるのか、俺は?俺の戦いは?
こんな所で・・・・・・?)
エミリア「違うッ!」
その時、エミリアは叫んだ。
エミリア「フェイト君は死なない。私が絶対に死なせない。
今ならきっと間に合う」
今、エミリアは自身のサイコ・ブレードを起動した。
エミリア「あなたを倒して、フェイト君を病院に連れて行きま
す」
そう確かにエミリアは宣言し、光刃の発したサイコ・ブレードを構えるのだった。
これを見て、ヴァンパイアは感心した。
ヴァンパイア「こりゃ、最高傑作だ、嬢ちゃん。中々の勇気だ、
見直したぜ」
だが、刹那に発された闘気に、エミリアは微かに怯んでしまった。
エミリア「ッ・・・・・・」
ヴァンパイア「もっとも心意気だけだがな。
ほら、行くぞ。
ハハッ」
そして、数合を打ち合うまでも無く、ヴァンパイアの手で、エミリアのサイコ・ブレードは両断された。
地面に無惨に落ちるサイコ・ブレードの上側の破片。
もはや起動する事は叶わない。
エミリア「そ、そんな・・・・・・私のサイコ・ブレード」
ショックのあまり両膝をつくエミリア。
そんな彼女にヴァンパイアはサイコ・ブレードを突きつけた。
ヴァンパイア「まぁ、その若さにしちゃ腕は悪くねぇ。
今の一閃(いっせん)もぎりぎりかわしたんだからな。
後数年も修行すりゃあ、それなりに伸びる
だろう。
だが、残念ながら、お前の命はここで終わる」
と告げ、ヴァンパイアはサイコ・ブレードの長さを伸ばした。
その光の刃はエミリアの髪を焦がした。
エミリア「ヒッ」
思わず涙目になるエミリア。
覚悟したはずだったのに、そんな自分がエミリアは嫌になった。
その時だった。
彼が立ち上がった。
フェイト「待てッ!」
ヴァンパイア「ん?」
後ろから掛けられた声にヴァンパイアは振り返った。
そこにはフェイトがおり、彼は片目を瞑りながらも、闘志を燃やしていた。
フェイト「その人に手を出すな・・・・・・」
エミリア「フェイト君!?」
ヴァンパイア「どの口が言う?このくたばりぞこないが」
対して、フェイトは静かなオーラを湛(たた)えた。
フェイト「確かに俺はくたばりぞこない・・・・・・。
サイコ・パワーもほとんど残って居ない。
だけど、それでも。
守らなきゃいけないヒトも居る!」
次の瞬間、フェイトの瞳が輝き、一つの覚醒を示した。
彼の形態が変化していく。
人から人ならざるものへと。
それは人型ではあるが人ではなかった。
黒い装甲に身を纏い、黒い翼を生やした何か。
それにフェイトは変化(へんげ)していった。
吹きあれるオーラの中、ヴァンパイアは冷静に分析した。
ヴァンパイア(これはサイコ・パワーとは違う異質の力。
むしろ、俺達、魔に属する者の・・・・・・)
しかし、そこでヴァンパイアは武者震いの喜びに笑みを浮かべた。
ヴァンパイア(だが、それがどうした?
発動前に殺しゃ問題ねぇ!)
そして、ヴァンパイアは変化中のフェイトへと瞬時に襲いかかった。
だが、放った渾身の一撃は易々と止められた。
それもフェイトの装甲化した手によって。
ヴァンパイアは驚愕した。
ヴァンパイア(馬鹿なッ!?俺のサイコ・ブレードが拳で防がれただだと?)
さらによく見れば拳の前に何重もの結界が張られており、それによってもヴァンパイアの攻撃は防がれていた。
今、ヴァンパイアは怪訝(けげん)で不機嫌そうな表情を浮かべた。
フェイトの姿は人型ではあったが、妙な連想をさせた。
ヴァンパイア(いや、それよりも。何なんだ、あいつの姿は。
少し成長してやがるし。
それにあれではまるで・・・・・・。
ドラゴン。
始祖なる超能力者が契約を交したとされる存在。
だが、まさか・・・・・・)
ドクン、と何処からともなく鼓動(こどう)がなった。
刹那、フェイトの姿が消え、ヴァンパイアの真横に現れ、拳を叩き込んだ。
あまりの衝撃に、ヴァンパイアの体はビルを横に貫通して、
無惨に叩き付けられた。
そして、貫通して出来た穴から、フェイトが追撃して来た。
ヴァンパイアはとっさに避け、次の瞬間、フェイトの拳がヴァンパイアの居た場所に直撃した。
そのままの勢いで、ヴァンパイアはダーク・マターを限定的に制御し、重力を軽減させながら。ビルを飛び駆けて行った。
ビルの屋上に着地したヴァンパイア。
ヴァンパイア(チクショウ、一撃で右のあばらが、ほぼ全て
いかれやがった。
とはいえ、弱点も見えた。
どうやら、テメーはその形態の時、サイコ・
ブレードを使えないようだな)
と、翼で飛翔してきたフェイトに対し、内心、告げるのだった。
ヴァンパイア(故に奴の武器は拳と足のみ。だったら、そうそう俺は死なねぇ。となりゃ、カウンターで一撃を返しゃ、俺の勝ち。
あえて、隙を作ってやんよ)
少し上に構え、胴体の部分に隙を作るヴァンパイであったが、彼の想定以上の速さで、フェイトの拳が叩き込まれた。
次の瞬間、ヴァンパイアは斜め後ろの高層ビルに叩き付けられた。その右胸の一部は消失する程の威力だった。
ヴァンパイア(バカな。速過ぎる。しかも、とんでもない威力
だぞ、これは・・・・・・。
えぐれてるし・・・・・・。
とはいえ、追撃が来ない所を見ると、
その力、テメーの限界を超えている
みてーだな)
それは正しく、フェイトは肩で息をしており、それを隠す事も出来なかった。
ヴァンパイア(なら問題ない。段々と奴の速さにも慣れて来た
しな。勝機は俺にある!)
そして、ヴァンパイアはビルの壁を蹴り、猛烈な勢いでフェイトに迫った。
その攻撃をフェイトは腕で防ぎ、もう片方の拳でヴァンパイアを殴りつけた。それによりヴァンパイアの左脇腹が抉(えぐ)られるも、ヴァンパイアは全く怯むこと無く、サイコ・ブレードを振った。
これによりフェイトの左腕は切断され、さらにヴァンパイアはフェイトの顔面を蹴りつけた。
そして、フェイトの顔を覆っていた兜の一部が砕け、その顔の一部が露となるも、それは激しい戦闘の中である。
ヴァンパイアはサイコ・ブレードを突き出すも、それは大振りに等しく、フェイトは避け、さらにその回転を利用して蹴りをヴァンパイアの後頭部に炸裂させた。
これを受け、ヴァンパイアはビルの屋上から地面へと吹き飛んでいった。
だが、空中で体勢を立て直し、ヴァンパイアは何とか着地し、さらに、着地の衝撃を横に移動する事で緩和させた。
そんなヴァンパイアの前に、フェイトは翼を用い着地した。
ヴァンパイアはフェイトを凝視した。
ヴァンパイア(しかし、こいつは本当にむかつく奴だぜ。
満身(まんしん)創痍(そうい)のはずなのに、涼しい顔しやがる。
いや、奴から見たら俺も同じか。
奇妙なもんだ)
思わずヴァンパイアは言葉を漏らした。
ヴァンパイア「案外、似た者同士なのかもな」
フェイト(何言ってんだ、こいつ)
と、心の中で突っ込んでいるフェイトだった。
ヴァンパイア「だが、残念ながらカーニバルはお開きの時間だ」
フェイト「願っても無い」
二人の間には奇妙な沈黙が流れた。
ヴァンパイア(この打ち合いに・・・・・・)
フェイト(全てを懸(か)ける)
奇妙な精神的感応は超能力者やヴァンパイア故か?
