不可解な目撃情報

『キュリオ様、失礼いたします』


「入れ」


かしこまったような声が扉の外からかかりキュリオが答えると、若い大臣の一人が深く頭を下げながら入ってきた。


「赤ん坊の発見された場所、その容姿から現在付近の村や町をあたっております。

今のところ有力な情報はありませんが、いささか気になる目撃情報がありまして…」


「…話を聞こう」


二人はキュリオの部屋の一角にある白銀の細工が施されている美しいソファに腰をおろした。大臣の話を聞きながら運ばれてきた紅茶のカップを手に取ると、民に目撃されたというその内容がにわかに信じられず…女官に抱きかかえられている赤ん坊に目を向けると静かに呟いた。


「…まさか、な」


「赤ん坊が関係しているかどうかはわかりませんが、その衝撃ののち、あの泉の水が干上がってしまっていたのは事実のようです」


「…警戒心の強い聖獣の森に足を踏み入れる者がそういるとは考えにくいが、第三者が関係していると考えるのが妥当か…」


(我が子を捨ててしまおうと考えている者が聖獣の森に立ち入るようなことがあれば…彼らに心を読まれ、自らの命さえも危険にさらされるはずだ)



「ええ、

キュリオ様のお力が行きわたるこの悠久の地で、泉が枯れるようなことは今までに例がありません」



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