着衣の王様

トマトも柄

第1話 逃げ回るオジサン

ここでは、盛大なパレードが行われていた。

皆は、王を見て不思議そうな顔をしていた。 そのパレードは、一つだけおかしな所があったからだ。


王様は服を着ていなかったのだ。 しかし、これも決められていたこと。 ここは、筋書きが決められており、王もこうなるのは分かっていたことなのだ。


〈運命の書〉 その本には、役割が与えられており、彼らはその書かれていた物語に沿って動かなければならなかったのだ。

この王様もその役割を与えられた人である。


裸の王様は周りをキョロキョロと見て、まるでタイミングを計っているかのように確認している。


(子供の声が聞こえて、わしが顔を真っ赤にしながら、裸でパレードを行う。 それで、運命の書の話は終わりじゃな)


そう思っていたが、全く子供の声が聞こえず、王は不安になる。 そして、王は後ろを確認するように見た。 そこには、住民の姿ではなく、黒い獣が並んでいた。 王は甲高い悲鳴を上げて、走って、パレードを駆け抜けた。




ーーエクス達一行は、カオステラーの反応があるという想区に来ていた。

「ここが次の想区ね」

レイナは三人に話し掛けた。

「いきなり、ヴィランが出てくるってことはなかったね」

エクスは安心な気持ちを口に出すかのように答えた。


目の前に見えているのは、綺麗な青空と整備されている道路だった。

タオは、街のある方向へと指差して、

「お嬢、遠くの方に街が見えるぜ」

「じゃあ、まずはそこで聞き込みしましょう」

そう言って、レイナ達は街のある方向へ向かおうとする。

「待って下さい」

シェインは三人を呼び止めた。


三人は後ろにいるシェインに振り返り、どうして?みたいな顔をしている。

「向こうから来てくれるみたいですよ」

シェインの見ている方向を見ると、慌ただしい音を立てながらエクス達に近づいてくる。


エクス達は目を細めて見てみると、パンツ一丁のおじさんが何かに追われるようにこちらに向かって、走ってきているのだ。


「不潔!」

その姿を見て、レイナは真っ先に放った一言だった。

「お嬢の言いたいことは分かるけど、何故あんな格好なんだ?」

「タオ兄。 その質問は後にした方が良いみたいですよ」

よく見ると、おじさんの後ろには、大量のヴィランが押し寄せていた。


「あれはヴィラン! タオファミリーの出番だぜ」


その合図とともに、四人は導きの栞を空白の書に挟み、ヒーローにコネクトした。

エクスは紳士的な格好をした謎の男、ハンプティ・ダンプティ。

レイナは魔法使い、エイプリル。

タオは妄想を見る老兵、ドン・キホーテ。

シェインは大人のレディを目指している少女、アリス。


それぞれのヒーローにコネクトし、四人はヴィランに向かって、走った。

お互いの距離が近づくと、アリスの弓の牽制にヴィランを一匹ずつ仕留めていく。

数匹のヴィランが四人の存在に気付き、標的を変えようとしたが、その向きを変えている途中にハンプティの斬撃によって斬り伏せられていく。

エイプリルはおじさんのそばにつき、ヴィランが近づかないように、護衛に回った。

そして、ドン・キホーテの強力な一閃により、残ったヴィランを一掃した。


4人はヴィランを倒したのを確認してから、コネクトを解除し、おじさんに近づこうとした。

しかし、近づこうとしているのが、エクスとタオだけということに気付き、タオが後ろの二人に、

「話を聞くんじゃないのか?」

「不潔なので、近づきたくありません」

シェインのキツイ言葉におじさんはショックを受けている。

「パンツ一丁なのも何か理由があると思うんだ」

「そうだよ! 理由があるんじゃよ。 聞いてくれるかい?」

エクスの反応に食いつくように、おじさんは話を始めた。

「その前に、聞きたい事があるの」

おじさんの話の前にレイナは確認するように聞いた。

「ここは何の想区?」

「ここは裸の王様の想区だ。 君達も、役割に入っているだろう?」

その答えにレイナはこう答えた。

「私達の本には何も書かれてないの。 つまり、空白なのよ。 だから、色々な想区へ行って、旅をしているのよ」

おじさんはヘェ〜と声が漏れる。

「さっきの黒い獣みたいなのを倒すのもできるのか?」

「えぇ、できるわ。 そのあなたが言ってる黒い獣の親玉を倒しに来たのよ」

「本当か!」

そう言って、レイナの方に走って近づいて行くが、おじさんはレイナから強烈なビンタを食らった。

「せめて、服着て下さい!」

「服は全部城にあるんだよ。 靴も途中で脱げて、どっかいってしまったし……」

「靴ならありますよ」

シェインの予想外の言葉におじさんは周りを見渡す。 少し離れたところに靴が落ちていたのだ。

「ありがとう!」

そう言って、おじさんは駆け足で靴を取って、履いて、駆けて、こちらに戻ってきた。

「では、よろしくお願いします。主役さん」

シェインが確信を得たかのような話を出した。

「何故、わかったのだ! このわしが王だと!」

全員が無言になった。

想区の名前は裸の王様、目の前に裸のおじさん……。

これで、分からないという人はさすがにいないだろう。

新たにパンツ一丁のおじさんを仲間に加え、エクス達は街へ向かった。

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