いずれにせよ刹那、両者は前に踏み出し、最後の攻防が開始されようとした。
拳とサイコ・ブレードがぶつかり合い、火花を散らす。
ヴァンパイアの剣撃が襲うも、フェイトはそれを身をかがめて避けた。その生じた隙をフェイトの眼は見逃さず、覚醒と共に、フェイトの拳はヴァンパイアの心臓を貫いた。
フェイト(このまま引き抜き、一瞬で、次の一撃をもう一つの心臓に)
そして、フェイトは最後の攻撃に移ろうとするも、ヴァンパイアは壮絶なる笑みを浮かべた。
ヴァンパイアは最後の力を振り絞り、短い光刃を形成して、フェイトの首元に突き立てようとした。
その刃がフェイトに迫る。
刹那、サイコ・ブレードが肉を貫いた。
だが、貫かれたのはヴァンパイアであり、そのサイコ・ブレードは・・・・・・。
ヴァンパイア「馬鹿な・・・・・・」
声が漏れた。
ヴァンパイア(俺の第二の心臓・・・・・・)
ヴァンパイア「それをこんな小娘に」
彼の背後にはエミリアがおり、彼女はサイコ・ブレードを後ろからヴァンパイアに突き立てていた。
ヴァンパイア(しかも、それは奴が落としたサイコ・ブレードかッ!)
そう、エミリアはフェイトが落としたサイコ・ブレードを回収し、機会をうかがっていたのだった。
ヴァンパイア「アアアアアッッッッッ!」
怒りの咆哮と共に、ダーク・パワーが吹きあれた。
エミリア「キャアアッッッ!」
抗えず吹き飛ばされるエミリア。
ヴァンパイア(見誤っていた。
真に倒すべきは、この嬢ちゃんだった。
何の魔眼も有していない筈(はず)なのに、
俺の『第二の心臓』を正確に貫いてきやがった。
すなわち、超能力者(サイキッカー)としての純粋にして異様なセンス。それを有してやがる。
悪いが、その芽をここで摘ませてもらうぞ!)
そして、ヴァンパイアはエミリアに襲いかかった。
ヴァンパイア「死ッ!」
今、ヴァンパイアの悪しきサイコ・ブレードがエミリアに迫
る。その刹那、フェイトの蹴りが炸裂した。
フェイト「ぬのは!お前だッ!」
刹那、フェイトの拳に竜の刻印が浮かび上がり、さらに円環のオーラが幾つにも重なった。
フェイトの拳が無数にヴァンパイアへと叩き込まれていく。
これを喰らい、体中を穴だらけになりながらヴァンパイアは吹き飛んで行った。しかし、それでも超再生能力により、彼は息絶えてなかった。
それをフェイトは分かっていた。
フェイト「月よ、星よ、その輝きの下に力を!」
次の瞬間、《流星乱舞》が発動し、天空から無数の光が流星群のように地上に降り注いだ。
それを遠くの道行く親子は気づいた。
子供「わー、お母さん、見て。お昼なのに、お星様、流れてるよ」
母親「あら、本当ね。なら、お願い事しましょうか?」
そして、流星は降り注いでいく。
悪しき魂の所へと。
無数の光が迫り、そのヴァンパイア、ヴィクトル・O・サザン
シアは、妙に可笑(おか)しくなり、微笑みを見せて受け入れた。
巨大な爆発が生じ、抗いようも無くヴァンパイアの姿は消え
ていった。
茫然と佇むフェイトとエミリア。
エミリア「や、やったね。でも、フェイト君?その怪我、大丈夫なの?」
と、エミリアはフェイトの身を案じた。
フェイト「簡単に治るよ。俺も化け物だから」
しかし、エミリアは首を横に振った。
エミリア「そんな事ない。フェイト君はフェイト君だよ。
助けてくれて、ありがとう」
そして、エミリアは太陽の様な微笑みを浮かべた。
これを見て、フェイトはどんな表情をしていいか分からず、
一瞬、惚(ほう)けた。
しかし、フェイトは自然とどんな表情をすれば良いか分かり、
心のままに微笑みを見せるのだった。
フェイト「ああ・・・・・・。どうしたしまして」
通学路を生徒達はワイワイと歩いていた。
「おはよう」「あ、おはよう」と女子生徒が声を掛け合ったりし
ている。
そんな中をエミリアも一人で歩いていた。
『こうして、何事も無かったかのように、私の日常は戻って来た。でも・・・・・・』
その時、エミリアは彼を見付けた。
エミリア「あ」
そして、エミリアは手を挙げて、彼の名を呼ぶ。
エミリア「フェイトーー!」
対して、彼は面倒くさそうに少し振り返る。
フェイト「ん?何か用?」
エミリア「あっ、つれないなー。もしかして照れてる?」
フェイト「照れてない」
エミリア「ふーん、まぁ、そういう事にしてあげる」
フェイト「やれやれ」
そして、二人は並んで歩いて行く。
『でも、それは今までと違う日常の始まりなんだと思う』
第二話
それはフェイトに倒された筈(はず)の銀髪長身のヴァンパイアであった。
目を覚ます吸血鬼ヴィクトル。
そこは研究所の一室で、彼はカプセルの培養液に浸けられていた。
ヴィクトル『・・・・・・また死ねねぇのか』
と、愚痴るヴィクトル。
すると、足音と共に一人の白衣を着た男がやって来た。
男「それ程までに死を求めているのかい?」
ヴィクトル『・・・・・・博士(ドク)。あんたか』
ドク「私の子飼いを使って、君を回収させた」
ヴィクトル『余計な事を』
ドク「ともかく、しばらく休むといい。体の再生には、君でも時間が掛かる」
と言い、去って行こうとした。
ヴィクトル『待てよ・・・・・・』
ドク「なんだい?」
ヴィクトル『あいつは何者だ?本当は全部、知っているんじゃ
ないのか?』
ドク「・・・・・・仮説はあるが、口に出来る程のモノでも無い」
そう言い残し、今度こそドクは部屋を後にした。
ヴィクトル『・・・・・・結局、俺は踊らされていただけなのか?まぁいいさ。真実は自分の手で掴む。それこそが俺の生き方にふさわしい』
培養液の中で、ヴィクトルはニヤリと笑みを浮かべるのだっ
た。
一方、フェイトは学校でだれていた。
エミリア「ちょっと、昼休みになったのに、いつまで寝てるのよ!」
フェイト「ん・・・・・・?あぁ、もうそんな時間か」
エミリア「チャイムが鳴ったでしょ、チャイムが!」
フェイト「そんな気もする。ファー」
と、欠伸をして立ち上がった。
エミリア「何処行くの?」
フェイト「学食」
そう簡潔にフェイトは答えるのだった。
混雑する学食でフェイトとエミリアは食事を摂っていた。
エミリアがパンをパクパクと食べているのに対し、フェイトは定食を二つと焼きそばパンを口にしていた。
エミリア「あんた食い過ぎじゃないの?」
フェイト「よく言われる」
そして、ひたすら食事に専念しだした。
すると、一人の金髪の少女がトレーを置いて、隣に座ってきた。
リオ「やぁやぁ、お二人さん。仲むつまじいですなぁ」
ニヤニヤしながら言うのだった。
エミリア「ちょっと止めてよ。そんな誤解されるような言い方。
ねぇ、フェイト」
フェイト「え?ごめん、聞いてなかった。あんま食事中は話し掛けないでくれ」
エミリア「ほら、こういう奴なのよ」
リオ「うーん。まぁ、今はそういう事にしておきましょう」
と、勝手に一人で納得するリオだった。
リオ「っていうか、二人はいつから名前で呼ぶ関係になったのさ?」
エミリア「色々あったのよ色々」
フェイト「ごちそうさん」
と言い、フェイトは立ち上がった。
エミリア「あ、待ってよ」
そして、二人は歩み去って行くのだった。
残されたリオは首をわずかに傾げながら、呟いた。
リオ「うーん・・・・・・気になる。」
その頃、研究所の長い廊下をドクはスタスタと歩いていた。
ドク「さて・・・・・・ヴィクトル君もやられてしまったし、どうしたものか」
すると、背後から声を掛けられる。
そこには身長が2mを軽く越えるであろう大男が立っていた。
大男「お困りのようですね、ドクター・ホロン」
ドク「これは古の守護者エオゼル。このような下層に降りられるとは珍しい」
エオゼル「《上》での派閥闘争にも飽き飽きでしてね。少し休暇 を取ってきたのです」
ドク「なる程」
エオゼル「そこで退屈しのぎを探していたのですよ」
ドク「では丁度いい。妙な超能力者がおりましてね、ヴィクトル君を倒す程の腕前です」
エオゼル「ほう。ヴィクトル君は若いが戦闘のセンスは優れていた。それを倒すとは何者です?」
ドク「学園に通う高等一年の少年ですよ」
エオゼル「フム。かなり興味が湧いて来ました」
ドク「それで、その少年を捕えてきて頂けませんか?」
エオゼル「よろしい。このグレート・エオゼルにお任せを!アッハッハッハ!」
と高笑いを残し、煙のように消えて行った。
一方、放課後・・・・・・。
下校中、フェイトは身震いをしていた。
フェイト「うぅ、寒気がする」
エミリア「大丈夫?こないだの戦闘で体調を崩したんじゃ」
フェイト「いや、風邪とは違うというか・・・・・・。はぁ、こんな時は《あそこ》に行って元気を出すか」
エミリア「あそこ?」
フェイト「まぁ、行けば分かるよ。」
そして、フェイトに案内された先は古びた駄菓子屋だった。
エミリア「わー。駄菓子屋だぁ。小学校以来かな?」
フェイト「ここは地元の小学生にも人気なんだ」
確かに、店の前では小学生達がお菓子をほおばったりしていた。
エミリア「ねぇねぇ、早く入ろうよ」
フェイト「分かってるよ」
と答え、フェイトは扉を横に開くのだった。
中は駄菓子屋としては程々に広く、多種多様なお菓子が陳列されていた。
すると、一人の高校生が腕を組んで何を買おうか悩んでいた。
高校生「クッ、残金はあと5エア。これじゃチョコ棒を1本も
買えん・・・・・・どうしたものか。既にお小遣いは前借りしてるしなぁ・・・・・・」
フェイト「よっ、ボトン」
そうフェイトは声を掛けた。
ボトン「ん?おお、フェイト。それにエミリアさんじゃねぇか。
なんだ、こんな所でデートか?」
エミリア「んなわけ無いでしょ!」
フェイト「はぁ・・・・・・ところで、お婆ちゃんは?」
ボトン「ああ。今、奥に居るんじゃねぇのか?それより、フェイト、30エア(通貨)貸(か)してくれねぇか?現金が無くてさ。ほら、ここの駄菓子屋じゃ現金しか使えないだろ?いや、電子マネーもスッカラカンなんだけどよ。ともかく、俺、チョコ棒を3本喰わなきゃ生きてけないんだ」
フェイト「短い人生だったな」
ボトン「勝手にヒトの人生、終わらせるな!」
エミリア「もう、ほら」
すると、エミリアは30エアをボトンに渡した。
ボトン「お、おお!い、いいのか?」
エミリア「いいわよ、もう」
ボトン「ありがとうな!いやぁ、この恩は一生、忘れねぇぜ。
いつか何億倍にして返すからよ。楽しみにしておきな。
じゃあ、買ってくるわ!」
そして、ボトンは奥に行き、店主のお婆ちゃんを呼ぶのだっ
た。
フェイト「やれやれ。・・・・・・!」
この時、フェイトは急に顔を強ばらせた。
それから、フェイトは無言で店を出て行った。
エミリア「ど、どうしたの急に。まだ、何にも買ってないじゃん。もしかして、怒ってる?」
少し不安そうに尋ねるエミリアだった。
フェイト「いや・・・・・・敵だ」
エミリア「て、敵?!」
フェイト「シッ。まだ、数百m離れてるけど、近づいて来てる。
ここでは戦いたくない。人気の少ない所に行く」
エミリア「わ、私も」
フェイト「・・・・・・危険だぞ」
エミリア「十分承知。大体、前回だって活躍したでしょ?」
フェイト「それを言われると弱る」
エミリア「じゃあ、近くに閉鎖された遊園地があるから、そこに行こ」
フェイト「あそこか。いいな。よし、さりげなく向かおう」
そして、二人は廃遊園地へと足早に進むのだった。
遊園地に入ってしばらくすると、フェイトは立ち止まり振り
返った。
フェイト「そろそろ出てきたらどうだ?尾行が下手なオッサン」
すると、建物の陰から大男エオゼルがヌッと現れた。
エオゼル「フム、これは手厳しい。ヒトは本当の事を言われると傷つくものなのですよ」
フェイト「勝手に傷ついてろよ・・・・・・」
エミリア「ていうか、あなたは誰なんですか?」
エオゼル「これはよくぞ聞いてくれました。私の名はエオゼル。
グレート・エオゼルと呼んで下さって構いませんよ」
フェイト「・・・・・・それでグレート・エオゼルのオッサン。何の用だ?」
エオゼル「実は少年、あなたに用があるのですよ。私に付いてきてください」
フェイト「何が悲しくて不審者に付いて行かなきゃいけないんだよ・・・・・・」
エオゼル「ほう、不審者。何処に居るのです?成敗してくれましょう」
フェイト「お前だ、お前!」
すると、エオゼルは涙を零しだした。
フェイト(なんだ、こいつ。情緒不安定か?)
エオゼル「少年。私は今、猛烈に悲しい。ヒトの事を不審者と
呼ぶように育てた覚えはありません!」
フェイト「お前に育てられた覚えこそねーよ・・・・・・」
エオゼル「ともかく!その曲がりくねってしまった心を矯正してあげましょう!フンッッッ!」
次の瞬間、エオゼルの両手から2本の大根が出現した。
エミリア「あ、あれは・・・・・・」
フェイト「ダイコンの召喚?」
エオゼル「そのとーりッッッ!!!これこそ我が聖剣、エオゼル・グレート・ダイコン=ソードなのですよ!」
フェイト「妙な能力を・・・・・・」
そして、フェイトはサイコ・ブレードを抜いた。
続いてエミリアも。
こうして風がなびき、一瞬の静寂が辺りに満ちた。
しかし、エオゼルが思い切り踏みこむと、戦いの火ぶたは切
って落とされたのだ。
第三話 ダイコン編② 《テレキネス》
戦いは熾烈を極めた。
2本の大根が、フェイトとエミリアのサイコ・ブレードとぶつかり合い火花を散らす。
いつしか辺りは夕暮れと化し、闇の時間が訪れようとしていた。
エオゼル「フンッ、フンッ、フンッ、フンッッッ!」
叫び、エオゼルはダーク・パワーを全開にし、フェイト達を
吹き飛ばそうとした。
これを受け、エミリアは遙か後方へと流される。
一方、フェイトは翼を限定的に出現させ、上空から攻撃を放った。
しかし、それすらも二刀のダイコン=ソードに防がれる。
エオゼル「いい一撃です。しかーしッ!」
そして、フェイトは弾かれた。
エオゼル「その翼とサイコ=ブレードの力、相反していますねぇ。
サイコ=ブレードの威力が落ちてますよ」
フェイト(んな事、言われなくても 分かってるよ・・・・・・。超能力者としての俺は欠陥品だからな)
そう内心、呟くのだった。
フェイト(とはいえ、ここで翼を引っ込めれば、奴の言葉を肯定する事になっちまう。それは避けたい。だから。
ここはあえて、翼を駆使するッ!)
次の瞬間、フェイトはエオゼルに向け、半空中(エアリアル・)攻撃(アーツ)を加えていった。
エオゼル「ヌオッッッ!」
戸惑うエオゼルであったが、これを器用に躱していく。
そして、ついには1本のダイコンが弾かれ、エオゼルの手を離れていった。
だが、それすらも策略か・・・・・・。
エオゼル「トリャッッッッ!」
しかし、エオゼルはフェイトの攻撃を見切り、蹴りを彼の腹部に叩き込んだ。
これを受け、フェイトは空中で微かに悶絶する。
フェイト「グッ・・・・・・」
そして、エオゼルは《エオゼル・グレート・アッパー》を放つのだった。
しかし、それをフェイトはかろうじて空中で躱した。
すると、エオゼルは指を鳴らし、脳内を一時的に加速させた。
エオゼル(不可解ッ!翼を使うにせよ、あり得ない軌道、躱し方!)
スローモーションの時の中、エオゼルは思考を巡らせた。
そして、前方に目をやると、手をフェイトに向けているエミリアの姿があった。
エオゼル(なる程、理解しましたよぉー!テレキネスで、少年の体を引っ張ったのですね。しかし、何と器用な事か。テレキネスでモノを動かすには正確な認識が必要。それを高速で動く戦闘の中で行うとは・・・・・・。
フム、あのお嬢さんも要注意ですねぇ)
そして、再び指を鳴らし、元の時間感覚にエオゼルは戻るの
だった。
エオゼル「フヌォオオオオッッッ!」
と叫び、エオゼルは闘気をダイコンに込めた。
そして、グレート・エオゼル・スパイラルが発動し、螺旋の
ダーク・エネルギーがフェイトに迫った。
フェイト「ッ!」
なんとか躱そうとするフェイト。
しかし、フェイトは後方のエミリアを見てしまった。
そして、螺旋のエネルギーに足を無理矢理、引っかけるのだった。
次の瞬間、ダーク・エネルギーはエミリアのすぐ横をかすめていった。
エミリア「キャッ!」
後方ではアトラクションの塔が崩れ去っていく。
一方、フェイトは足に直撃を食らい、地面を転がっていた。
エミリア「フェイトッ!」
駆け寄るエミリア。
エオゼル「これは何と高潔な精神か。さながら、騎士。少年、あなたはお嬢さんを守る為、あえて足を攻撃に当てましたね。すなわち、攻撃の軌道を逸らすために」
エミリア「そ、そうなの?」
フェイト「・・・・・・偶然だよ」
と言い、フェイトは痛む足を引きずる形で立ち上がった。
エオゼル「しかし、その傷では回復に時間が掛かるでしょう。
さぁ、今なら私のすりおろし大根で治療をしてあげます。大人しく付いて来なさい」
フェイト「そんなん足に付けたら、足が腐りそうだ」
エオゼル「ヌゥゥゥゥゥ。ヒトの善意を悪意に捉えるとは、全く、先生は悲しいですよ」
フェイト「誰が先生だよ・・・・・・」
とはいえ、フェイトは内心、焦りを覚えていた。
フェイト(しかし、マズイな。昨日の今日でドラゴンの力を本格的に使いたく無いし。どうしたモノか。ただ・・・・・・)
すると、フェイトはエミリアをちらりと見た。
フェイト(こいつだけは何とか守りたい。その為なら・・・・・・)
エミリア「フェイト。後は私に任せて、下がってて。大丈夫、
回復するまでの時間くらいなら稼げるから」
フェイト(ヒトの気知らずってのは、この事だ)
と、フェイトは内心、ため息を吐いた。
エオゼル「フッフッフ。高まって来ましたよ。私のダーク・パワー。では、始めましょうッッッ!」
そして、エオゼルが大根を構えた。
刹那、「待ったッッッ!!」との第三者の声が、メリー・ゴー
ランドから発されるのだった。
第四話 ダイコン編③ 《頼りない援軍》
メリー・ゴーランドに乗っていたのは、エミリアには見覚えの無い人物であった。
その者はアフロ風の髪型をした青年であり、格好をつけているのだった。
エミリア「えっと・・・・・・誰?」
フェイト「知り合いだ」
エミリア「あ、そうなんだ」
青年「その通りッ!少年、また会えて嬉しいぞッ。俺の名は!」
しかし、メリー・ゴーランドは回っていってしまい、青年は最後まで言い切れなかった。
そして、もう一周してくると、青年はいきおいよく飛び降りた。
青年「とうッ!さて、俺の名はブロー・マグヌス!俺が来たからには、悪の好きにはさせん!」
エミリア「やった、援軍だ!」
フェイト「いや・・・・・・あんまし役に立たないと思うぞ」
ブロー「こらッ!何て人聞きの悪い事を言うんだ、フェイト」
フェイト「んな事、言われても、事実そうなんだから」
すると、エオゼルが大きな咳払いをした。
エオゼル「ゴッホン!あまり私を無視しないで頂きたい。先生も少し悲しくなりますからね」
フェイト「だから、誰が先生だよ・・・・・・」
エオゼル「むろん、私、です!」
と言い、エオゼルは闘気を高めた。
フェイト「まずいな・・・・・・」
ブロー「おい、フェイト。ここは例の戦略でいかないか?」
フェイト「ん?ああ、あれね」
エミリア「え?何々?」
ブロー「そりゃあ、これさッッッ!」
と叫び、ブローは固有能力を発動した。
その能力とは煙幕を張る力であった。
これを利用して、フェイト達は逃げ出したのだ。
エミリアの手を引くフェイト、その後ろをブローが進む。
エオゼル「ぬ、煙ッ!こしゃくな真似をッッッ!」
そして、エオゼルは螺旋の闘気を煙に向けて放った。
この闘気の渦は次々にフェイト達をかすめていく。
ブロー「あ、あぶなッ!」
フェイト「いいから、もっと煙幕を!」
ブロー「わ、分かった!」
さらなる煙幕を張るブロー。
そして、周囲一体は煙に呑まれていった。
遊園地の建物の中へと逃げ込んだフェイト達3人。
エミリア「ハァ、ハァ・・・・・・」
ブロー「ハァ、追ってこないな」
フェイト「これで少しは時間が稼げそうだ」
エミリア「ていうか、ブローさんはどうやって駆けつけて来たんですか?」
ブロー「ああ、それか。妙な気配を感じてな。それにフェイトのオーラも感じたから、バイトを放って急いで来たのさ!」
フェイト「いいのか、それ?」
ブロー「いいんだよ!そういうワケで感謝してくれ」
エミリア「あ、ありがとうございます」
ブロー「いやいや、いいんだよ。しっかし、フェイトも隅にはおけないなぁ。こんな可愛い彼女が居るなんて」
エミリア「か、可愛い・・・・・・」
照れるエミリア。
フェイト「いや、それは誤解で・・・・・・」
ブロー「ふーん。まぁいいや。それで、どうする。これから?」
フェイト「ともかく、奴は倒さないとな」
ブロー「ていうか、奴は何者だ?吸血鬼か?」
フェイト「いや、吸血鬼の匂いはしなかった。あれは守護者かそれに近しい存在だろうな」
エミリア「守護者?」
フェイト「吸血鬼の眷属みたいな奴らさ。使い魔とか守護者とか呼ばれてる」
ブロー「強い使い魔の事を守護者って呼ぶんだよ、エミリアち
ゃん」
エミリア「あ、そうなんですか」
フェイト「!・・・・・・近づいて来ている」
エミリア「え?まさか・・・・・・」
ブロー『こ、小声で話そう』
とのブローの言葉に、エミリアは頷いた。
フェイト『人気の少ないここで奴を倒す。ブローは煙を出す力しか持ってないから、少し離れて見ててくれ』
ブロー『おう、頼りにしてろよ!』
エミリア『・・・・・・』
フェイト『だから言っただろ、あんま役に立たないって』
エミリア『うん・・・・・・』
ブロー『こらッ!お兄さん、傷つくぞッ!撤退する時には、凄
く役立つんだからな!』
フェイト『じゃあ、期待してるよ、お兄さん』
ブロー『おう』
すると、扉が思い切り開かれた。
エオゼル「そこに居る事は分かっていますよ!さぁ、第二戦と行きましょうかぁ!?」
との言葉に答えるように、フェイトとエミリアはサイコ・ブレードを構え、出てきたのだった。
フェイト「後悔するなよ」
エオゼル「後悔を恐れていては大成できませんよ」
フェイト「かもなッッッ!」
そう言い放ち、フェイトは先陣を切るのだった。
今、フェイトとエオゼルの刃がぶつかりあった。
第五話 ダイコン編④ 《オーバー・パワー》
戦いは熾烈(しれつ)を極めた。
そして、フェイトは力を解放し、ついにはエオゼルに強烈な一撃を与えるのだった。
エオゼル「グゥッ、その力、やはりッ!」
苦悶に顔を歪めるエオゼル。
そんなエオゼルに対して、フェイトは一気に攻勢を掛けた。
エミリア「いっけぇッ!フェイトッッッ!」
との声援がフェイトを後押しする。
フェイト「月よッ、星よッ、その輝きの下(もと)に力をッッッ!」
そして、流星乱舞が発動する。
エオゼル「流星ッ!忌まわしきその力まで未だ有するとはッ!」
降り注ぐ流星の如き光を、必死に弾いていくエオゼル。
だが、それにも限界があった。
エオゼル「グオオオオオッッッ!」
今、エオゼルは光と爆発が包んだ。
第六話 ダイコン編⑤ 《転生の呪縛》
エオゼル「グフ・・・・・・」
この時、エオゼルは未だかろうじてではあるが、両足で立っていた。一方、フェイトも限界は近かった。
フェイト「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・」
勝利の星はフェイトに占められたかに見えた。
しかし、次の瞬間、《ドクン》とフェイトの心臓は鳴動し、彼は能力を暴走させていくのだった。
エミリア「な、なに?!」
ブロー「あ、ありゃあ、能力の暴走だ!前に、友達が暴走させたのを見た事がある!」
エミリア「そ、そんなッ!それじゃ、フェイトの身体が!」
すると、横たわったエオゼルが口を開いた。
エオゼル「お嬢さん・・・・・・心配をするのなら、自分の身を案じなさい」
エミリア「ど、どういう事?」
エオゼル「竜の力の暴走・・・・・・。それはこの街すら滅ぼしかねない程の災厄を引き起こしかねません」
エミリア「そ、そんなッ!」
ブロー「ていうか、もしかして・・・・・・逃げなきゃまずいんじゃ」
その時、フェイトの殺気がブロー達を襲った。
ブロー「ひぃっ、まずッ!」
次の瞬間、衝撃波が起こり、ブローとエオゼルは転がっていった。
ブロー「アアアッッッ!」
エオゼル「ヌゥゥゥ・・・・・・」
一方、エミリアは何とか衝撃波に耐えていた。
しかし、目の前にはフェイトが闘気をたたえているのだ。
エミリア「フェイトッ!」
だが、その声は届かず、フェイトは斬りかかってきた。
間一髪、エミリアはフェイトの攻撃をサイコ・ブレードで防いだ。
エミリア「クゥッ、フェイトッ!正気に戻ってッッッ!」
すると、エオゼルは声をあげた。
エオゼル「お止めなさい、お嬢さん!暴走能力者に話などしても無駄ですよッ!大人しく先生の言う事を聞いて、逃げなさい!」
エミリア「絶対に、嫌ッ!」
フェイト「ガァァッァッッッ!」
そして、エミリアは衝撃波で吹き飛ばされるのだった。
エミリア「うぅ・・・・・・フェイト・・・・・・」
涙を頬に伝わらせるエミリア。
その姿を見て、フェイトは『ウ、アガァァァッッッ!』と苦しげな声を発するのだった。
ブロー「な、なんだ?」
エオゼル「フム・・・・・・どうやら、お嬢さん。わずかですが、お嬢さんの声は届いているようだ。先生、ビックリです」
エミリア「じゃ、じゃあ、呼びかけ続ければ、フェイトは元に
戻るの」
エオゼル「いえ、呼びかけるだけじゃ無理です。まぁ、方法は無くも無いですが、危険すぎますしねぇ・・・・・・」
ブロー「コラッ!大人しく教えやがれ!」
と言い、ブローは拾ったダイコンでエオゼルの頭を叩いた。
エオゼル「こらッ!やめなさい!人の頭をダイコンで叩くなど、言語道断ですよ!」
ブロー「うるせぇ、吐け、吐いちまえッ!」
エオゼル「クゥ・・・・・・仕方ないですねぇ。方法は単純です。彼の心にアクセスして、魂を引き戻すのです」
エミリア「えっと?」
エオゼル「超能力者なら出来るでしょう。特にお嬢さん、貴方は優秀そうですしねぇ」
エミリア「よく分からないけど・・・・・・フェイトの心に繋がればいいのね!」
エオゼル「ええ」
ブロー「で、具体的にどうすりゃいいんだ?」
エオゼル「それは・・・・・・ゴベッ!」
すると、コンクリートが頭に直撃し、エオゼルは吹き飛んだ。
ブロー「ああッ、あと少しだってのに。こら、フェイトッ!何
するん、ダブヘッ!」
さらなる被害が出てしまったようである。
ブローも瓦礫がアフロヘアにめり込んでしまい、気絶してい
た。
残されたのはエミリアのみ。
彼女は意を決し、フェイトへとゆっくり歩いて行く。
フェイトの放つ魔弾をエミリアはサイコ・ブレードで弾いていった。
エミリア「フェイト・・・・・・大丈夫だよ。もう、戦いは終わったんだよ。怖がらなくていいんだよ」
そして、エミリアは手を差し伸べた。
しかし、フェイトはエミリアに殴りかかろうとしたのだ。
刹那、エミリアの姿は影のように消え、彼女はフェイトを抱
きしめていた。
エオゼル(あの動き・・・・・・お嬢さん、貴方はまさか・・・・・・)
地面に倒れているエオゼルは陰ながら、それを観察していた。
エミリア「フェイト。貴方の心を開いて」
次の瞬間、エミリアとフェイトの周囲に光が生じ、エミリアの意識はフェイトの心の海へと吸い込まれていった。
暗い海を何処までも落ちていく。
エミリア(ここは・・・・・・フェイトの心の中。無意識の海)
エミリアの星霊体は奥へ奥へと進んでいく。
光が輝く。
いつしか、エミリアは赤と灰に染まった空を落ちていた。
そこは騎士達と吸血鬼達の会戦の場であった。
エミリア(ここは・・・・・・)
すると、一箇所で吸血鬼達とその眷属が吹き飛んでいった。
そこには彼が居た。
竜の力を解放したフェイトの姿が。
彼は戦っていた。
ひたすら戦っていた。
でも・・・・・・その姿は何処か悲しみを湛えていた。
エミリア「フェイトッッッ!」
その叫び声は届かない。
エミリアの姿は消えていった。
だが、一瞬、フェイトは空を見上げたのだった。
イメージの羅列。
磔にされるフェイト。
燃えさかる炎。
エミリア「止(や)めてッッッ!」
さらなる場では、攻城戦が繰り広げられていた。
そこでは少し小さなフェイトが剣を片手に戦っていた。
エミリア「これは・・・・・・まさか、そんな・・・・・・」
いつしか、エミリアは元の暗い海に戻っていた。
その階層の底では一人の黒髪の女性が逆さまに立っていた。
女性「そう。彼は戦い続けている。死は彼を解放しない。
死してなお彼の魂は転生し、その記憶を継承した
ままに、新たな生を迎える」
エミリア「そんなの・・・・・・悲しすぎる」
女性「そうね。転生には時間が掛かる。少なくとも半世紀ほどは。それが繰り返される。故に、かつての友は時の中に消えてゆく」
イメージは移り変わり、墓標の前に寂しげに佇む幼いフェイトの姿があった。
女性「皮肉な事に、敵である吸血鬼は、時を越えて存在し続け ている」
女性「そして、彼の半身とも呼べる者も・・・・・・」
エミリア「教えてッ!どうすれば、フェイトを助けられるの?
どうすれば彼を救ってあげられるの?」
女性「転生の呪縛は貴方でも解けはしない。でも・・・・・・ヒトを
越えうる貴方ならば、彼と同じ時を共にする事が出来る
かも知れないわ」
エミリア「本当?」
女性「ええ。貴方にその覚悟があるのならば」
エミリア「あるわッ!だから、お願い。フェイトの心へ私を繋いで」
女性「分かったわ・・・・・・その《愛》に幸あらん事を」
そして、女性はエミリアの手を握るのだった。
次の瞬間、光の中へとエミリアは消えて行った。
残された女性は呟いた。
女性「ごめんなさい・・・・・・貴方達に全てを背負わせてしまって。
いえ・・・・・・私にはそれを言う資格すら無いのかも知れない。でも、《ごめんね、ごめんね》としか言えなくて・・・・・・」
そして、女性の身体も泡と化して消えて行った。
エミリアは暗黒の宇宙を落ちていった。
その真空の闇の中心には幼いフェイトが縮こまっていた。
エミリア「フェイトッッッ!」
すると、幼いフェイトはエミリアの方を向いた。
フェイト「嫌なんだ。みんな僕を置いて行っちゃうんだ」
エミリア「大丈夫だよ。私、私だけは、ずっとフェイトの傍に
居るから。貴方と同じ時を生きるから!」
そして、エミリアは手を伸ばした。
フェイト「本当?」
エミリア「うん。本当だよ。だから、手を伸ばして」
フェイト「・・・・・・うん」
今、フェイトはたどたどしく、エミリアの手を握った。
次の瞬間、光の奔流が二人を包んだ。
エミリア「ッ・・・・・・絶対に、放さないんだからッッッ!」
すると、フェイトはいつの間にか、いつものフェイトの姿に戻って居た。
今、フェイトは優しく穏やかに微笑み掛けた。
フェイト「ありがとう、エミリア」
エミリア「フェイト?!」
フェイト「ああ。帰ろう、本来の時へ・・・・・・」
そして、フェイトは翼を生やし、光の奔流を逆らって進むのだった。
《そして、二人は進むのです。狂おしいまでに、切ない時を》
今、世界を光が包んだ。
第七話 七つの聖堂
現実世界にフェイトとエミリアは無事に帰還した。
エミリア「帰って・・・・・・来れたの?」
フェイト「ああ。エミリアのおかげだ」
すると、ブローが目を覚ました。
ブロー「ん?お?おおッ!オオッ、フェイト!無事か!なんだなんだ、エミリアちゃんとくっついて?愛の力で野獣も元の姿に戻ったか?」
これを聞き、エミリアは顔を赤らめ、フェイトから離れた。
フェイト「誰が野獣だよ・・・・・・」
と、フェイトはクールに装いながらも少し照れていた。
ブロー「お前だ、お前!死ぬかと思ったぞ、全く!」
フェイト「・・・・・・ごめん。もう、俺の傍には近づかない方が良い。前にも言ったと思うけど」
すると、ブローはフェイトに歩み寄り、その額をデコピンし
た。
フェイト「いて」
ブロー「ばっか!お前って奴は反省って事を分かってないぜ。
そういう時はな、これからは気を付ければいいだけだ。
超能力者ってのは暴走してしまうモンだ。特に強い能力者はな。でも、だからって、そいつらを化け物か何かのように怖がっちゃ可哀相だろ?いいんだよ。俺は好きでお前の相棒やるんだからな」
フェイト「・・・・・・ブロー」
ブロー「なんだ?」
フェイト「ありがとう」
ブロー「いいって事よ。それよりエミリアちゃんに礼を言いな。
彼女が助けてくれたんだろ?」
フェイト「うん。・・・・・・エミリア、ありがとう。本当に助かった。本当に」
エミリア「気にしないで。それに色々とお互い様でしょ?でも、
どういたしまして、フェイト」
そして、二人は微笑み合った。
だが、その時、瓦礫がダーク・パワーで吹き飛んで行った。
見れば、コンクリートにぶつかった後、瓦礫に埋もれてしま
ったエオゼルが覚醒したのだ。
フェイト「・・・・・・やるのか?」
満身(まんしん)創痍(そうい)とも言える中、フェイトはサイコ=ブレードを起動し
た。
エオゼル「見なさい、この周囲を。あなたの暴走は解けましたが、あなたの発したサイコ・エネルギーは辺りに充満しています」
確かに、周囲には緑のエネルギー場が形成されており、一部
の瓦礫はエネルギー場の作用で浮遊していた。
フェイト「何が言いたい?」
エオゼル「戦いは終わっていないという事ですよ、フェイト・ザ・スカイナイト」
この言葉に、フェイトはハッとした。
フェイト「・・・・・・俺を知ってるのか?」
エオゼル「あなたの事は知りません。しかし、フェイト・ザ・スカイナイトの事ならば、良く知っています。世界の記録・記憶からは抹消された、その英雄の事をね。
消え去りしあなたの物語を」
フェイト「答えろ!答えてくれ・・・・・・。俺は本当にフェイト・ザ・スカイナイトの転生体なのか?俺は・・・・・・」
エオゼル「そうだとも言えるでしょうし、そうでないとも言えます。フェイト・ザ・スカイナイトのクローン体は陰で作られているようですし、あなたがその一人とも限りません。オリジナル・フェイトの記憶記録を埋め込む技術も開発されたとの話もあります。もっとも、ノー・クローニング理論からすれば、それはレプリカに過ぎないのですがね。量子状態、量子なる人工知能のコピーは不可能なように。しかし、オリジナル・フェイトに極めて近いレプリカを作る事は理論上は可能でしょう」
フェイト「じゃあ、何を信じればいいんだ?」
エオゼル「それは魂ですよ。魂の煌(きら)めきこそが、あなたがあなたである事の証明でしょう。フェイト、本来ならばあなたを見逃して上げたい所ですが、私は約束を守る者です。あなたを捕まえねばなりません」
フェイト「・・・・・・一つ聞いて良いか?」
エオゼル「ええ」
フェイト「あんたとフェイト・ザ・スカイナイトは仲間だったのか?敵だったのか?」
エオゼル「奇妙な関係でしたよ。時には敵対し、時には吸血鬼の王ナイト・イン・ゲイズを倒す為に共闘し・・・・・・。
その恐るべき継承者リリア・イン・ゲイズの時代においては、やはり共に戦い世界を救ったものです」
フェイト「なる程。だから、俺はあんたを憎めないのか」
エオゼル「・・・・・・さぁ、始めましょう、フェイト。ただのフェイト。英雄でも何者でもないフェイト」
フェイト「ああ」
そして、両者は互いの刃を構えた。
互いに体はボロボロのはずが、かつてない緊張感が張り詰め
ていた。
エミリア「フェイト・・・・・・」
心配そうにエミリアは声を掛けるも、フェイトは微かに首を横に振った。
フェイト「大丈夫。ここは俺一人でやらせてくれ。もう暴走はしない。サイコ=ブレードの力で勝つ。竜の力にも今は頼らない。俺自身の力で戦いたいんだ」
これを聞き、エミリアは言葉に詰まり、そして涙混じりに苦
笑した。
エミリア「うん。信じてる」
フェイト「ありがとう」
一方で、ブローも応援を始めた。
ブロー「うおー、フェイトーーーーー!負けるな。俺が付いてるぞーッ!すごく頼りになる相棒がな!」
フェイト「はいはい。静かに応援よろしく」
ブロー「おう、任されたぜ!」
と、腕をブンブン回して、ブローは答えた。
フェイト「さて・・・・・・始めようか」
エオゼル「ええ」
今、エオゼルは感慨深い思いを胸に、答えた。
脳裏には、かつての幼きフェイトの姿が浮かんだ。
エオゼル(あの幼い少年が今やこんなに成長し・・・・・・。戦いに次ぐ戦い、転生に次ぐ転生、それを繰り返してきた彼は肉体こそ大人になった時もありましたが、その精神は未熟な面がありました。今の彼も未熟も未熟ですが、しかし、ようやく彼は本当の意味で大人になろうとしているのですね。先生も嬉しいですよ、何もしてあげれませんでしたが。いえ・・・・・・何かをしてあげる時は今なのでしょうね。フェイト・・・・・・。
ただ唯一のフェイト。あなたに対して)
そうエオゼルは心を定めるのだった。
澄んだような沈黙が両者を風のように吹き抜けた。
そうして、何の合図も無しに、両者は示し合わせたかに同時に足を踏み出した。
猛烈な剣撃が吹きあれた。
エオゼルは鬼のような形相で、熾烈(しれつ)な攻撃を仕掛けてきた。
未来予測のいくつものフェイトは死していった。
死は確率の平行世界にて、隣り合わせであった。
だが、現在のフェイトは生きている。
存続している。
《Stay(ステイ) the(ザ) soul(ソウル) alive(アライブ)》、魂を生かしなさい、との運命(フェイタル)の(・)女神(モルガーナ)の冷酷な声が響いた。
フェイトは死と隣り合わせである事を心より実感した。
ここで死ねば再び転生が始まるであろう。
いや、だが死ねない。
フェイト(俺には成さねばならない事がある。そして、失いたくない絆がある。掛け替えのない・・・・・・)
そして、フェイトは反撃を開始した。
《Awaken(アウェイクン)》、覚醒されました、との女神の巫女による声が脳内に響く。
《Re(リ)-(・)awaken(アウェイクン)》、再覚醒されました、との双子の巫女による声が脳内に響く。
フェイト「ウォオオオオオッッッッ!」
冷静さも全てをかなぐり捨て、フェイトは叫んだ。
その気迫にエオゼルも押されかかるも、逆に気迫で圧倒せんとした。今、エオゼルの体は数倍に膨らんだかに感じられた。
エミリア「フェイトッ!」
たまらずエミリアは声をあげた。
フェイト(俺はッ・・・・・・生きる!)
刹那、エオゼルのダイコン・ソードの片方は両断された。
フェイト(生きてッ、生きるんだッッッ!みんなとッッッ!
そして、消え去りし物語に替わる、新たな物語を築いていくんだッッッ!)
さらなる刹那、エオゼルの残されたダイコン・ソードも両断され、そしてフェイトのサイコ=ブレードはエオゼルの胸に吸い込まれていった。
その時、エオゼルは安堵と諦念に満ちた表情を浮かべた。
フェイト「あ・・・・・・」
あまりにあっけなく攻撃が通った事に、フェイトは唖然とした。サイコ=ブレードの波動による分子破壊にて、エオゼルの胸は消滅していた。
フェイト「ッ・・・・・・」
ためらいながらもフェイトはサイコ=ブレードを引き抜いた。
ポッカリとエオゼルの胸には穴が空いており、そこからは光と機械の断片がのぞいていた。
すると、エオゼルは微笑みを浮かべた。
エオゼル『お見事・・・・・・。やはり、あなたはあなただったようですね、フェイト。いえ、フェイト・ザ・スカイナイト。ですが、フェイト。あなたの前世が何であったかなど、本当は関係ないのです。今のあなたを感じなさい。今のあなたが何者か、そして、今のあなたが何を思い生きていくべきなのかを考えなさい。そうすれば、過去の因縁は断たれ、未来への道が開けていくのですよ。フェイト・・・・・・』
そして、胸からは亀裂が生じ、次々に機械の体は分解されて
いった。
エオゼル『運命点(うんめいてん)を突(つ)かれてしまえば、成(な)すすべもありませんね。さらばです、フェイト。そして、その仲間達よ。
ですが、これが最後の別れではありません。待っていますよ、フェイト達よ。私は月面にてあなた達を待ち続けましょう。来(きた)るべき月面戦争のその時まで、
このエオゼル・アアマッシュ・マルズは待ち続けるのです』
さらに涙流せし魔神(アアマッシュ)の名を持つエオゼルは予知者の如(ごと)くに続
けた。
『人の子が月に住まいし時、
月面に逝(ゆ)きし七つの竜核より、
七つの聖堂が築かれるであろう』
『だが、時と共に月面に聳(そび)えし七つの聖堂は闇に飲まれ、
星々の守護は失われる。
その時こそ、666の複製体が白卑(はくひ)の皇(おう)に選ばれるのだ。
彼は皇(おう)の代行者として、世界(アーシア)に混沌を運ぶ。
それは黙示録(もくしろく)の始まり』
『セピア色の絶望が夜を焦(こ)がし、
様々な終末が世界を襲う。
ソールとマーナの義兄妹(きょうだい)は悪しき狼(ろう)獣(じゅう)により、
天に散るであろう。
それを契機に最後の調和は乱れ、在(あ)りしえぬ魔が
天地に蔓延(はびこ)るだろう』
『ラッパは白き異形を引き連れるだろう。
鐘は赤き妖魔を呼び寄せるだろう。
それらの奏(そう)具(ぐ)は骨により形なされる。
もはや人々に逃げ場は無い』
『かつてとは違うのだ。
望まれずに生まれたこの世界(アーシア)には、
救世主(メサイヤ)は生まれ出ない』
『でも、それでもと貴方(あなた)達(たち)は抗(あらが)うのか?
ならば、一片の希望を残そう』
『星霊を移しなさい。
二つに分かたれた星霊を
元に戻しなさい。
そうすれば百年の猶予は
許されるでしょう』
それらを語り終え、満足した表情でエオゼルは目を閉じた。
次の瞬間、波動がエオゼルの体内から吹き荒れ、それに伴う閃光によりフェイト達は視界を奪われた。
気づけばエオゼルの姿は無かった。
辺りは瓦礫の山であるが、それには一定の調和があった。
空には星と月が輝き、それはフェイト達に予感を与えた。
フェイト(行くのか?いずれ、そこへ?俺は、俺達は)
フェイトの瞳に月は吸い込まれるようになった。
エピローグ
トーイ市の警察機関では会議が開かれていた。
ホワイトボードには『連続超越事件・秘匿捜査本部』と書かれている。
捜査本部の長である主管部長は告げた。
主管部長「諸君等も知っての通り、我らがトーイ市において、
特異な超能力事件が連続して発生している。
その内、7件に関しては、首都警察本部からの要請で
捜査が打ち切られている。聖王アドニス陛下よりの勅命との話であれば、我々には疑問を持つことすら
許されない。
だが、その8件目のストラス・ファサ宅での超能力破壊事件。9件目の浮遊遊具の暴走と墜落事件。
さらには10件目にあたる廃遊園地における超能力破壊事件は一昨日となる。
我々、トーイ市は独立行政都市にあたる。
その歴史は古く、デス・エクス・マキナ大戦においても、このトーイ市にて人類の反撃が始まったとも言える。
故に、本来ならば首都警察に干渉されるいわれは無いのだ。
だが、聖王様の名を笠に着られては我々も手が出せなくなってしまう。
しかし、今回の事件は超能力者と吸血鬼による戦いという側面が覗える。そう、何者かが我々に代わり、吸血鬼やその眷属(けんぞく)を狩っているのだ。
これは道徳的には許されるかも知れないが、法的には断じて許される行(おこな)いでは無い。
必ずや、この独善的な正義執行者を捕まえねばならない。
とはいえ、気をつけたまえ。
これらの事件、いくらでも目撃者が居そうなものだが、全くといって証言者も証拠も出てこない。
犯人を含めて、何者かが隠蔽工作をしていると見られる。
さらには首都警察に知られずに捜査を進めねばならない。
諸君等の健闘を祈る』
そして、主管部長は立ち上がり、それと共に他の捜査員達も
立ち上がり敬礼をするのだった。
フェイト「ファァァ・・・・・・」
その頃、フェイトは放課後の教室で欠伸(あくび)をしていた。
フェイト「誰か俺の噂してるのかな?」
エミリア「それを言うならクシャミでしょ」
フェイト「そうとも言う」
対して、エミリアは溜息をついた。
エミリア「ていうかね。もうビクビクしながら生活してるんだよ」
フェイト「へぇ」
エミリア「何よ、その気のない返事。だって、よく考えたら、
前の事件もその次の事件も、結構な事件でしょ。
ニュースでもやってるし」
フェイト「そうだな」
エミリア「私達、捕まっちゃうかも知れない!アーン!」
フェイト「まっ、何とかなるんじゃない?今までも何とかなってたし」
エミリア「その脳天気さを見習いたいわよ!」
フェイト「まぁまぁ、落ち着いて」
エミリア「これが落ち着いてられるか」
フェイト「まぁまぁ、ご飯を奢(おご)るからさ」
エミリア「え?ほんと?私、パスタとかピザとか食べたいな」
フェイト「分かった。ブローに作るように言っとく」
エミリア「って、ブローの手作り料理かい!」
フェイト「えぇ、だって俺、金無いし。それに、あいつの料理おいしいぜ。プロ並っていうか」
エミリア「はぁ、もう、それでいいわよ、それで」
フェイト「じゃあ、メールしとくよ」
と言って、フェイトは折りたたみ式の携帯を取り出した。
エミリア「あんた、スマホ持ってないの?骨董品(こっとうひん)じゃない、それ!」
フェイト「だって、スマホすぐ壊れるじゃん。戦闘に持ってけないよ。大体、転生したらスマホが流行ってて対応できないんだよね、俺。ちなみに、昔は電波が悪くて、通信量に制限があって、50文字以内とかで頑張ってメールを送ってたんじゃよ」
エミリア「なんで、お爺ちゃん口調なのよ・・・・・・」
フェイト「ま、電波状況が軌道エレベーターのおかげで改善したのは良い事だけどさ。あ、メアド交換する?」
エミリア「もー、何でも良いわよ・・・・・・」
フェイト「って、その携帯、赤外線交換に対応してないのか。
旧式だなぁ」
エミリア「最新式なのッ!」
と、怒られるフェイトであった。
ブロー「よー、よく来たな。さぁ、カモン、カモン」
玄関口でブローはフェイト達を快く招いた。
そして、椅子に座りながら料理を待ってるフェイト達。
エミリア「ねぇ」
フェイト「ん?」
エミリア「フェイトって、これからどうするの?」
フェイト「どうするって、どうもしないけど」
エミリア「真面目に答えて。なんか、どっかに行っちゃいそうで、私、怖いよ」
フェイト「しばらく、その予定は無いけど」
エミリア「でも、ありえるんだよね」
フェイト「そりゃそうさ。昔は世界中を飛び回ってた気がするよ。記憶も断片だけど」
エミリア「そっか・・・・・・よし、決めた」
フェイト「ふーん」
エミリア「そこは、《何を?》って聞きなさいよ」
フェイト「あんまし、聞きたくないんだよね。俺の超能力的-勘(かん)が
告げてるんだ」
エミリア「もー、このバカ!オタンコ無し!」
フェイト「それを言うならオタンコナスじゃね?」
エミリア「何でも良いのよ、このタコ!ともかく、決めた。
もし、フェイトが旅に出てしまう時が来ても、私も付いてく」
フェイト「えぇ?止(や)めた方が良いと思うぞ。絶対、後悔するから、俺なんかに付いてきても」
エミリア「ともかく、決めたの。二言は無いわ」
フェイト「えぇ・・・・・・」
と、困るフェイトであった。
エミリア「それに絶対に後悔なんかしないもん」
すると、ブローが後ろから料理をドンと置いた。
ブロー「面白そうな話してるじゃねーか。俺も付いてくからな、
その時は絶対。置いてっても地の果てまで付いてくから
覚悟しとけよ」
エミリア「えぇ、ブローも来るのー?」
ブロー「おい、なんだ、その嫌そうな顔は!」
エミリア「別にー」
ブロー「おい、フェイト。エミリアに何か言ってやれ。相棒の
ブローが居ないと何も出来ません、って」
フェイト「うーん?まぁ、料理係は必要か?」
ブロー「そこかよ!俺の存在価値、そこだけ?!」
と、ブローは泣き出すのだった。
そして、フェイトは肩をすくめて、料理を食べ、ニコリと微笑(ほほえ)みを見せたのである。
星々の運命を担(にな)う三人の物語はここから始まる。
たとえ、世界の滅びが免(まぬが)れ得(え)ぬとしても、
人が影の見る夢に過ぎぬとしても、
彼らは運命の道を信じ進み続ける。
いずれ無くなるであろう所のモノだとしても、
今、かくあるべき所のモノなのだから。
そして、汝は彼に、彼は汝となりて、運命は継承される。
その果てに、救いはあまねくに亘(わた)り渡されていくのだ。
ドラゴン・イーター・フェイト キール・アーカーシャ @keel-a
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